第123話:取材のための帰省1







 7日間の帰省、初日は午前中にダンジョン省へと担当神に送ってもらって西山たちに挨拶をする。

 いきなり香川に飛ばないのは、彼らへの挨拶と、ほとんど意味をなさないだろうが、一颯たちが香川だけで取材するということを悟らせないためである。

 まあこれはすぐにばれるだろうが、やらないよりはましだろうという措置である。

 そしてそのまま成田空港へ移動して貸し切りのプライベートジェットに乗って高松空港へと向かう。


 帰省初日の本日は時間が中途半端ということもあり実家に直行。

 2日目、朝にダンジョン省の人が迎えに来るので金刀比羅宮へと取材に行く。

 その時に色々見学させてもらうことになっているので丸1日使う予定だ。

 3日目、この日は高屋神社の取材とちょうさの資料館の取材、秋祭りを執り行う琴弾八幡宮への挨拶とお参り、あとは実際に秋祭りに密着させてもらう叔母の住む地区のまとめ役の人達への挨拶。

 4日目から3日間は秋祭り参加である。

 で、最終日7日目は実家でのんびりして8日目朝に飛行機で東京に戻ってダンジョン省で西山大臣たちに挨拶して帰る手筈である。


 3日目が予定ぎゅうぎゅうで大丈夫かと朧たちにも言われたが、この日に予定がぎっしりなのは、隣とは言えどもそこが一颯の生まれ育った町で、祭についてはそこそこ知識があるためである。

 逆に金刀比羅宮に丸1日使うのは初詣くらいでしか行ったことがなく、何も知らないからというのと、一颯が完全なインドア派で体力がなさすぎるため、石段登りに時間がかかると踏んだためである。

 まあ最終手段朧か矢馳か深山がおんぶするという手があるのだが、閑話休題。


 そして秋祭りに一颯たちが密着取材と言う名の参戦の報は叔母夫婦から地区のまとめ役へ、まとめ役から秋祭り参加各地区のまとめ役へと伝えられている。

 そこから先に広がっているのは分からないが、コメントでそれらしきものがないので多分まとめ役付近で情報が止まっているのだろう。


 後、配信で7日間と言ったのもある意味間違いではない。

 正確には7泊8日。ただし、8日目は本当に帰るためだけの日なのでカウントしなかっただけである。









 さて、現在の一颯達は既に空の上である。

 早々に西山大臣たちに挨拶して飛行機に乗り込んだのだ。

 まあ、成田空港に到着したと同時に野次馬に囲まれはしたが。


「そうそう、秋祭り参加の表の理由はうちのモンスたちが興味示したからって言うてるんでそれで通してもらうます。本当の理由知ってるんはわたしの家族と叔母夫婦とお世話んなる地区のまとめ役の人、取材先の人達だけなんでよろ」

「汝、もっと早く言えなかったのか」

「忘れてた」


 けろっとしている一颯の脳天にため息と共に朧からチョップが入れられる。


「まああながち間違いじゃねーしな!おれとか祭見たさに主についてきたし!」

「わたしなんてほぼ野次馬根性だしね」


 爽やかに笑っている矢馳と開き直っている深山に朧から何とも言えない視線が飛んだ。


「他の取材先はどうごまかすつもりだ?」

「新エリア微修正のための取材もしくは観光?」

「………それで騙されるか?」

「さあ?まあ、答え合わせはしてないけど、新エリアのモチーフ大分暴かれてるし、リリースした後になんで来てんの?的な視線は貰うと思う。そこから祭に繋げられる人がどれだけいるかっていう話ではあるんやけど、秋祭り参加したら多分そこそこ祭のための取材ってかぎつける人は出てくると思われ。でもそれでもええやん?」

「まあ汝がそれで良いのであれば我は構わぬが」

「ダンジョン省の人はついてくるのかい?」

「はい、同行させていただきます」


 飛行機に同乗しているダンジョン省の女性がしっかりと頷く。


「ただ、同行させていただくのは取材のみでして、秋祭りに関しましてノータッチとなります。お祭りに政府の堅苦しいのが付いて回るのはお祭りを楽しみにしている人たちにもよくないだろうという判断なので、その、くれぐれも!お気を付けください!」

「おkです。一番危ない深山はわたしが止めるます……反応できたらになりますけど」

「……そ、それで大丈夫です」


 キレた瞬間管をぶっ刺す深山のその反応速度に一颯がついていけるとは一切思っていないのだろう、ダンジョン省の女性はそっと視線を外した。


「まあ我も気を付けてみておく故、安心せよ。ただし、自業自得と判断した場合は死なせるような怒り方でない限り放置するがな」



「献血やと思って諦めてもろて」

「献血」



「深山さまに血を献上するって意味だとあってるかもな!」

「まあ、お馬鹿さんがいたら、だけれどね。いないにこしたことはないだろう?主様の面子もあるんだし」


 一颯の言葉に真顔になったダンジョン省の女性に曇りなき笑顔の矢馳の言葉と特に自重する気のない深山の言葉がぶつかった。












「姉ちゃんおかえりー!」

「おまいなんでまたおるん……?岡山住みの癖に。何なん、こっちに引っ越してきたん?」

「ちゃうよ、一時帰省。帰ってくるって聞いたから帰ってきた!わたしは今んとこ専業主婦やけん、姉ちゃんおる間は実家におるよ」

「旦那どしたん?」

「仕事。めっちゃ渋々出勤してって笑える」


 高松空港から車で実家まで送り届けられた一颯たちは、以前帰省した時同様妹に出迎えられていた。


「こら、一颯たちが帰ってきたんならはよ中にれえ!」

「あ、はーい。朧さま久しぶりです!深山さまと矢馳くん初めまして!ゆっくりしてってな!」


 家の奥から祖母のお叱りが飛んできて肩をすくめた後、ようやく一颯達は家の中へと入っていった。


「ここが主様の実家」

「ボロいやろ」

「いや、趣があって良いね。わたしはこういう雰囲気好きだよ」

「さよか」


 きょろきょろ見ながら靴を脱いで上がる深山は目をキラキラとさせている。


「あ、姉ちゃん部屋どうする?姉ちゃんの部屋狭いけん、4人は入らんやろ?」

「わたしの部屋は朧と矢馳が使い。わたしと深山はおまいの部屋に転がり込むわ。おまいの部屋広いし」

「了解ー」


 妹の部屋は一颯の部屋の隣なので、モンスターが現実世界で活動するための創造主からの距離内に入っているので問題はない。

 朧と矢馳も頷いてとりあえず荷物を部屋へと運び入れてリビングへと妹に連れられて行く。


「今回はおまい以外の親戚おらんの?」

「姉ちゃんがお世話んなるおばちゃんとおっちゃんはきてるよ」

「お……っ」

「朧さんやなくて!わたしらのおじさん!おばちゃんの旦那さん!」


 そういや本名だったな、と目を見開いて言葉を失った朧へ向かって慌てて自分たちのおじだと伝える。


「あ、ああ……いや頭ではわかっておるのだが……うむ、こう、なんというか、拒否反応が……」

「おまいら龍王の珍名はなぁ、しょうがないところあるしな」

「……はあ」

「朧さま、大丈夫か?」

「……前回、主と共にここに来た時もおっちゃんという単語に反応してしまってな……今回もこれよ」

「おじがいればかなりの確率で呼ばれるものだからね、朧さまの本名」


「草」

「草ではない!」

「ぐえー」


 一言、呟いた一颯の頭を掴んでぐぐぐと力を入れる。


「縮む。おまい、わたしはひ弱なんやぞ!」

「ふん!」

「じゃれてないで入ってい。ばあちゃんぷりぷりしてるけん」


 リビングの扉が開かれてひょこっと母が顔を出して手招きをする。


「全く、いくつになってもあんたたちは!」

「まあまあ婆さん落ち着きい」


 リビングに入ればぷりぷりしている祖母の横で祖父が彼女を宥めているし、呑気に叔母夫婦とその息子、一颯と妹にとっては従兄が手を振っているし、父はのほほんと茶を飲んでいる。


「おー、おかえりー」


 従兄の呑気な声に応えながら一颯たちはリビングへと入っていった。


「叔母さん、叔父さん、秋祭りん時はお世話になるます。物凄い迷惑かけるけど、よろしくおねしゃす」

「ええよええよ。わたしらも楽しみにしてるし、うちのお偉方とかそわそわしっぱなしでなんも知らん人らから胡乱気な目向けられてたりもするし」

「……明後日挨拶に行かせてもらうけど、行って大丈夫?」

「問題ない問題ない。明後日で全部ばれるんやし」

「それもそうか。挨拶はちょうさ置いてる場所でおk?おじさんが連れてってくれるっていう話やけど」

「おう。そこでええ。まあ、祭前日やけん、お偉方以外の誰かしらおるやろうし、そっから広まるやろ。それはそうと明日はおまえらどうするん?」


「明日はこんぴらさん行って来る」

「姉ちゃん、体力大丈夫?途中でくたばらない?」

「絶対くたばるけど行く。最終兵器、おんぶという手があるんで」

「あー……」


 にこにこ笑顔でご機嫌な母に湯飲みを渡されている朧、矢馳、深山をちらりと見て妹は納得した。

 この絵に描いたようなインドア派の姉があの石段を登り切れるなんて思ってないし、なんなら早々にギブアップする予感さえしている。

 ただ一颯はおんぶ、と言っているが荷物みたいに脇に抱えられたりしないだろうか。

 配信を見ているとよく脇に抱えられて仕事部屋から出されている情けない姿が映っているし。

 一颯が帰ってくるからと彼女が好きだった老舗の和菓子屋で練り切りを買ってきていた父がいそいそと冷蔵庫から箱を引っ張り出すのを見ながら妹は祖母からぐちぐちと小言を貰いながらそれを右から左へ流している姉を見てふうと息を吐き出した。



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