第122話:帰省告知






 新エリアは無事リリースされて、連日大盛況である。

 雲海エリアもすでに何度か出現していて、その度に落下で面白ポーズ選手権でもしてるのかというような有様になっているのはなぜだろうと一颯たちは首を傾げていたりもする。

 リリースは夏、8月頭で、そこから2か月近く経った9月の終わり、もうすぐ10月に入るかという時期に差し掛かっている。


「おまいら、取材に行く日程決まったんで護衛選ぶます」


 ふらっと仕事部屋から出てきた一颯に顔を向けた面々の間にハテナマークが浮かぶ。


「取材……?」

「おん。祭りのための取材」

「ああ、そういえば行くって言っていましたね」


 ぽん、と手を打って繊月が頷けばそういえば言ってたなというような視線が飛んでくる。


「はいはいはい!!おれ行く!おれ行く!!」


 勢いよく手を上げたのは矢馳。目をキラキラさせて身を乗り出している。


「おk。なら1枠は矢馳な。他は?」

「ちなみに何泊だ?それといつからだ」

「7泊。時期は10月中旬。丁度そんくらいの時にわたしの実家のある場所じゃないけど、お隣さんが秋祭りやるんで実物みれるんよ。叔母さんとこの地区を取材させてもらう手はずになっとる。あとは父さんの伝手でうちの地元にもアポとったから、そこの取材と、高屋神社、ちょうさの資料館、こんぴらさんのも。7日で回り切るんでスケジュールびっちり」

「秋祭りの時期に帰省とか、よくダンジョン省が許したな?」

「交渉に交渉を重ねて許可もろた。粘り勝ちでござる」


「……矢馳は決定というが、耳と尾が目立つな。まあ、仕方あるまい。残り1枠は我で良いな?」


「目立つと言いつつくそ目立つ代表なおまい自身が名乗り上げるのは流石に大草原不可避」


 そこはぱっと見人間と変わらない人選じゃないのかと言わんばかりの視線が朧に突き刺さる。


「あともう1人、私が行くよ」

「え、護衛2枠埋まったんやけど」

「3枠になった前例あるからいけるいける」


 すっと手を上げたのは深山。にっこり笑顔でごり押ししてくる。

 確かに護衛が3枠になった前例はあるが、あれは戦闘能力皆無の大介と妙が護衛枠を食いつぶしたが故の特例で、矢馳と朧が来るのなら護衛として十分すぎるんだが?と言わんばかりの表情を一颯は作る。


「流石に男2人に主様1人は不便だろう?」

「我1人ついていった時は別にそんなことはなかったが?」

「その時と今回はまた違うと思うんだよね」

「……そうか?」

「そうだとも。というわけで担当神殿、良いかな?」

“仕方ないですねぇ。護衛3体ってダンジョン省に伝えます”

「ありがとう」


 全く持って仕方がないという感じのしない軽い口調で担当神が許可を出したので深山は笑みを深めた。


「さてはおまい、わたしの実家みてみたいだけやな?」

「……なんのことかな?」


 ふいっと視線を逸らす深山をジト目で見た後、小さくため息を吐きだす。


「……まあ良き。なんで、取材のための帰省の間は錦、よろ」

「うむ。任せよ」

「妾もいるし、大丈夫よ。楽しんでいらっしゃいな」


 朧が付いてくるときは大体錦がまとめ役になるので今回も任せることにした。

 錦も心得ているのですぐに頷いているし、馨もいるから大丈夫だろう。


「あ、それから今回は祭りの時期にぶち当たる感じで帰省決定したんで、野次馬の無断撮影は目を瞑ることにしますた。ダンジョン省にも伝えておk貰ってるんでよろ。祭りやのに動画撮影や写真撮影不可とか無理すぐるんで」

「ふむ、まあ良いだろう。主のいう事に一理ある」

「おれも大丈夫だぜ!」

「まあ、仕方ないね」

「それと、ちょうさの資料館の取材日、資料館の方から動画撮って良いかっていう申し出があったんで許可だしたんでそっちもよろ」

「了解した」

「高屋神社と金刀比羅宮はそんな申し出なかったんで多分ないとは思うんやけど、当日申し出があれば許可出すつもりなんでそこもよろ」

「まあ、よかろう。1か所だけ許して他は却下とはいかぬでな」

「それもそっか!分かった!」

「今はそれくらい……?なんで3人は荷造り進めてクレメンス」

「分かった!」


 矢馳の元気な返事を聞いた後、朧と深山も頷いた。















「10月中旬、7日間帰省するます。その間、責任者は錦になるんでおまいら、よろ」


《了解であります!》

《久しぶりの土方さんだぁあ!》

《まじで久々すぎる!!!》

《7日間の帰省とか最初以来じゃね?》

《何かするんの?》


 久しぶりに配信にしっかりと映った土方にコメント欄が加速していく。


「取材に行くための帰省よ。取材箇所が多い故に7日間帰省することにしたのだ」


《取材!?なんの取材?!》

《あー……創造主ってダンジョン作成の資料集めの制限かなりきついって聞くし、その為に帰るんか》

《特に土方さんは現実世界でモチーフ探すことが多いからそのためかぁ》

《おまい、8月頭に新エリアリリースしたばっかりなのに、もう次のエリアのための取材???ペース早いな?》


 コメント欄は新エリア作成のための取材と勘違いしているコメントが多いが、それを一颯たちは否定しない。


「あとは実家でゆっくりしてくるます。もう流石にわたしらが帰っても騒ぎにはならんやろ」


《それはどうかなぁ!!!》

《無理だと思う》

《何故大丈夫だと思った?》

《毎年の様に実家帰省する沖田くんと斎藤ちゃんの騒ぎをご存じない??》

《田舎だから大丈夫だとか思ってたら大間違いだからなぁ!!》

《まあ、実家帰る宣言したから、予告なく帰るよりは騒ぎにはならんとは思うけど》

《10月中旬だと……?》

《土方さんの実家がある場所の地元民だが、日によってはどえらいことになりそうな予感するんだが》


 配信を見ているらしい一颯の実家がある場所の地元民が反応しているがコメントの流れが速いのですぐに流されて消えて行った。

 地元民は10月中旬に秋祭りがあることを知っているのでそれに反応しているのだろう。

 ただそのコメントは他の視聴者に触れられずむなしくも流れてしまった。

 ここで地元民のコメントを拾って反応するコメントがあればまた違ったのだろうが、そうはならなかった。

 まあ、とはいえ、地元民のコメントに反応したコメントがついたとしてもモンスターたちはスルーして一颯に教えることはなかっただろうけれど。


《護衛だれ?》

《そういや護衛枠誰だろ》

《土方さんは帰省の度に護衛の人選変わるからな》


「我と矢馳と深山よ」


《3人!!》

《またついていくの朧さまwwww》

《まって、土方ダンジョン短気モンス代表の深山さま来るの!?》

《皆のもの!気をつけよ!!!》

《あまりにもあれな感じになると血祭!》

《そして矢馳くんも朧さまもストッパーにならない恐怖》

《みんなお行儀よく!お行儀よく!!!》


 配信画面端でニコニコしている深山が映っているものだからコメント欄が阿鼻叫喚である。


「草」


《草じゃねえんだよなぁ!》

《草はやさんでもろて!!》

《笑いごっちゃねえ!!》


 真顔で草と口にした一颯に対して怒涛のツッコミがコメント欄に溢れかえった。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る