第114話:βテスト3








「おいリーダー。なんで合流を先にしなかった?」

「すんません……」


 二股大根(仮)から逃げ出した先で、別の場所をスタート地点にされていたダンジョンマッピング部隊の残りのメンバーと合流し、リーダーがボロボロになった事情を話した瞬間、合流したメンバーの中にいたサブリーダーのこめかみに青筋が浮かび上がり、ぴっと人差し指で地面を示した。

 瞬間、逃げてきたメンバーが一斉にその場に正座したのが今の状況である。


「運が悪いのか、神さまがそこまで考慮してくれなかったのか分からんが、まあ見事に戦闘部隊と調査部隊で別れちまったわけだが、リーダーたちは戦えねえわけじゃないだろうが。なんで逃げた」

「つい……反射的に……」

「お、おれら確かに戦えるけど、それはお前らの戦い方を観察した後だったらっていう前提があるわけでして……あの、初見の敵は無理なわけでして……」


 仁王立ちしているサブリーダーから視線を逸らして言い訳を繰り広げる正座しているメンバーたち。

 ダンジョンマッピング部隊はマップを埋めて、採取物の場所を記録していくのが主な活動内容なのだが、メンバーは主に調査部隊と戦闘部隊に分けられている。

 戦闘が得意ではないメンバーとマッピングはしたいがそれはそれとして調査が雑で見落としがちな戦闘メンバーの2タイプの探索者がいる。

 今回のβテストではそれぞれから半々で選抜して参加していたのだが、まあ見事に調査部隊と戦闘部隊で別の場所がスタート地点になってしまったのだ。


「普段の活動は調査部隊と戦闘部隊でコンビ組むかチーム組むのがルールだろうが、全く。好奇心が強いのは構わんが、まずはおれら探してくれよ。おれらだってリーダーたち探してたんだからよ」

「すんません……」


 ため息を吐きだした後、しゅんとしているリーダーを立ち上がらせる。


「擦り傷打ち身以外の怪我は」

「分からん。痛みの度合いから骨はイってないと思うけど」

「念のために治療所行くか」

「分かった」


「田園はおれらの他に消防の人たちいたけど、どうする?」

「おれらは茶畑がスタートだったがあっちはどうなんだかわからん。リーダーたち探すのを優先したから他のβテスターいたか確認してねえわ」

「おまえらいるんだったら、仮名として田園エリアって言うけど、そこの調査したいなぁ。畑のあの採取物とモンスターのランダム具合が気になるし、田んぼの採取ポイントも知りたい」

「分かった。じゃあおれらマッピング部隊は今日は田園エリアの調査ってことで。おれは治療所行って来るから、お前らはペア組んで調査開始してくれ」

「おれぁ念のためリーダーについてくから頼むぞ」

「りょうかーい」


 その場からリーダーとサブリーダーが消えたのを見届け、残りのメンバーは2人1組になって田園エリアへと散って行った。













「おれらはどこを主に調査する?」

「盆地エリアはマッピング部隊が張り切りそうだし、モンスター系はボス挑戦部隊が張り切るだろ。総合的には多分慣れてる自衛隊がやると思うし、警察と消防は分からんが、ぼくたちみたいに何かに特化はしてないと思うから満遍なくやるんじゃないかな。それを念頭に置いて……さて、ぼくたちはどうしような」


 ダンジョン天文学部のリーダーがそう答えて北の山に見える建物を見る。


「茶畑エリアにはぼくたちとマッピング部隊の一部と消防の人がちらほらいた。多分マッピング部隊は残りのメンバーと合流するの優先すると思うんだが……ぼくたち天文学部の残りのメンバーどこにいるんだろうな」

「まあ、おれたちはマッピング部隊みたいにコンビ組んだりするようなルールないから好きにしたらいいとは思うがな」

「ひとまず、北の山と中央の山が気になるんだよな」


 山頂に城がある中央の山、何かの建物がちらちらと見える北の山。


「じゃあここから近いし、まずは中央の山行くか?」

「そうしよう。ちょっと個人的にこの新エリアの地形が気になっていてな」

「地形?」


 中央の山に向かって歩きながら呟いたリーダーの言葉に首を傾げる。


「ああ、これだけ広大なのに、エリアを分割して別々にリリースしない理由、四方を山に囲まれた上でエリア中央にある少しだけ低い山。山頂に見える城、それらを囲むように流れ、四方に分かれて伸びている川……何かありそうなんだよな。今回も土方さん何かギミック組んでそうで」

「……言われてみれば?」

「土方さんが仕込んでくるギミックの特徴として、採取物の出現条件に時間帯や天候、天体の動きとかを条件にしていたり、ホラーエリアの様に特定の木を辿って行ったりっていうのがあるわけだけど、今回もそれがありそうなんだよな。採取物なのか、隠しエリアなのか……楽しみだな」


 なにかしらが絶対あると断言するリーダーにあるかなぁ?なんて首を傾げているメンバーもいるが、何人かは確かにありそう、と頷いている。

 普段、山エリアのキャンプ場で天体観測しているグループであるが、その天体の動きから隠し採取ポイントを見つけた事もある……まあこれはマッピング部隊との共同調査での実績にはなるけれど。


「βテストは1週間しかないから、ぼくたちの活動……天体観測はほとんど役に立たないかもしれないけどな」


 βテストが1週間だけなのは残念だとため息を吐き出す。


「他の組織との情報交換会……4日目の全βテスター合流の時に、それぞれが持ち寄った情報を基に気づけることもあるだろう。それまでにぼくたちはぼくたちで出来るだけ情報を集めよう」

「……そうだな」


 にこにこ楽しそうにしているリーダーについていきながらメンバーたちは「リーダーの勘は馬鹿にできないんだよな」と顔を見合わせた。












「やっと麓についた……」


 息を切らして膝に手をおいて座り込みそうになりながら声を絞り出す。

 宮崎県警から派遣されてきた3人組は山道の途中で自衛隊の人たちと別れた後、まあ見事に道に迷ってしまったのである。

 途中で猪っぽいモンスターを見つけたのでそれを追いかけて道を逸れて見事に迷子になったのだ。3人ばらけることがなかったのが幸いだろう。

 マップを頼りに道なき道を下り、なんとか麓に辿り着こうと動き、途中から鳥型モンスターのスタッフが先導してくれてやっと山を抜けられたのである。


 目の前に広がるのは茶畑。大分東に逸れていた様で、力が抜けそうになる。

 今いる場所はセーフティエリアではないので根性で座り込むのを阻止しつつ、休める場所とばかりに視線をうろつかせる。


「とりあえず、セーフティエリア見つけて、休んでから仕切り直そうぜ……」

「ああ。後野宿する場所決めないと」

「そうだな。おれらは野宿とかにも慣れてないから手間取るだろうし、早めに夜の準備しないとな」


 額から頬を伝い、顎からしたたり落ちる汗を手の甲で拭う。


「くっそ汗でべとべと……。野営準備終わった後温泉行かないと」

「事前に山エリアのワープポイント開けに行って正解だったな」

「山抜けるのに必死でなんも調査出来てないの痛いから挽回しないと」


 今はモンスターと戦闘する元気もないので道を歩いていく。

 暫く歩いていればセーフティエリアを見つけたので腰を落ち着ける。


「やべえ、疲れすぎて眠くなってきた」

「野宿の準備もあるんだし寝るなよ」

「無理かもしれん」

「……昼寝にするか」

「おれ起きてるからしばらくしたら起こすよ」

「悪い」


 ストレージから寝袋だけを取り出し、それを枕に直接ごろりと地面に寝転がった同僚2人を見守り、起きている男は丸太に座ったまま青空を見上げた。








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