第113話:βテスト2
「すっご……」
「また、凄いエリア作ったな」
えっちらおっちら山道を登ってたどり着いた先。
素朴ながらも威厳を感じる神社らしき建物。その手前に存在する石造りの鳥居。
そこから一望できる新エリア。
新エリアは四方を山に囲まれ、中央に少しだけ低い山がある盆地。
中央の山の頂上には何か建物らしきものが見え、その麓には町が広がっている。
そして、この鳥居から見える今いる山の様子。
鳥居の外から下に続くむき出しの石畳の階段、その更に下には木々に隠れつつところどころ顔を出している同じ石畳の階段も見える。
山の中腹より少し下あたりにも神社らしきものがあり、そこから更に麓にかけて石畳の階段が顔を覗かせている。
そして麓にはこちらも町。
中央の山を囲む様に川が流れていて、西には畑も半分くらいある田園風景。山に近い場所は棚田になっているのが見える。
東には茶畑。こちらも山に近い場所は棚田の様になっていて、それがこの山の麓と中央の山を繋ぎ、その奥にも伸びているのが鳥居越しによく見える。
今まで実装されてきたどのエリアとも風貌が違う新エリアの全貌が、この場所から一望できるのは凄まじいの一言。
「この建物といい、ここら一体は多分、神社エリア、ってところか」
「じゃあ麓の町は門前町エリアか?」
「多分。中央の山のてっぺんにあるのはなんだ……?双眼鏡持ってたりするか?」
「あるぞ。待ってろ」
ストレージから荷物を出して、そこから双眼鏡を引っ張り出し、友人に渡す。
「あ、山頂の建物、城だわ」
「城?」
「おう。全体的に白いのが見える」
友人から双眼鏡を受け取って覗き込めば、確かに城が立っていた。
天守閣とそれに付随する施設も揃えた本格的な山城だ。
色は白を基調にしていて山の緑によく映えていて美しい。
「土方さんがエリアを分けて実装しなかったわけがちょっと分かったな」
「ああ、こりゃこれで全体が完成してるんだ。他のエリアみたいにツギハギで実装するのはちょっと違うぞこれ」
暫く鳥居越しに新エリアを眺めた後、男は友人と顔を見合わせ合って頷いた。
「ここはおれとお前しか来てないから、このあたり調査した後、麓へ降りるか」
「だな。双眼鏡で覗いた限り、ちらほら盆地の田園とか茶畑っぽい所には人いるみたいだし、このあたりを中心に今日は動こう」
「分かった。今日は報告会もないし、いいんじゃないか?」
荷物をストレージに収納し、双眼鏡だけ別の枠に仕舞ってから男と友人は鳥居をくぐり、むき出しの石畳の階段を降り始めた。
「これ、高所恐怖症のやつは無理だな」
「ああ、麓までくっきり見えるもんな」
階段の中央に設置された手すりを掴んで降りていきながらそんな感想を抱いた。
ダンジョン省から声がかかって即決した土方ダンジョンのβテスト参加。
男が所属する探索者グループはとても有名だ。
土方ダンジョンのフィールドボス討伐を何度か成し遂げ、神様配信動画サイトにその様子がダイジェストで紹介されているグループなのだ。
今回はリーダー含めて10人が参加しているし、自分たちのグループ以外からも有名な探索者が参加している。
参加している一般探索者の有名どころは、「ダンジョン天文学部」、「ダンジョンマッピング部隊」と自分たちのところの「ボス挑戦部隊」で、ソロ探索者にも実力者として有名な顔がちらほらいる。
自分たち一般探索者が参加組織の中で一番人数が少ないと聞いていたし、一番多い自衛隊とか何人参加しているのか少しだけ気になる。
「ボス挑戦部隊」のスタート地点は新エリアの南側の山の麓だった。
近くに他のβテスターが見当たらないので他の人達は別の場所が割り当てられているのだと思われる。
ダンジョン内に飛ばされた瞬間目に飛び込んできたのは、見た目だけだと長閑にしか見えない場所だった。
「ボス挑戦部隊」はすぐに動き出さずに周囲を観察する。
「見た事ないモンスターがいるな」
「小鬼の進化版っぽいか?」
大きさとしては成人男性くらいで厳つい顔に鋭い牙と角、皮膚の色は赤だったり青だったり緑だったりする多分鬼のモンスターがのそのそと田園の中だったり外だったりを歩き回っている。
モンスターが弱いのはチュートリアルエリアと言われている水龍の都周辺の草原だけ。他のエリアのモンスターは手ごわいのが多いのである。
「βテスター全員集まっての報告会は4日目だから、それまではおれらは気ままに探索してればいいんだよな」
「報告会の場所は?」
「自衛隊から今日中におれのステータス画面のストレージに手紙が突っ込まれる」
「え、どうやって?」
「担当神さま、土方さん経由で」
「あ、なるほど」
「それはおいといて、だ。おれとしてはやっぱりこの新エリアにもフィールドボスいるのかが気になるわけでして」
「海エリアにはフィールドボスいないけど他のエリアにはいるもんな」
「海エリアはまだ出現条件踏んでないだけな気もするけど」
男たちは田園側ではなく、茶畑っぽいエリアを選んで歩き出していて、こちらはイタチの様なモンスターがうろうろしているのが見えている。
「ぱっと見は可愛いんだけど、敵性モンスターなのよね……」
クロスボウを担いだ女が残念そうにため息を吐き出す。
「とりあえず、残酷描写下げてドロップ率の確認するか」
「そうね、どうする?5%ずつ刻む?10%?」
「5%ずつだな。10%はちょっとでかすぎる」
「了解、リーダー」
採取物についてはマッピング部隊がやるだろうから、自分たちはモンスター系を調査すればいいかと武器を構えた。
「ぎゃーーー!」
「根菜かと思ったらモンスターかよ!」
「おれらマッピング専門部隊!採取物専門ー!モンスターはおよびじゃないのよ!!?」
一方、田園エリアを探索していたダンジョンマッピング部隊の一般探索者は田んぼに交じってちらほらある畑から引っこ抜いたマンドラゴラの様な、二股大根の様な何かに追い掛け回されていた。
「採取出来るやつとモンスターとが混在してて分からんぞこれ!」
「ロシアンルーレット!」
「運ゲーかい!」
「二股大根が追いかけてくるー!」
「あ、これは採取物の大根もどきぃ!」
「逃げながら引っこ抜くとか器用か!!」
「ごふっ!」
「リーダーぁ!!?」
その威力たるや。
前を走っていた自分たちを追い抜く勢いで吹っ飛んで行った程。
思わず走るのをやめてびたっとその場に立ち止まり、吹っ飛ばされたリーダーが受け身もとれずにゴロゴロと畑を転がっていくのを見送った後、すべりの悪い歯車の様にぎこちなく背後を振り返る。
そこにはゆっくりと近づいてくる二股大根(仮)。
特徴的なポーズで有名な某漫画によくみられる効果音の様な何かが背後に見える気がする。
じりじりと後ずさり、痛みからなかなか起き上がれないでいるリーダーを隊員の1人が担ぎ上げた瞬間。
「退避ぃいいい!!」
「らじゃー!」
全力疾走で畑から出ていく彼らを近くで見ていた消防から派遣されてきたテスターはマッピング部隊を追いかけていた二股大根(仮)を持って来た武器で横薙ぎに切り払って倒した後ぼそりとつぶやいた。
「何であいつら倒さなかったんだ?」
「おれたちの出発地点が田園風景のど真ん中。近くには一般探索者からの派遣がちらほらいたな。全員が同じ場所からではなさそうだ。警察と自衛隊はまた別の場所からのスタートか」
ステータス画面からマップを開いて消防から派遣されたうちの1人が呟く。
既に調査は開始されているので消防から派遣されてきた面々も散り散りになった後だ。
同じ福岡県の消防署から派遣されてきた後輩と2人、田園エリアの道を歩きながらエリア中央の山を目指す。
「っすね。断言できないっすけど、おれら消防関係と一般探索者が盆地スタートっぽいです」
「ということは警察関係者と自衛隊は山からのスタートかもしれんなぁ」
「っすねぇ。あ、中央の山のてっぺん、多分あれ城じゃないっすか?」
「……あー……城だな。白いのがよく見える」
青空の下、青青しい緑に埋もれるようにちらちら見える白いもの。
天守閣っぽいのが見えるので後輩の言う様に多分あれは城だろう。
「ここら一体が田園で、反対側が多分あれ、茶畑……か?で、中央の山に城。その向こうに見える北の山にもなんかあるんだよな。遠くて良く見えんが」
「南側のエリアがほぼ畑と茶畑なんすよね。メインは多分中央の山から北側なんだと思います」
「だな。まああの土方さんだから、南側がこのままなんもないままってことはないと思うからそのうち何かしらが出来るだろ」
「新エリア扱いになるのか、ただのアプデ扱いになるのか気になるっす」
「まあ、新エリア扱いになったとしても今度はおれらは呼ばれないだろうな」
「えー!せっかくβテスト呼ばれたのに!?」
「今回は広すぎるから呼ばれただけだろ。多分次回からまた自衛隊だけに戻るだろうよ。残念だとは思うがな」
「えぇえええ」
ぶうぶう文句を言う後輩の後頭部を軽く叩き、マップを確認する。
マップの中心には白い縁取りの先端が尖った黒いポイントマークがあって、男が向きを変えるとそのポイントマークの先端も男が向いている方へ向く。
おそらくこのポイントマーク……マウスポインターに似てる……は現在位置を示しているのだろう。
「おれは初めてダンジョンに来たが、便利なもんだな」
「そうなんすよね。日本の創造主は色々便利機能実装してくれるんでありがたいっす」
「ところで、モンスター襲ってこないんだが?」
「土方ダンジョンだと、道歩いてるだけだと襲ってこないっすよ。道から逸れてモンスターに近づかないとアクティブにならないんすわ。戦います?」
「自信ねえが、挑戦してぇな」
「はじめはチュートリアルエリアが良いんすけど、今はβテストっすもんね。おれ、大学ん時に何度か土方ダンジョン潜ってるんでサポートするっすよ!」
「お、じゃあ頼もうかねぇ」
ストレージから武器を取り出した後輩が道を逸れてたわわに実った黄金の稲穂っぽい何かが植わっている中でうろうろしている鬼のようなモンスターに近づいていくのを男も武器を取り出して追いかけた。
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