第111話:祭りの会議
「おまいら、意見を聞きたいんやけども、今時間貰っても良き?」
仕事部屋からふらっと出てきたと思えばリビングでゴロゴロしている面々に向かって一颯が声をかけた。
βテストまで1週間を切った今になって聞きたいこととはなんだろうか。
配信のコメント欄を見ながら話していた者は断りを入れて配信ページを閉じ、寝そべっていた者は起き上がり、寝こけている者を叩き起こしたりしながら一颯の前に集まってくる。
「PV撮影用の祭りは前伝えた通りの感じで行くんでおいといて、本番の祭りについてなんやけど」
「ん?本番の祭りは大分先であろう?」
錦が首を傾げて聞けば確かにという頷きがそこかしこから起きる。
「おん。やからこそ、今から動こうと思って。祭りに関しては参加したことはあっても運営側は流石にやったことないんで、PV発表後にアポとって取材に行こうと思ってるんよ。まあまだ担当さんにもダンジョン省にも打診してないから、おまいらの意見聞いて、まとめてからやけど」
「ほう」
「それで、色々ネットで調べてはみたんやけど情報が少なくてな。やっぱモチーフになった神社があるんやから、そこのお祭りをリスペクトしたいなと思って調べてはみたんよ?でも、ネットだけの情報やと足りんの。
まずこんぴらさんのお祭りは10月に3日間に渡って行われるやつみたいで、初日の夕方から舞を奉納、2日目夜に500人くらいで神輿行列ってもんやるっぽい。これが平安絵巻みたいって記事があったん見たし、写真も確かにそれっぽかった。でも、馬がうちにはおらんのよな。
で、もう1つの高屋神社やけど、こっちは春祭り。4月に行われる豊穣祈願の祭り。ちょうさっていう
ノートパソコンを渡してもらって操作し、巨大モニターにその動画を映す。
桜の花びらがひらひら舞う中で巨大で派手な赤に金糸、白や黒などをあしらったちょうさというものを法被を着た人達が左右に回したり、声を合わせて頭上に担ぎ上げたり、前後に大きく揺さぶったりしている様子が映し出されている。
「迫力があるな」
「桜が舞う中でこれは見事な」
「掛け声は……これはなんでしょうか」
「よく聞き取れないけれど、決まった掛け声があるようだね」
「これやりたい!」
目をキラキラさせる始めたのは矢馳をはじめとする元気溌剌としたモンスターたち。
「で、同じようなちょうさを使う祭が同じ市の別地区で秋祭りであって、こっちもWeTubeで動画があったんで……あと、こんぴらさんのお祭り、探し方が悪かったんか、あんまよさげな動画がなくてな……とりま、この後それ見せるけど」
とりあえず、別地区の秋祭りを見せながら一颯がぼやく。
「こっちは先ほどの春祭りの者よりもちょうさ……?の台数が多いし、それを引いている……担いでいる?者たちの人数も多いな」
「ああ、人数は単純に人口の差やな」
「なるほど」
秋祭りの動画が終了したので金刀比羅宮の祭りの動画を見せる。
「ふむ、確かにごく一部のみだな。先ほどの春祭りと秋祭りより全体像がつかみにくい」
朧の言葉に誰もが頷く。
石生がパソコンを使って調べ出したが、首を傾げている。満足いく情報が出てこなかったのだろう。
「金刀比羅宮の祭りはネット記事を見つけましたが、今一ピンときませんね。もっと動画があれば理解し易いんですが……」
「それな。わたし、香川出身やけど、こんぴらさんがある琴平の出と違うんで良く分からん件。初詣には行ったことあるけど、流石にこんぴらさんのお祭りには行ったことがないんよな」
ぽりぽりと頬をかいてため息を吐き出す。
「なら、こっちのちょうさの春祭りと秋祭りは?」
別のパソコンを使って調べたらしい矢馳が聞く。
「それは分かる。春祭りの方は実家ある場所やし」
「……実家?」
「おん」
「主様、確か天空の鳥居を知らなかったんじゃ?」
「あそこがそう呼ばれてるんモチーフとして目をつけた時にはじめて知ってびっくりしますた」
真顔の深山に真顔でそう返し、暫く沈黙が落ちる。
実家がある場所だという癖になんで今まで知らなかったのはどういうことだという視線がびしばしと一颯に突き刺さるが、知らなかったもんは知らなかったのだと彼女は開き直っている。
「ああ、どうりで見た事ある風景だと」
ぽん、と手を打って朧が納得したようなすっきりしたような表情になる。
一颯の帰省についていって彼女の実家に行ったことのある朧は車の中から見た景色を覚えていたのだろう。
だから先ほどの動画でしきりに首を傾げていたのは見覚えのある風景が映ったからだったのかと誰もが納得した。
「まあ、それは置いといて。さて、本番の祭りやけど、どうしよう?どっちベースでやる?」
「春祭りの方が良い!そっちの方が悪いけど派手で楽しそう!」
はい、と元気よく手を上げて矢馳が声を上げる。
「でも、この平安行列も捨てがたいよね。御神輿もあるし、あ、でも馬……」
「そのあたりはどうにでもなりそうだけど。うちの特色出せばいける……。ヌッコニャンでもいいんじゃ……?」
「確かに」
獅子人の1人がぽつりと呟けば同意する声が上がる。
「このちょうさというのは大きさはどれほどだ?」
「んー……重さは2t、大きいので3tとかやったはず」
「まあ見るからに車道いっぱいいっぱいであるし、そんなものか。と、なると、このちょうさなる物を用意するとして、サイズ次第では門前町の道に入らぬのでは?」
「た、確かに」
錦の指摘に矢馳の先ほどまで元気にぴんと上を向いていた耳と尻尾がしゅんと垂れる。
「あ、だったら神社エリア、門前町は平安行列で、城エリア、城下町エリア、田園エリア、茶畑エリアを練り歩くのはちょうさ……だっけ、それでどう?」
撫子の提案で元気が無くなっていた矢馳の耳と尻尾がまたぴんと立った。
「なら、門前町エリアの前に巨大な広場作らんと。これは祭りの本番の前でええか」
「そうだな」
「祭りは撫子の案で行くとして、詳細はβテスト後に決めよ。後、こんぴらさんのお祭りも、高屋神社のお祭りもアポとって取材に行かんと流石に無理」
「それにちょうさを導入するとして、人をどうするのかという問題もありましてよ。わたくしたちだけだと無理でしょう?」
「それはそう。全員をそっちに導入するわけにはいかんので。そのあたりは一般探索者に募集かけよか。多分、参考にさせてもらう祭の地元民でもない限りやり方分からんやろし、何度か集まって練習出来ればええな」
ノートパソコンを占有してメモ帳にダカダカと話し合いの内容を記していく一颯。
「おそらくなのだけれど、とても沢山の人の子たちが応募するんじゃないかしら。それこそこんなにもいらないわ、というくらいに」
「んー……ちょうさは数台用意するとしても確かに?取材した後に募集人数決めよか。どうするかな、先着順?抽選?抽選の方がまだましか。抽選にしよ」
馨の憂いに同意して抽選にすることに決めつつも、そんなに集まるか?と首を傾げる。
分かりやすい御神輿とか、山車系で有名な祇園祭とかでもないのに、マイナーな祭りかつその祭りで使われているその地域特有のものぞ?と思ってしまう。
「ねえねえ主、金刀比羅宮のお祭り、舞の奉納があるっぽいけどどうするの?」
「ん?ああ、龍王ズに剣舞的なもんと舞やってもらおうかと」
「ああ、PV撮影の時にも舞わされるが、本番でもやるのだな」
「我と木龍王が剣舞で土龍王が1人で舞う予定であるな」
「楽しみねぇ」
特に嫌そうな反応はしていないので彼ら的にも良いのだろう。
「音楽はどうするの?」
「そこは、仕方ないんで音源流す方で。生演奏はちと無理?いや、頼めばいけかもやけど」
「音源で良かろう」
「おk。あ、それと平安行列の方は神輿の担ぎ手以外にも一般の探索者入れる?」
「そこは応相談だな。今すぐに決めるのは無理であろう。まあ、この金刀比羅宮の行列の様に500人越えの規模とはいかぬが、そこそこ見栄えするようなものになれば良いのでは?」
石生が表示した金刀比羅宮の祭りの記事を見ながら錦が頷く。
「あと、屋台は、PVん時は門前町の道に展開してもらうけども、本番はこれから作る広場にしてもらおか。あと、PVん時もやるけど、御前試合も募集してみよ。こっちは祭り本番前に予選やって、本戦を奉納試合にしたら良き。弓系は的当てにしよかな。弓道の大会みたいにしたら行けると思われ。日本は探索者に銃使いほぼおらんので射撃はいらんやろ」
「武器はこちらで用意するのか?流石に探索で使っている物は……」
「それな。かといって竹刀は味気ないし、見せかけだけの殺傷能力ゼロのやつ色々用意しよ。予選はそれこそ竹刀とかで良き。本戦だけ見栄え気にしたの使ってもらお。あと、素手系のは寸止めにしよか」
「得物持ちと素手は分けた方が良いのでは?」
「分けるん?まあ、それもええんかな?なら、得物部門と、素手部門と混合との3パターンにしてみよか。後個人戦と団体戦もいる?」
「そこまで分けるとなると……本番の祭りは何日やるつもりだ」
「3日の予定やけど、そこまで細分化したら無理か」
「無理だな」
「なら今回は個人戦オンリーにするます」
「今回は?」
「おん。お祭りやし、1年……無理そうなら数年に1回はやりたいよなって」
「あら、良いのではないかしら」
まあ確かに祭りだし、と一応納得の姿勢に入ったのを見てメモ帳にダカダカと打ち込んでいく。
「ざっくりとした本番の予定……?やけど、初日は剣舞と舞の奉納した後、神社エリアから門前町エリア前の広場まで行列で御神輿運んで、そこに待機させとく、ちょうさ部隊に引継ぎ。行列が広場来たら何かしらやってちょうさが新エリア内を練り歩き始める感じ。流石に水龍の都他あっちのエリアまではいけんし、新エリア内だけにするます。
夜になる前にライトアップのために長時間休憩入れて夜遅くまで練り歩いてもらおかな。
で、2日目、あいかわらずちょうさは練り歩いてもろて、広場で奉納試合と言う名の本戦。ちょうさは昼と夕方で一回長時間の休憩とってもらう予定。まあ、それ以外にもこまめに休憩は挟んでもらうけども。で、
初日同様、夕方の長時間休憩の時に夜に向けてライトアップ。2日目の夜は城下町エリアまで練り歩いて終了。
最終日、城下町エリアからちょうさ出発して門前町エリア前の広場に到着後、なんかやりとりして行列に引き渡し。行列は門前町エリアを通って神社エリアに入って、神輿を戻して終了」
こんなもんでどない?とばかりに一颯が仲間たちを見渡す。
「まだ粗削りではありますが、良いのではないでしょうか」
「そうですね、取材後にまた詰めれば良いのですし、ベースはそれで参りましょうか」
繊月と寒月が同意し、他の面々からも頷きが返ってくる。
「おk。なら、お祭りの取材のアポ取りお願いするます」
“はーい。依頼してきますねー。ゆっくりでいいんですよね?”
「おん。そんな新エリアリリースしましたはいじゃあ祭りやります、とはやらんので」
“了解です。金刀比羅宮と、高屋神社でいいんですっけ?”
「です。それと、高屋神社の方はあー……地区違いで秋祭りの方のにちょうさの資料館があるんでそこと、あー……どうしよ、うちの父さんの伝手でちょうさ持ってる地区の話も聞いた方が良い気がしてきた」
“そのあたりは取材と合わせて帰省してから父君に頼んでみては?”
「そうするます」
“はーい。じゃあとりあえずその3カ所のアポとってもらいますねー”
「おねしゃす」
何時もの様に通信をかけてないのに応答してきた担当神に頼み、ひとまずの会議を終えてほっと息を吐き出した。
「よし、後はとりまβテストやな」
ぐっと伸びをして背後に伏せているひすいの横腹に背を預けた。
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