幕間20:記念イベント告知
ダンジョン開放第三弾が始まって暫く経った。
ちなみに、第二弾はURモンスターを怒らせる人も出ず、平和に終わり、今は最終段階に入っている。
この第三弾が問題なく行けば、鎖国組内でのダンジョン開放は本格的に動きだす。
グレード3の免許取得率は相変わらず低いが、それでも赤い世界探索者免許を携えた国外の探索者たちが土方ダンジョンと近藤ダンジョンにやってくるようになっている。
今のところ、酒呑童子も3体の龍王も怒ることはなく、国内探索者と国外探索者が衝突しているのも見られないので、平和に進んでいるとみて良いだろう。
WeTube等では土方ダンジョンや近藤ダンジョンではしゃぐ国外探索者の動画や配信が出てきているほどだ。
そんなある日のこと。
神様配信動画サイトで1本の動画が公開された。
それは鎖国組のダンジョン開放記念オーケストラコンサートの告知。
動画作成者は土方一颯。
大きなイベント事にはほぼ全部に関わっていると言っても良い人物。
そして、記念オーケストラコンサートと銘打たれているということは確実に土方一颯作の曲が使用されるだろうと誰もが確信した。
動画はそれを裏切ることなく、大まかなプログラムまで発表されている。
オープニングにこのコンサートの為に書き下ろされた新曲、第1部に鎖国組各国のイメージ曲、第2部に日本ダンジョンのPV曲、第3部は土方ダンジョンBGM。
なるほど、企画者は土方一颯だな、という選曲である。
動画を最後まで見れば、しっかりと企画者として彼女の名前があるので、演出家の名前は別の人だが、コンサートには彼女の意見がかなり反映されているとみて良いだろう。
第3部が丸々土方ダンジョンの曲なのは、そもそもダンジョンBGMを自作しているのが土方しかいないということと、ダンジョン内にBGMを設定している創造主が少ないからというのもあるだろう。それにダンジョン開放記念だから、ダンジョンとは関係のない曲を使用するわけにもいかないということでそうなったらしい。
オープニングと第1部だけは完全な新曲だが、それはそれで楽しみに思う要素だ。
コンサートは日本各地で日をずらして行われるらしい。
また、行われる場所によって担当するオーケストラが違うという。
1日目、東京都
2日目、宮城県
3日目、愛知県
4日目、福岡県
5日目、神奈川県
6日目、大阪府
7日目、土方ダンジョン・櫻神の屋敷
どの公演も土日祝日を使って行われるが、このうちの1日目の東京と最終日の土方ダンジョンの公演は同じオーケストラが担当するらしい。
計7日に渡って行われるフルオーケストラコンサートに世間は盛り上がる。
ダンジョン開放記念と称されてはいるが、コンサートが行われるのは全日程全て日本なので、他の鎖国組の国の人達はうちはやらないの?!という声が上がっている。
残念ながら、記念コンサートが行われるのは日本だけである。
そして、なんとこのコンサートはチケットが無料だという。
ただし、抽選制で、1人につき、1つチケットが用意される。
応募はグッズ販売サイトで受け付けるらしく、第4希望まで会場の指定が出来るらしい。
チケットは紙で用意はされず、電子チケットが採用されたようだ。
1人につき1つ用意されるチケットは1つで2人利用できるが、チケットをもう1人に分配することは出来ないので、会場へは揃って入場しなくてはいけない。先に1人が入って、後からもう1人が入るということは出来ない仕組みだ。
また、このコンサートのチケットの抽選に応募できるのは「鎖国組」に限定された。
国際化組は応募出来ないのである。
この「鎖国組」に限定する機能はチーム日本の神々が力を貸したようで、鎖国組の国だと偽って応募することはまずもって不可能とのこと。
7日目の土方ダンジョン公演だが、この場所だけは探索者資格が必須となる。
国内勢であれば、探索者登録していること、国外勢であればこのコンサートに限り、グレード1以上の免許保有者に限定された。
もちろん、治療目的以外の普段の探索はグレード3は必要だが、コンサートに限定しての措置とのこと。
大雑把にいうと探索者以外お断りというわけだ。なので、探索者以外でコンサートに行きたい人は現実世界で行われる6日間のいずれかに応募することになる。
また、1日目の東京公演では鎖国組の各ダンジョン省およびそれに準ずる組織の代表が招待されている。
日本だとダンジョン省の大臣である西山他数名が東京公演に連れて来たい人を1名伴って来るそうだ。
そして最終日、7日目の土方ダンジョン公演では、チーム日本の神々から上からどうしても、と言われて上位神が数柱と神話級の神が数柱、貴賓としてコンサートに来るという。あと、日本のダンジョン創造主も来る。
ちなみに一颯が出来れば他国の創造主も招待したいと担当神に言ったのだが、それは各国担当の神々の許可が下りなかったそうで流れてしまった。ダンジョン創造主が国を跨ぐのは少々問題があるとのことで、代わりに端末越しに当日見てもらうことになったそうだ。もちろん、各創造主の配信には端末の画面は映さないし、コンサートの音ものせない。
また、この計7日間行われるコンサートのうち、最終日の土方ダンジョン公演だけは後日色々編集を加えた後、神様配信動画サイトで公開される予定だという。
さて、世間がダンジョン開放記念コンサートの話題で騒めいている中、一颯はと言えば、コンサートに向けてグッズ作成部門や招かれた演出家の人たちと慌ただしく動いていた。
コンサートの演出については、クラシックコンサート風ではなく、カラフルな照明を入れ、バックスクリーンでPVや各ダンジョンの動画を流すようにして、堅苦しい雰囲気ではなく、ライブの雰囲気とクラシックコンサートを混ぜた様な形にする方向でまとまった。
また、各国のダンジョンに一颯とチーム日本から依頼をだし、一颯が用意した各国イメージの曲の演奏をするときに各ダンジョン内の様子を映した動画を使う許可、出来ればその動画の提供をお願いした。
どのダンジョンも快諾してくれてほっとしたし、もし嫌だと言われたとしても、そのダンジョンの動画を使わないだけで、曲は演奏するし、そもそも曲は各ダンジョン全部をそれぞれイメージして作っているわけではなく、この国のダンジョンといえば総合的に見てだいたいこんな感じ、というイメージで作っているので、そのあたりは大丈夫なようにはしているが。まあ、今回はどこも快諾してくれたので良かった。
ついでに今回一颯が作ったコンサートのオープニング曲と各国イメージの曲はダンジョン作成などで創造主が使う端末の曲一覧に追加され、鎖国組であれば自由に使用できる様にされている。
ちなみに追加された曲を聞いた創造主たちからは担当神を通して沢山の感想が届いていて嬉しい限りである。
あと、近藤、斎藤、沖田にも頼んで新しい動画を撮ってもらったりもした。各国ダンジョンのイメージ曲は日本のものも用意しているので。
楽譜と各国イメージ曲のデモを渡したオーケストラからは、楽譜のここはどうするのか、という質問が飛んでくることもあったので、それに対応しつつ、そもそも演奏不可能な箇所はなさそうなのには少しほっとした。極力そういう箇所を無くしたつもりではあったのだが、不安だったのだ。
また、開催地毎に担当するオーケストラが違うので、各オーケストラ毎の演奏の差分を楽しみにしている。一颯は企画者として全ての公演に顔を出すので。
当初予定していた一颯側の予算はそのままに超過した分をダンジョン省とグッズ作成部門とが出してくれたし、なんならそっちで全部出すと言われたが、発案者は自分なので、と当初予定していた予算はそのまま使ってもらう事にして、超過分だけをお願いした形だ。
ただ、ダンジョン開放記念コンサートに一颯がダンジョン資金から金を出していることを知った近藤、斎藤、沖田からも自分たちの所の資金から出すという申し出があったのでこちらは有難く申し出を受け取り、それぞれが申し出てくれた資金も使うことになった。
チケットに関しても最初は料金を設定しようという話が出たが、そもそも一颯は最初からお金をとる気がなく、無料かつこちらが招待したい人達以外は抽選方式にしたかったのもあり、それ込みで予算を組んでいたので、その意見を通してもらった。
なんせ、ダンジョン内でも演奏してもらう予定なので、リアルマネーでチケットを扱いたくなかったのである。その分、現実世界での公演時にはグッズの販売をしてもらうことにしたが。
準備が着々と進んでいく中でいよいよコンサートのチケットの抽選応募が始まった。
先着順ではないので、決められた期間内にグッズ販売サイトから応募するだけだが、応募開始と同時にとんでもない応募数が叩き出されたそうだ。
後、やはり国際化組で応募しようとして弾かれた人は出てきたらしい。
鎖国組の日本以外からも応募が沢山きているらしいが、チケットには国内枠と国外枠があるので、観客が外国人ばかりになる、日本人ばかりになるということはないようだ。
コンサートに向けて慌ただしく動いている土方は自分の配信を見ることができないほどの多忙状況だが、モンスターたちは配信のコメントで当たりますようにというお祈りのコメントが大量発生しているのを見ているし、なんなら7日目当選した場合が怖いだのというコメントも見受けられる。
そうだな、神さま来るもんな、とそこはモンスターたちも同意するところである。
上位神やら神話級の神やらの頼みを下級神であるチーム日本の神々が断る事なんて出来るわけないのである。
櫻神の屋敷のコンサートホールバージョンを作成中だった一颯でさえその一報を貰った時、思考停止して固まったくらいの衝撃だったし、なんなら慌てて神さま専用席も設けたほどである。
当日担当するオーケストラのメンバーや運営に携わってくれている人たちも顔を青ざめさせて意識が飛んだというし、今からすでに胃が痛いと言っている。なので一颯はそっと薬師兎印の胃薬を差し入れた。
ちなみにコンサートホールバージョンの櫻神の屋敷は完成している。音響確認までしっかりと終わっているし、実際に用意したコンサートホールを担当神に協力してもらって関係者を招いて見て貰い、演出等についての話し合いも進んでいる。
あと、コンサートホール内部の広さは外からみた外見と一致しない。ファンタジー物の作品でよく見る容量拡張機能を神にお願いして用意してもらったのだ。
だから、外から見るよりも内部はかなり広い作りとなっている。
このコンサートホールバージョンの櫻神の屋敷はまた使うことがあるかもしれないのでデータを残して置く予定だ。
そして、運営側は準備に追われ、応募する人達は当選を祈る中、ついに応募は締め切られた。
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