幕間18:土方から依頼を投げつけられたダンジョン省





「えー……土方さんから依頼がありました」


 早朝のダンジョン省にて、会議室でそう切り出した西山の言葉に空気が凍る。

 この馬鹿みたいに忙しい時期に依頼だと……?とみんなの顔に書かれて、何人かの目の光が消えていくのを見てその心情が良く分かる西山もだよなーとばかりに苦笑いする。


「ただ、今回の依頼は担当神さまからは下部組織に丸投げでも十分対応できるからと言葉を貰っています」


 その言葉で何人もがほっと胸を撫でおろしているのが見えた。

 土方からの依頼と言えばかなり大掛かりなことが多いので誰もが身構えてしまうのである。

 いや、本当に今までの土方の依頼はどれもこちらに話を持ってきてくれて助かったことばかりなので良いのだが、それはそうとして土方が依頼してくると忙しくなるという法則があるので。


「今回は現実世界とダンジョン内でやりたいことがあるとのこと。兎人の薬の時の様に我々が動く必要はありません。なので、下部組織で十分だとチーム日本の神々が判断されました。我らは最終確認等をするだけで良いらしいので、そこまで負担ではないですね」

「ちなみに、土方さんは何をやりたいと言っているんですか?今はダンジョン開放の第三段階に向けて動き出したばかりの時期。第三段階にはまだ入っていないですし……」

「昨日の夜聞いたばかりなので簡単な資料しか用意出来ていませんが。あと、土方さんから預かった企画書の様なものもあります」


 そう言って会議に参加している人たちの前にプリントが配られる。

 企画書の様なもの、というだけあり、本当に企画書の様なものも配られた。

 土方は多分企画書を作ったことがなかったのだろうが、それでも分かりやすく簡潔にまとめられた資料を作ってきたと思う。

 企画書の様な物には、やりたいこと、今回やりたいことを企画した目的、予算、予算に収められそうな依頼料の団体5つに会場候補がいくつか、また、主体となる団体以外にも頼みたい団体や人物名、実行時期、期間などが羅列されている。

 おそらくネットで企画書の書き方を調べながら作ったと思われる出来だ。作り慣れていないのが一目で分かった。


「仕事を回す下部組織はグッズ作成部門になります。ちょっと方向性が違うといいますか、多分かなり違うんでしょうけど、まあ我々よりはそちら方面の知識もあるでしょうし、なんとかしてもらいましょう」

「……これは、土方さん……あの人は本当に、よく思いつきますね」


 簡単な資料を読んだ1人が目を丸くして感心したように声を発した。

 それに続く様に少しだけ会議室が騒めく。


「これを思いついたのは土方さんが作曲家だからというのも大いにあるかと」

「確かに。それに実行時期が第三段階終了後、ダンジョン開放の本格始動直前とはまた、考えましたね」

「実行タイミングも良いし、候補に挙がっている団体も、納得できるラインナップですね。この中から1、2団体に絞る……え、絞れますか?どこも自分の所がやると主張するかと思いますが……」


 土方たちに渡したパソコン機器の時のようにメーカー各社が繰り広げたプレゼン合戦を思い出して誰もが顔をしわくちゃにする。

 あの時もあの時で大変だったのである。今の様に下部組織がまだ十分に存在していなかった時期のことだ。彼らのプレゼン合戦に付き合ったのはダンジョン省の役員や職員たちだったので、あの時の様になるのではないかと危惧しているのである。

 まあ今回に限っては自分たちではなく、グッズ作成部門があの時の様になる可能性があるということだが。自分たちが直接動くわけでないのが本当にとても楽。


「その時は逆に土方さんに提案すれば良いのですよ。全部使いましょうと。下部組織から上がってきた報告は我々からチーム日本の神、そして土方さんへと伝える流れは変わりないわけですし。多分下部組織も選ぶこと出来なくて全部って言いそうですし。まあただの憶測ですけど」

「ただ、その場合、土方さんが想定している資金が……土方ダンジョンの資金から出す予定とありますし、全部となりますと、資金も倍増どころの騒ぎではありませんし、場所の確保も問題ですよね」

「そのあたりはうちからも出しましょう。うちの費用から出しても問題ないですし。土方さんが出す分とうちで出す分で足りると思いますよ。足りなかったらスポンサーでも募集したら良いかと。あー……でもまたプレゼン合戦になりますかね?うちとしても土方さんのやりたいことは嬉しい申し出でもありますし。全部決まったら一応土方さんに聞いて鎖国組のダンジョン省に声をかけるのも良いかと思いますし」

「ひとまず下部組織に仕事を持っていきましょう。グッズ作成も販売も落ち着いていますし、新しい分野に手を広げさせても良いでしょう」


「というか、普通に我々で決めようとしちゃいましたね。今回のこれはグッズ作成部門の仕事だというのに」

「いやぁ、今までぼくたちが動いていたわけですから、つい……」

「慣れって怖いですねぇ」


 西山が話をきりだした時には絶望したような表情をしていたのに、今は目をキラキラさせている面々を見て、自分たちが直接動かないで良いって本当に気が楽だなぁなんて思いつつ、彼はニコニコと仲間たちの話に耳を傾けた。











「土方さんからの依頼がうちに来たんですか?」

「何か作りたいグッズでもあるんです?」


 ダンジョン省から話を持ち込まれたグッズ作成部門の会議室で誰が首を傾げた。一体何事だ、と思わずにはいられない。

 ちなみに、グッズ作成部門は一番新しいダンジョン省の下部組織である。

 正式な組織名はちゃんとあるのだが、世間で一番浸透しているのが「グッズ作成部門」という呼び方である。

 恐らく正式名を言われても分からない人が多いくらいにはそちらの名前で通ってしまっている。


 さて、そんな下部組織であるが、自分たちの担当はグッズ系だと思っていたのだが、なんだ?といわんばかりに配られた資料を手にして読んで、目を見開く。


「これをうちでやるんですか!?いいんですか!?」


 目を爛々と輝かせて1人が立ち上がれば、組織のトップである女性が頷いた。


「そうです。上層部は現在手が回せないので数ある下部組織の中だとうちが一番適任だろうと回ってきました。やりますよ、皆さん!」

「任せてください!」


 回ってきた大仕事に誰もがテンションを上げる。

 次のグッズもぼちぼち本格的に動き出さないとだなと言っていた時に降ってわいた大仕事だ。

 しかも大変心躍る依頼とくればテンションもあがるというもので。


「とりあえず、土方さんからは候補の団体と場所が挙げられています。この中から1団体もしくは2団体、場所を1か所、都合のつく所に依頼してほしいとのことなんですが……。場所に関して、ダンジョン内は確定とのことなので、ダンジョン外の場所の選定ですよね」

「話を持っていたらどこも絶対に食いついて離さないと思いますよ」

「いやぁ、どうですかね?あちらさんの予定もあるでしょうし、無理だって言われることもあると思いますよ」

「うーん、それは有り得ますね。場所に関しても日程調整できるかどうか。いや、まあ問い合わせれば良いだけではあるんですがね」


 真顔で食い気味にそういった職員に誰もが頷く。


「ダンジョン省からはもう全部にお願いして、日をずらして候補の場所全部でやってしまえば良いのでは?という話が来ています。そのための費用はダンジョン省からも出すとのこと。土方さんはダンジョン資金で賄える範囲で、と思っていたようですが、全部に依頼を出すとなると流石にダンジョン資金では支払うことは無理。うちからも資金を出しましょう。それでも足りなければスポンサーをつけるという手もあります」

「それがいいです。グッズ販売で売り上げのいくらかはうちにも入ってきていますし、出しましょう」

「土方さんが確保している予算内に収まる団体をピックアップしているとのことですが、ダンジョン省も我々も資金を出すのなら、他の団体の名を上げても良いかもしれませんね。そのあたりは土方さんに聞いてからになるかと思いますが」

「いくつかは予定が合わずに断られる前提で動きましょうか」

「場所の確保も急がなくては土方さんが想定している日にとれない可能性もあります」

「まずは候補地の予約方法調べてからですね」


 サクサクと会議は進んでいく。

 土方の依頼を受けて動く班のリーダーも決め、後は彼らに任せることにした。

 勿論、班員にならなかった人達も動くには動くが、中心となるのは彼らだ。

 最終的に許可を出すのはダンジョン省だが、それまでに綿密に動く必要があるだろう。


 ダンジョン開放の第三段階に入る前に知らせてくれて本当に良かった。

 猶予はまだまだある。

 ただ、そうは言っても、予定している時期の半年くらい前なので本当に各団体への依頼や各場所の予約が取れるのかも分からない。これから時間勝負になりそうな気もしている。

 とにかく迅速に動かなくては、と、候補として挙げられた団体と場所への連絡をとりに走り出した。

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