幕間17:何か画策している土方






「水龍王よ、主は何をやっておるのだ?いつもの新エリアのBGMは完成しておるし、PVの依頼もなかろう?」


 新エリア作成が順調に進んでいる中で、たまに丸1日休憩という日がある。

 そういう日でも一颯は仕事部屋に籠っているので疑問に思ったらしい錦が朧へと何をしているのかと聞いたのだ。


「ん?ああ、何やらやりたいことがあるとかで何かやっておるぞ。ダンジョンの資金の確認もしておった故、現実世界で何かやりたいことでもあるのだろう。我も詳しくは知らぬがな」

「ふむ?其処許でも知らぬことがあるのか」

「当たり前だ。何でもかんでも主の事を知っていると思うでないわ」

「そうなのか」

「汝は我を何だと思っておるのだ」


 ジト目で見てくる朧を前に目をぱちぱちと瞬かせ、ゆっくりと錦は頷く。



「主の母」

「せめて世話役と言え」



 間入れずツッコんだ朧は額を抑えてため息を吐き出す。

 そもそも自分は男であるとぶちぶち文句を言っているのを聞き流しながら錦は仕事部屋の扉を見つめる。

 彼は滅多な事では仕事部屋へと入らない。

 別に制限されていないのだが、特に用事もないので行かないだけではあるのだが、頻繁に、どころかよく仕事部屋に居座る朧や深山、繊月、弓弦と言った面々は一体何をしに主の仕事部屋へ主がいる時に一緒に籠るのだろうか。


 なお、ヌッコニャンのひすいはカウントしないものとする。

 あの子は常に一颯と一緒にいるので。


 絵が描ける弓弦はまだしも、他の面々はダンジョン作成以外で主の仕事の手助けが出来るとは思えないのだが。

 まあ、理由など何でもよいか、とすぐに疑問を放り投げる。



 一時に比べれば格段に増えた仲間たち。

 人手が足りないと言っていた時期が懐かしい。

 十分に監視などの役割を持つモンスターの配置が行き届き、交代要員も確保出来て、水龍の都以外に治療所なども作れた。

 今回また一段と広いエリアを作っているが、それでもスタッフは賄える程に揃っている。

 あの時のガチャ祭のおかげだ。



「ダンジョン資金の確認をしていたということは、趣味の方の作曲ではなさそうね?ボカロ曲などではないのよね」

「だろうな」


 話を横で聞いていた馨も参加してくる。

 そう、趣味の方の作曲だったらダンジョン資金を確認する必要などないのだから。


「まあ、今のところ機材などの購入もないし、グッズ販売で資金はかなり貯まっておるどころか増え続けている故、何に使おうとしているのかは分からぬが、良いのではないか?」

「主さまのことだし、悪い使い方はしないと思うのよね。説明はしてくれるでしょうし」

「ダンジョン開放の第三段階に向けて世間も動き始めているようであるし、それに関連するかもしれぬな」

「なんだかんだと催し物を企画するのが主故な。何かしら考えておるだろうよ」

「楽しみね」


 一颯が何をしているのかを想像してふわふわ笑う馨に何を考えているのか分からないがとりあえず楽しみだと言わんばかりの錦。


 朧は楽しそうな2人をちらりと見た後、仕事部屋の扉を見る。

 何をやりたくて仕事部屋に籠っているのかは知らないが、朧だって楽しみなのだ。


 ただまあ、現実世界で何かを行うとすれば、ダンジョン省を巻き込む必要があるので、ダンジョン開放第三段階に向けて動き出している彼らにさらなる負担をかけるのはちょっと可哀そうだなと思ってしまう。

 どういう感じでダンジョン省を巻き込むのかは知らないが、負担が小さければ良いと思わずにはいられない。

 それこそイラスト・写真コンテストの時の様にダンジョン省の負担があってない様な物であることを祈る。

 あれはどちらかというと、神側とこちら側の負担の方が大きかったので。









「よし、完成」


 作っていた物の確認を終えて保存してぐっと大きく伸びをしたら、一颯の作業が終わったことを察したひすいがすり寄ってきたのでそのままもふもふと撫でる。


「担当さーん。相談したことがー」

“はいはーい。何ですか?”

「ちょっとばかしやりたいことがありまして。えと、現実世界とダンジョン内で2回にわけてやれたらなぁ、なんて」


“ん?どういうことやりたいんです?”

「とりま、現実世界のお金使うことになるんですけど、それも結構巨額。ダンジョン資金は確認して、問題なさそうではあるんやけども、問題はどこに頼むかっていう話であって。後、ダンジョン内でやる時は櫻神の屋敷を改造してそれ専用に作り直さないかんのやけど、そもそもそのための設備というか機能がなさそうなんで、作って欲しいっていう要望もあったりなんかしたり……」


“とりあえず、何がやりたいのか聞かせてください。話はそれからですね”


 ぐだぐだと前置きを話す一颯をぶった切って担当神が先を促す。


「あー……えっと……」


 少しだけ言い淀んでから話した一颯のやりたいこと。

 ダンジョン創造主になる前から夢の1つとして持っていたもの。

 当時と今では少しだけ違うが、基本は一緒。

 ついでに、ダンジョン創造主になってから1つの大きな節目になるだろうダンジョン開放があったので、ついでに一颯の夢を1つ叶えたいと思ったのである。


“いいですねぇ!こういうこと、私も好きですよ!あ、でもダンジョン省の負担がやべーことになりそう。いや、もういっそ、下部組織にこの仕事は投げてもらいましょ。ダンジョン省は最終確認だけしてもらって実際に動くのは下部組織でいいでしょう。グッズ関係の組織にでも丸投げさせちゃいましょうか。それで、それはそうとして一颯さんがやりたいことを頼む団体も候補あったりします?”


 一颯からやりたいことを聞いた担当神の声が弾みだす。彼女のやりたいことは担当神も良い案だと思ったようだ。


「おん……。えと、いくつかあって、受けてくれるところあればええなって。5団体ピックアップさせてもろたんで、これがリストです。今のうちのダンジョン資金で支払いきれるんはこの5団体かなって。なんで、この中から1、2団体選ぶ形で。あとこっちがプラスアルファで頼みたい人達のリストで、現実世界で使う場所の候補はこっち」


“うんうん、なるほど。このリスト貰うね。とりあえずこのリスト持って行って、ダンジョン省……から仕事渡してもらう予定のグッズ関連の組織と話を詰めてきます”

「おねしゃす」


 担当神がうきうきしながら通信を切ったので頼んだ一颯はふうと息を吐き出してひすいのもふもふ毛皮に顔を埋めた。


「くっそ忙しい時に余計なこと頼んで本当にダンジョン省にはすまぬ……でもやりたいんで、許してクレメンス……」


 誰に何を謝っているのか独り言をつぶやいてもう一度深くため息を吐きだした。






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