第4話:ダンジョン創造に向けての最初の構想



 配信画面を閉じて一息つく。おそらくまだ配信はされているだろう。なぜなら一颯がまだ起きているからだ。

 目の前ではひすいといなほが挨拶を交わしている。相性は悪くないようで安心だ。


「さて、ダンジョン、どうするか」


 目の前の浮かんでいる板…面倒なので端末と呼んでいるそれを引き寄せてダンジョン作成ページを開く。

 ダンジョンの基盤に装飾、資源、資源の採取場所、モンスター、ギミック、BGMの項目もある。


 ダンジョンは広ければ広いほどDPを消費し、装飾も豪華な程に消費DPは多く、モンスターも強いものやガチャでいうレア度の高いものはやはり使用するDPも多い。ギミックもそうだし、BGMもピンからキリまである。


 初期費用として結構なポイントを貰っているとは言えども有限だし、1日1回の配布のポイントをコツコツ貯めたって時間がかかりすぎる。

 モンスター素材はこちらで勝手に指定することは出来ない様でモンスターごとにアイテムと素材の排出率が決まっているようで、そこまで考えなくて済むのはありがたい。

 ダンジョンで採取した資源やモンスターの素材はダンジョンの外に持ち出せる。多分、国も、いろんな企業も欲しがっていそうだし。

 ファンタジー素材を採取できるようにするDPは採取場所単位でかかるが、地球産の素材や資源に比べると高い。

 なら、地球産のものを通常枠として、レア枠でファンタジー素材、が良いかもしれない。そうしたら少しだけだけど、DPが節約できる。

 地球産の資源も、日本でとれる枠、日本だととれない枠を作ってレアリティに差をつけるのもありかもしれない。地球でも存在する資源はレアリティ対して変わらないし、ダンジョンでとれるようになると、国としても助かるのでは?と考えてみる。


「……資源についてはとりあえずその方針にして……」


 パソコンからよく使っている文章作成ソフトを立ち上げてメモをとっていく。


「ダンジョンの形状はどうするか……」


 ぱっと思いつくのは、階層構造になっているダンジョン。階層が深くなるにつれて出現するモンスターは強くなり、採取できる資源のランクがあがる。

 たぶんこのタイプのダンジョンは自分以外の日本の創造主が作ってくれている可能性があると考える。

 他の3人の配信も見てみたが、自分が担当の神にネタバレ嫌だと言ったためか、肝心のダンジョンの内容は分からなくなっていて、情報は取得できなかった。


 腕を組み、しばらく考え込む。階層構造以外のダンジョン、何かあるだろうか。

 ダンジョンと言えば階層構造のものしかぱっとは思いつかない。

 採取特化型ダンジョンというのも担当神からちらりと聞いたりもしたが、それはなんとなく味気ない。採取してそれで終わりはなんだか呆気なさ過ぎて、ダンジョン独特の雰囲気というか味を感じられない。それはちょっと嫌だ。

 うんうんと唸っていればふと思い出す。少し前にテレビで見たとあるゲームのCMを。広々とした景色を背後に自由に動き回るキャラクターが特徴的なゲームのCM。


「…オープンワールド……、良いかもしれない」


 オンラインゲームなどではおなじみのオープンワールド。それをダンジョンにしてしまえばどうだろう。階層は設けない。ダンジョンと言う名の異世界を作り上げよう。



 コンセプトは「オープンワールドゲームを現実に」



 ラノベ、漫画、アニメなどではさして珍しくもなくなった題材であるVRゲーム。

 現実ではまだ開発されていないそれをダンジョンで再現してしまえ。

 VRゲームが題材のラノベ、漫画を読む、アニメを見る。そのたびに自分もプレイしてみたいと思ったことがある。なら、ダンジョンというファンタジー要素を神様が現実に持ってきてくれるというのだから、実現してしまえ。

 そう考えれば俄然ワクワクしてくる。


「……作成モードは端末と、最低限の基盤を置いた後、ダンジョン内部に飛んで現地で作っていく方法とがあるのか。大雑把に端末で形作った後はダンジョン内に飛んで整えていくのが良き。ああ、ゲームらしく、BGMは用意しないと。神様が用意してくれてる曲じゃなくて、わたしが作った曲、使いたいっすな。そうしたらDPも浮くし、その分、他にまわせる」


 考えついたことをブツブツと呟きながらメモしていく。


「オープンワールドだって言っても、最初は狭い範囲での実装が良き。DPも有限だし。後々DP溜まってきたらアップデートすれば良いだけの話。最初はぐるっと一周、急いで2日、のんびりまったりで1週間くらいの広さにするか。成人男性の足じゃなくて、成人女性の足で、それくらいの時間として…あ、ダンジョンの基盤で踏破時間で広さ換算できる。有難し。地形とかは…あ、装飾の分類なのか。最初の実装領域は、こう、綺麗な円とかじゃなくて凸凹してる感じでいびつにして、あたかも地形です、みたいな感じで……。あ、基盤でかなりDP使う」


 メモに基盤に使うDPを書き加え、電卓アプリを開いて、配布された初期DPから基盤に使う分を引いて残りを確認する。


「基盤は大事だからDPはケチらない。他で押さえよう。やっぱBGMか……。いや、なしもありだけど、それはコンセプトからずれる許せん。担当さーん、もしもーし」


 少しだけ考えてすぐにヘルプページから担当の神へと問い合わせを行う


“はいはーい。見てたので分かりますよ。自作BGM使いたいってことですよね?大丈夫ですよー。作ったBGMのファイルをパソコンのモニターに映してもらって、ダンジョン作成ページから自作ボタン押して自作ページ開いてもらって、そこにある読み込みボタン押してもらったらカメラモードになります。カメラモードでパソコンのモニターごしにファイル読み取れば、端末にダウンロードできますよ”


「聞く前に察するじゃん……しかも取り込み方が謎技術すぐる……了解です」

“ヘルプに追加したので、分からなくなったら読んでくださいね”

「はーい」


 あっさりとBGMについて片付いたのでほっと息を吐き出す。


「次に抑えられるのはモンスターか…。自我なしの舞台装置じみた人形タイプのモンスター使えばDPがかなり抑えられるし、リポップありだとしても、自我ありよりもポイントは低いし」


 自我なしと自我ありでドロップ素材は変わらないのだから、自我なしで良いだろう。

 自我ありはなんかこう、倒されるとき心に来る。自分にも、多分倒した人も。よほど人の心がない人以外は絶対ダメージ受ける。自我なし倒してダメージ受けないかと言われれば絶対に受けるだろうけど、心情の違いというやつだ。

 冷めた考えだろうが、ダンジョンに配置する敵対モンスターは自我なしの方がこちらの良心が傷みにくい。

 ガチャ産のモンスターはすべて自我ありらしいので、希望を聞いて、ダンジョン内で重要NPC役をやってもらうのもいいだろうし、手伝いで裏方を手伝ってもらうのも良いだろう。もしくは生活を支える方面で活躍してもらえれば良い。


 ダンジョン内通貨を用意してそれで装備を買えたり、強化できたりするのも良いかもしれない。

 ダンジョンに潜るにしても、装備整えるのはリアルだときつい人もいるだろうし、それが、リアルマネーではなく、ダンジョン内通貨でどうにかなるとしたら潜ってくれる人増えないかという思いもある。うちで装備揃えて他の3人のダンジョン潜ってくれたらなお良い。

 もちろん、装備を外から持ち込んでも良し。


 自分の作るダンジョンは初心者支援ダンジョンみたいな位置づけになったらいいなと漠然と思う。




 つらつら考えながらメモをとって、必要なDPを算出して残量確認して、を繰り返していれば結構な時間が経っていて後ろを振り返るとひすいがいなほを尻尾で包んで寄り添って寝ていた。

 ぐっと両腕を伸ばせば背中からぱきぱきと音がなる。


「まあ、もっといろいろ考えないとだから、実際に着手するのはまだ先だなぁ」


 一歩どころか1か月単位で他の誰よりも遅れているのだから、速やかに取り掛からないといけないのは分かっている。

 しかし、適当に作るのだけはプライドが許さない。ちゃんとしたものを、そして決めたコンセプトに則ったものを作り上げたい。

 BGMに関しては仕事では使わない息抜きで作ったのが幾つかあるので、コンセプトに合うのがあれば使って、メインテーマはちゃんと作りたい。それにはまずどんな世界にするかを決めなくてはいけない。

 やることが多いな、と思うが、なんだかワクワクしてしまう。


 仕事部屋から移動を始めた一颯の気配を感じ取って起きたひすいといなほが後ろをついてくる。

 最初に寝かされていた白い空間は目に痛いからと最低DPで改装可能だった打ちっぱなしのコンクリート壁と天井、一番安かったフローリングに変えて、生活必需品に含まれていたふとん一式を隅においている。

 ふとんに包まれば、大きくなって一颯に抱きかかえられて寝られなくなったひすいが逆に一颯を包み込むようにして寝そべり、一颯の顔の横にいなほが丸まった。


「……お休み」

「なぁん」

「にゃん!」


 返事を返してくれた2匹を少しだけ撫でて目を閉じた。

 明日からもダンジョンの構成考えるのを頑張ろうと思いながら夢の世界へと落ちていった。




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