第3話:自分を配信している配信を見る

「んー!終わった!ひすい!仕事終わった!ダンジョン作成に取り掛かる!」


 ぐっと伸びをしておとなしくしていたひすいの名前を呼べば尻尾をピンと立てて寄ってくる。

 仕事は3週間とちょっとで片付けた。最後の納品を済ませてひすいの頭を撫でる。


「…君、でっかくなったなぁ。もう頭がわたしの肩の下じゃん」

「うなぁーん」


 ぐりぐりと両手で頬を挟んで揉んでやれば気持ちよさそうに鳴く。


「えーと、あ。仕事終わったので、ダンジョン作成に移れまーす。配信チェックしてるか分からんけども、担当さん、ガチャ復活させてください」


 ちょこちょこ連絡が入っていた担当の神が見ているかどうかは分からないが、一応声に出して言ってみる。


“はーい。ガチャ復活させまーす。仕事お疲れ様―。あ、今日の分のガチャ引く?”

「あ、見てたんか…えと、引きます。ひすい1匹だけだし、これからは毎日引くと思われ…」

“りょうかーい。がんばってー”


 ガチャページを開くと灰色になっていた毎日無料ガチャのアイコンが復活していた。


「なぁん」

「あ、そうだった。自分の配信見よう。自分で自分の配信を視聴者視点で見るの不思議だけども」


 プライベート用のパソコンの電源をつけ、神様配信動画サイト…名前がまんまこれである…を立ち上げて、用意されている自分のちゃんねるページへと飛ぶ。

 自分の名前の「土方一颯」の項目をクリックすれば毎日配信という再生リストがあるし、今日の今現在の配信はトップページに記載されているので、開けばすぐに見れる。


「いや不思議だわ」




《土方さん!ちわーす!!!!!》

《土方さんが覗いてる!!》

《仕事お疲れ様です!》

《土方さんキターーーー!!!》





「うわ、あ、ども……」


 一度配信ページからブラウザバックしてすうと息を吸い込む。



「ひすい、今とんでもねぇコメント数と視聴者数が見えた気がする」

「んに?」


 首を傾げる可愛い子をぎゅっと抱きしめてもう一度配信を開く。




《草》

《とwwwwwじwwwwたwwwwwww》

《草》

《wwwwwwwwwwwwwww》

《草》

《草》

《草》

《草wwwww》




「草に草生やさんでもろて定期」



《反応するのそこwwwwwwwwwwww》

《いえーいwwwww》

《もどってきたwwwwww》



「とりあえず、コメント流れるの速すぎて目で追えんので、適当にしゃべるます。あ、どうも土方一颯です。陰キャです。職業はダンジョン創造主、主にゲーム音楽作ってる作曲家、ボカロPですわ。ボカロ曲は当分作れんと思うので、わたしの作った曲聞いてくれてる人たち申し訳なし。今までので我慢してもろて。で、わたしに仕事くれていた各社皆様も、申し訳なし。ダンジョン作成優先せねばならんので、暫くは仕事受けれんので、仕事再開でけたら仕事をとりにいく、ます。あとでトリッターの仕事用SNSにも書きますんで許して、許して……」


《はやいwwwはやいwwww》

《一気にしゃべらんでもろて》


「なんかコメントが更に加速しとるけどわたしのクソ雑魚な動体視力だと追えんので無視。こっちのでっかい猫…ヌッコニャンとかいう種族の女の子はひすい。でっかくてかわいくて最高にもふもふでおとなしくて良い子。種族としては…えーと、図鑑、図鑑……。あ、そういやヌッコニャンの図鑑見るの初だわ」


 半透明の板を操作して図鑑を開いてヌッコニャンの項目をタップする。





 種族:ヌッコニャン

 レアリティ:R

 説明:猫ではなくヌッコニャンである。

    アレルゲンフリー。

    長毛種と短毛種が存在する。

    ガチャでしか入手出来ないモンスター。

    戦闘能力はさほど高くなく、治癒に長けているヒーラータイプ。

    排出されてから1か月くらいかけて大きくなる。

    最初はモチーフになった猫の成猫サイズ。

    最終的に体高1.5M~2Mになる。

    モチーフになった種が大型種だった場合2M超えることもある。

    小型種の場合、1.5Mに届かないこともあるが、最小で1Mくらいである。

    でっかいにゃんこは可愛い。





「図鑑の内容配信に…映っとるな。なるほど、種族柄でかくなるんか。今3週間くらいだけど、頭がわたしの肩の下なんよなぁ……ひすいはどっからどうみてもメインクーンモチーフ…ノルウェージャンかもしれんけど、大型猫モチーフだから、2Mになんのかな?」

「んにゃ?」

「かわいいから何でもいいや」


《考えを放棄すな》

《説明文wwwwwwwwwwwww》

《説明文の最後wwww》

《ヌッコニャン考えたの絶対猫好きな神様だろwwww》

《アレルゲンフリーwwwwwwwww》

《猫アレルギーな拙者、気にせずも触れるってこと…?!》

《あ…っあ……っ!近寄ることも出来ず、涙した日々にさよならばいばい……っ!!》




「ちなみにわたしは圧倒的猫派。犬はたまに見る分には良き。ただ犬派には悪いけど、飼おうとは思えん。申し訳なし。3歳くらいんときに親戚の家でセントバーナードみたいな大型犬に会わされて、怖くてギャン泣きした記憶が25歳過ぎた今でもしつこく残ってるんだわ。今でこそ見る分には問題ないんだけど、飼うのは大型犬だけじゃなくて小型犬も無理っす……あと、においがきついのもちょっと無理……。においさえ猫なみになかったら飼うのはありっすな」



《犬派のわい、悲しみ》

《なんでや!イッヌかわいいやろ!》

《でも犬種分かるのかwwww》

《トラウマはしゃーないな》



「あ、話し方だけど、こっちが素ですわ。担当さんとのやりとりは会社とやりとりしてると思って敬語もどきにしてただけっすわ。じゃないと仕事できんし」



《だろうな》

《めっちゃその話し方に親近感覚える》

《コミュ力ある陰キャって感じやな》

《コミュ力ないとフリーの作曲家とか仕事とってこれんだろうし》



「…やっぱりコメントの流れが速くて追えない件。あー…軽い自己紹介とひすいも紹介したし、今日のガチャ引きます。あ、担当さんに言って毎日ガチャ止めてもろてました。仕事しながらモンスター増やしても管理しきれんかったので。ひすいには寂しい思いさせてしもうてすまぬ」

「んにゃー!」

「…圧倒的良い子…っ!」


 頬に顔を寄せてきてすりすりされる。ふわふわで気持ち良いし、何より可愛くて満足である。


《でっかいにゃんこのすりすり!!!!!》

《くそっ!そこかわれ土方一颯ぃ!!!!!》

《すりすりされたいでごわす!!!》





「えと、じゃあガチャ…の前にちょっとおさらい…ヘルプページ開いて、ガチャの項目をぽちっとして……カプセルは一律銀色で、Nが排出時の光が水色、Rが銀色、SRが金色、SSRが虹色、URが虹色に金と銀が混ざる、と。確認終了。じゃ、引くます」


《わくわく》

《誰がでるかな!》

《他の創造主の見てると毎日無料ガチャはSR以上かなり渋いみたいだし、気軽に回せば良き!》

《ガチャ回しまくってた沖田くんと斎藤さんは兎も角、無料ガチャしか引いてない近藤さんの最高レアがSRでたった1匹だけという渋さ》


「毎日無料ガチャをぽちっと。で、出てきたガチャガチャを回して、出てきたカプセルをあけると…あ、銀色」


《銀色!》

《Rだな!》



「にゃーん」


「お。ヌッコニャンだ…ヌッコニャンであってる?とりあえず鑑定……鑑定させてもらうけど、おk?」

「にゃん!」

「ありがと……いやひすいと比べると小さく見える不思議……」




 名前:なし

 種族:ヌッコニャン(長毛種:レッドタビー&ホワイト)

 性別:オス

 スキル:魅了(弱)/治癒魔法

 説明:猫ではない。ヌッコニャンである。

    愛くるしい姿で、みんなを虜にする。

    猫好きに魅了は突き刺さり、

    猫嫌いには嫌悪感を抱かせない程度に魅了がかかる。

    自身を所有するダンジョン創造主以外には

    普通に攻撃することがあるので注意が必要。





《ヌッコニャン被ったw》

《かなりのモンスター数いるのに被る確率よwww》

《いや、ひすいちゃんと並べると大きさの対比えぐいwww》

《初期スキルが一緒ってことはこれがヌッコニャンのデフォルトなのかも?》

《かわいいからよし!》

《きれいな金色のおめめ!》




「これから1か月かけて大きくおなり…男の子だから多分ひすいより大きくなるよ…」

「にゃん!」

「さて、名前どうしよ……目の色が金色……んー…男の子……毛色……いなほ、いなほでどう?」

「にゃん!」


《いなほくん!よろしくね!》

《いなほくん、大きくなるんだよ……》



 鼻を突き合わせてふすふすしている2匹がとても可愛い。眼福である。






「もうこの配信ヌッコニャンちゃんねるで良いのでは?わたしは考えた」




《それはマテ》

《はやまるな》

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