第1話:初回限定ガチャと補足説明
“分かりました。では、説明は以上ということで。それでは初回限定ガチャ引いてくださいね。引き直しは出来ませんけど。はい、ガチャページ開いて開いて”
ガチャのことだけ聞いていればまんまゲームだなと思いながら言われた通りにガチャページを押す。
開いたページの一番上、でかでかと初回限定ガチャと書かれているボタンを押せば、ぽん、と軽い音を立ててゲームセンターなどで良く見るガチャガチャが目の前に出現した。
硬貨を入れる投入口はなく、レバーとガチャガチャ排出口があるだけのシンプルなものだ。
“はい、回してくださーい”
言われるがまま、レバーを回すと、銀色のカプセルがコロリと落ちてくる。
“銀色はRランクですね”
「うわっ!」
カプセルを手にとって、ひねるようにして開ければ、隙間から眩しい銀色の光があふれだす。目をあけていられないほどではないので目を細めてみていれば、光は1つにまとまり、何かの形をとっていき、そしてはじけて消えた。
「なぁーん」
そして現れたのは、ピンと上を向いた耳にふさふさの体、長い尻尾、きゅっと上に跳ねるキリリとした緑色の目、どこをどうみても可愛らしいあの動物だった。
「なぁん?」
お座り状態から立ち上がり、座っている自分に近づいてきた子をじっと見つめる。
“マイページに鑑定機能あるのでそれ使用してこの子の情報を見てみましょう”
言われるがままマイページを開き、鑑定と書かれたボタンを押せば、鑑定のページが出現し、目の前の猫がカメラ機能の様に映り込む。
画面下の「鑑定する」ボタンを押せば、映り込んだ猫の右側にずらりと情報が出現した。
名前:なし
種族:ヌッコニャン(長毛種:シルバータビー)
性別:メス
スキル:魅了(弱)/治癒魔法
説明:猫ではない。ヌッコニャンである。
愛くるしい姿で、みんなを虜にする。
猫好きに魅了は突き刺さり、
猫嫌いには嫌悪感を抱かせない程度に魅了がかかる。
自身を所有するダンジョン創造主以外には
普通に攻撃することがあるので注意が必要。
「猫やん」
“ヌッコニャンです”
「いや種族名!」
“……ネーミングセンスって大事ですよね”
「あっ察した」
謎の声のその一言でこのモンスターをデザインした神に、それが備わっていなかったことが発覚した。
「なぁん?」
「かわっ……!」
“猫好きでしたか”
膝にぽんとおててを置かれ、思わず惚けた言葉を拾った謎の声が生温かい言葉を投げてきた。
生まれた時から猫と一緒に暮らし、1人暮らしを始めてからは借りたマンションがペット禁止だったので飼えず、実家に帰る度に猫吸いをしていた身としては念願の猫と一緒の暮らしをゲット出来てこれだけでも幸せである。まあ、説明文によると猫ではないとこのことだが、どうみても猫…メインクーンとか、ノルウェージャンフォレストキャットに酷似した姿ではあるけれど。
“ちなみにマイページに図鑑という項目がありまして、モンスター図鑑、素材図鑑など各種図鑑が閲覧できるようになっています。ただし、入手したり、ダンジョンに配置したものしか見れません。
とりあえず、この子に名前をつけましょう“
鑑定結果の名前が「なし」表記になっている目の前の猫…ヌッコニャンをそっと抱き上げて膝の上に乗せる。
じっと見つめてくる形の良い目にお上品に前足を揃えて座り、くるりと長くてもふもふした尻尾を体に沿って巻いて、大人しくしている。
さて、この子の名前を何にしようかと考える。見た目が完全にメインクーンとかノルウェージャンフォレストキャットなため、洋風の名前が似合うだろうが、自分は日本人だし、和風の名前が良いかなぁなんて考えも浮かんでくる。
暫く悩みながら、形の良い綺麗な緑色の目を見つめて、浮かんできた名前があった。
「ひすい、で」
「なぁーん」
ひすい、と呼ぶと嬉しそうに鳴いて、背伸びして自分の顎に頭を擦り付けてきた。
非常にかわいい。そして喉をゴロゴロ鳴らしているのもとてもかわいい。
喉を鳴らしているひすいの頭を撫でていたら目の前の板の鑑定結果の名前欄に「ひすい」と記述された。名付けてから反映されるまで少しだけラグがあるらしい。
“ガチャから出現した助っ人…モンスターですが、命名できるのはNからSRまでとなっています。SSRとURは名持ちが召喚されるようになっているので…あの、まあ……担当した神のネーミングセンスに祈ってください。わりとまじで”
ヌッコニャンとかいう種族名を考えた神がいることを考えると、なんでそんな名前つけたと言わんばかりのモンスターいそうな気配に何とも言えない表情を作ってしまう。
“あ、そうだ。言い忘れてたんですが、基本的に就寝中と、入浴とかトイレとか、着替え中とかそういうセンシティブな場面以外、配信されるので覚悟決めてください。というかもう配信されてます”
「は?」
“上の神々がね、どうせなら娯楽の側面も持たせたいよね。作ったダンジョンに挑む以外も楽しんでほしいよねって言いだしまして、勝手にダンジョン用の動画配信サイト作って、あ、笑顔動画とかWeTubeとかとはまた違うやつです。そこにダンジョン創造主の様子とかいうカテゴリー作って、あなた含むダンジョン創造主全員、配信されてます。ダンジョン稼働し始めたらランキングも作るって言ってました”
「いやちょい待ち!そんな勝手に!こちとら分類的には陰キャやぞ!そんなみんな見てみてうぇーい!みたいなことできるわけなかろ!!?24時間365日全力監視とかまじで無理オブ無理!!」
“ですよねー。日本人5人の中…あ、パニックになった人帰して、結局変わり連れてこなかったので、日本人は4人になりましたけど、あなたとおんなじ反応したのは同じく冷静だったもう1人でした。テンション爆上げしてた2人は気にしてなかったというか、気づいてないみたいでしたね。なんせ担当した神の説明右から左だったそうですし”
膝の上のひすいがびっくりしていて申し訳ないが、プライベートないとか本当にあり得ない。
「プライベートないとかまじでない。無理無理無理無理!あと、自分ネタばれ無理勢なんで、ダンジョン作成の過程みせたくない件……作成過程でどんなダンジョンなのかわかる人分かる気がする。わたしは分かる気しかない。嫌じゃ……プレイするの楽しみにしてるゲームなのにリリース前からネタバレかまされたみたいな感じになるやつ!ちょい見せどとろじゃねえ!PVっていうレベルじゃねえ!全量ばらすってことでしょ、わたしならふざけんじゃねえってなる気しかない」
“…!確かに、そのとおりですね。ちょっと上に言ってみます。横で上司がはっとした顔してるので、多分それ通りますよ!”
「いやこっちから言う前に想定してどうぞ」
“確かに”
ため息を深く吐き出して、ひすいを膝の上から降ろして立ち上がる。
“あ、配信についての仕様を変えるそうです。明日にはヘルプに仕様のことが書かれるみたいなんで確認してくださいね”
「分かりました。他、聞いておかないことないですか」
“説明は一通り終わったので、そちらから質問がなければ後はダンジョン作成に取り掛かってもらっていいですよ”
「なるほど。じゃあ、今受注している仕事終わらせてから取り掛かります」
“……まあ、作ってくれるんならそれでいいでしょう”
「それと、他の巻き込まれ……選ばれてしまった不運な人と連絡は取り合えますか?」
“えーと…あ、上司が今はまだダメってジェスチャーしてるのでまだダメらしいですね”
「まだダメなんですね。分かりました」
いずれは連絡取り合えるということだなと納得して先ほど持ってきてもらった仕事用機材一式を置いている部屋へと移動を始める。
透明な板は移動する自分に合わせてついてきている。これは先ほど機材を確認しに行った時とは違う。先ほどはこの白い空間に板は残っていた。
何が違うのか分からないが、まあ別に困りもしないため、気にしないことにする。
“あ、上司から言えって言われたので言いますけど、あなた、仕事したいってことで機材一式持って来たじゃないですか。ネットもつながってるので外部と連絡とれることになりましたけど、ダンジョン作成、運営について、外部の指示は聞かないでくださいね。もしそれすると、あなたに指示した人間に不幸が降り注ぎますよ。こちとら神なんでね、こっちの考え踏みにじってきたら、それやった人間に罰与えちゃいますよ。この配信見てる人、気を付けてね”
滅茶苦茶軽く言うじゃん、と歩くのやめて半眼でついてきている板を振り返る。
「この配信見てる人いるんですか」
“え?いますよー。あなた、結構名前知られてる作曲家…?ボーカロット曲作ってるボカロP?とかいうものなんですってね。あなたが今受注している仕事を発注した会社が発狂したとしか言い様がないことSNSに垂れ流して、一気に人なだれ込んできた感じです。おもしろ”
「何もおもしろくないが」
“こっちはおもしろいです”
発狂したのあの会社だろうなとあたりをつけてため息を吐き出した。
というか、今まで顔出ししてなかったのに、これでばれたのか、と思うと胃が痛くなってきた。
「先に言ってきますけど、仕事片付くの全力で取り組んでも多分1か月くらいかかります。良いですか」
“まあ、いいでしょう。ダンジョン作ってくれるんなら何にも問題ないので」
「わかりました。じゃあもうとりあえず仕事片付けにかかります」
“はい、お願いします”
「あ、仕事終わらせるまで1日1回の無料ガチャ引かなくていいですか?多分、引いても面倒見れないです」
“あー…勿体ないとは思いますけど仕方ないですね。とりあえず、無料ガチャストップさせますね。仕事片付いたら連絡ください。無料ガチャ出来るようにするので”
「分かりました」
“では頑張ってくださいねー”
自分についてくるひすいと半透明の板を引き連れて仕事部屋へ入り、扉を閉める。
見慣れた機材たちをぐるりと見渡して深呼吸を1回。
「ひすい、機材にはすりすりせんでね。わたしに対してだったら大歓迎だけど……言ってること分かる?」
「なぁーん」
「んー……言ってる事分かるのもダンジョン創造主…だっけ、それと関係あるんかなぁ?」
すりすりと足に体をこすりつけてくるひすいを見ながら、彼女の言いたいことがなんとなく理解出来て、首を傾げた。
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