ダンジョン経営物語ー現実にファンタジー要素入れたいからと選ばれてしまいましたー

猫のたま

第1章:ダンジョン実装に向けて

第0話:ダンジョン実装に向けての始まり




 ある日、起きたら全方位真っ白な空間でした。



 寝起きでぼーっとする頭に思い浮かんだのはそんな何のひねりもないただの感想みたいな一言。

 もとから超が付くほどの夜型人間で、普通の会社員になろうものなら迷惑かけると思って時間に融通の利く在宅ワークで働いていた普通のいつもの日常だったはずである。


 むくりと起き上がると、目の前にフォンと音を立てて半透明の板が現れた。


“あー、あー、聞こえてます?”

 

 なんだこれとツンツン突いてみれば中性的な声が板から聞こえてきて慌てて指をそれから離す。

 

“おーい?……ほらやっぱりこれやめましょうって言ったじゃないですか。目の前の人、固まっちゃってますよ!はぁ~?中にはすぐに応対してくれた人もいる??一体全体の何パーです?”


 人差し指をそっと別の手で包んで固まっていれば声の主が自分ではない誰かと言い争い始めた謎の声が聞こえてくる板を唖然と見つめ続ける。

 板は右に左に時に回転したりなどしながら自由自在に聞こえる暴言に合わせて動き回っている。

 

“バーカ!バーカ!考えなしのノータリン!!ハーゲ!ハーゲ!!”


 どんどん子供の喧嘩レベルにまで下がっている口喧嘩を右から左に聞き流すこと暫く。ようやく頭が正常に回転し始めたので。恐る恐る板から距離をとり、口が挟めるレベルまで板から響いてくる暴言が収まるのを待つことにした。




 



“えー……、大変失礼しました。落ち着きましたか?話して大丈夫です?問題ないですか?”

「そっちが大丈夫かと聞きたいところですが」

“うっ……、つい。本当に申し訳もなく……”


 心なしか、板が下に下がった。

 この板がどういう仕組みなのかが気になるところではあるが、まずは現在の状況を説明してもらわなくては始まらない。


“あなたは茫然とするだけでパニック起こさなくて良かったです。パニック起こされた同僚たちが滅茶苦茶げっそりしてたので、私はアタリでした……”

「いいから早く説明してもらえます?こちらは納期近い仕事あるんですよ…。納品の延滞とか本当にやりたくないんですが」


“あー……すみませんね、説明します。まず、ここは現実と切り離された空間です。まあ、あなた方でいうところのファンタジー要素満載、冗談にしては質が悪いとか言われそうなんですが、現実なので受け止めてくださいね”


 仕事のことを考えて若干イラつけば、声の主は申し訳なさそうに話し始める。

 その声音で言い様の無い嫌な予感とやらを覚えつつ、まずは全部聞いてから質問していこうと決める。


“で、我々はあなた方の住む地球を見守っている神様です、とは言っても頭おかしいんじゃねえのかこいつと思われるかと思いますが、事実なので、私の頭を疑わないでください。

 神って言うのは、まあ、地球に存在する宗教で祭られている神がいると思うんですけど、一神教みたいに1柱しかいないわけじゃないんです。あなたの生まれ育った日本だと多神教なのでまあすんなり納得してくださいませんかね?あ、していただける?ありがとうございます。もちろん、日本神話の神々も我々の中にいますが、まあ関係あんまりないのでおいておきましょうか。

 それで、ここ最近の地球は停滞してるよなぁという議題が上がりまして。まあ人間の数増えすぎてやべえという議題はやっぱり最近ずっとありますけど。まあ置いておきまして。

 で、会議の結果、単刀直入に言うとさらなる進化を求めてファンタジー要素ぶっこんじゃえという結論になりました“



「なんでそうなった」

“さあ?上の神たちちょっと人間基準だとぶっ飛んでるんで、気にしないでください”


 思わずツッコミを入れればさらっとそんなことを返される。こんなことを言う謎の声の主もおそらく上の神たちの考えぶっ飛んでるなと思っているのかもしれないと思いながら、また聞く態勢へと戻る。


“色々話し合った結果、いくつかの国から何人か選抜して、こういう場所に招待して、ダンジョン作って運営してもらおうということになりました。あなたは日本から選ばれたうちの1人ですね。おめでとうございません。実に不運だと思って諦めてください。拒否権なんてもの、人間にはないんですよね。上の神は人間の都合なんて考えないので私に怒らないでください。私は下っ端なんですから、クレーム言われても知らねぇよ!としか言えないです。

 最初はダンジョンを地球上に直接出現させて、地球をファンタジー化させようという話になっていたらしいんですが、ダンジョンの中身考えるのダルいという結論に至ったようでして、あなた方の様な人間がランダムで選ばれました。ご愁傷様です。

 まだ先は長いので一度区切りますね。ここまでで質問ありますか?”


 まだ長いと聞いてちょっとゲンナリしつつも早く仕事片付けたいという思いもあるが、気になることがあるので聞いていく。


「まあ、選抜理由とかファンタジー要素入れようぜとか色々ツッコミたいんですが、それを封じられたので、聞きますが、日本からはわたし含めて何人不幸な人がいるんですか?」

“5人ですね。内訳は、冷静なのがあなた含めて2人、ファンタジー来た!ラノベやアニメとかの話が現実に!とテンション爆上げしてそれらの知識があるが故に担当した神の話を聞き流したのが2人、もう1人はパニック起こして泣きわめき怒り狂い、現在は現実逃避しているのか担当している神の話を全く聞いてくれない状況らしいですね。この1人は帰して別の人と入れ替わるかもです”

「わたしも別の人と入れ替えてほしいんですけど?」

“あ、それ無理です。諦めて”


 きっぱりと言われて思わずため息が漏れだした。パニック起こして内に閉じこもってしまった人に対する配慮はあるのに、帰してほしいと願う人に対する配慮はないらしい。


「はあ……、この空間から出ることは出来ますか?」

“今はまだ無理です。ダンジョン育てていけば、いつかは出入り自由になりますけど、今は無理です。あと先に言っておきますが、出入り自由になっても、外からあなた以外の人間や生き物をこの空間に連れてくること出来ないので注意してくださいね。……ペット飼われてます?”

「飼ってないです」

“なら良かった。また出入り自由になったからといって出て行ってダンジョン経営を放棄することは許されません。一定時間この空間から離れると、強制的にこの空間に連れ戻されるので諦めてどうぞ”


 外に出られるようになったら戻らなくてもいいと思ったら、思い切り否定された。強制連行されるとは。この白い空間は自分を閉じ込めるための監獄なのだろうかと思わずにはいられない。


「とりあえず、ダンジョン作成、経営から逃げられないことは理解しました。ですが、わたしは今やっている仕事が好きです。ダンジョン作成、経営しながらもともとの仕事もやりたいんですけど、いいですか?」

“おや?普通の会社員ではないのですか?”

「わたしはフリーの作曲家で、主にゲーム音楽の作曲してるんですけども。あと、ボカロ曲作って、動画投稿してます。これら全部好きでやってるので、出来ないって言われたら本気で帰せって言います」

“ちょっと待ってくださいね。確認とってきます……って即行で許可でましたよ。大丈夫みたいです”


「仕事機材全部ここに運んでいただけますか?」

“分かりました。ちょっとあなたの住んでいる場所見させてもらいますね……面倒なので仕事部屋みたいなとこの中身全部持ってきても大丈夫です?”

「パソコン2台、モニター3台ある部屋だったら仕事部屋であってるので全部持ってきてもらって大丈夫です」

“あってるみたいなので、持ってきますねー……よし、そこの空間、貴方の後ろですね、見てください。扉出現してませんか?”


 そう言われて後ろを振り返れば何の変哲もない木でできた扉が出現していた。


「ちょっと確認してきていいですか?」

“はーいどうぞ!あ、インターネットに繋がった状態なので大丈夫だと思いますよ!”


 半透明の板の前から立ち上がって扉へと近づき、開けて中を見る。


 部屋の内装はコンクリート打ちっぱなしの壁と天井、床はフローリングで物凄くシンプル。自分が住んでいた部屋の内装とは違うため、神サイドが適当に用意したもののようだ。

 そこにもともとの配置そのままの機材や資料たちが出現していた。

 部屋の中に入り、まずはパソコン2台の電源をつけて、モニターの電源を入れる。

 すると何の問題もなく起動し、試しにインターネットに接続し、自身が使用している動画投稿サイトを開いてみればやはり問題なくページが表示された。

 次に仕事に使っている作曲ソフトやキーボードを確認していく。

 こちらも特に問題もなく、もともと使用していたまんまの状態なようで安心した。

 次にメールやオンライン会議のためのツールを確認し、こちらも何の問題もないことが確認できた。

 仕事環境が何の問題もないことに心底安心して詰めていた息を思い切り吐き出し、胸をなでおろした後、元々いた部屋へと戻った。




“あ、大丈夫でした?”

「はい。大丈夫でした。とりあえず簡単に確認はしましたが、故障とかもしてなさそうなのでほっとしてます」

“はーい。じゃあ、次の説明に移ります?まだ質問あります?”

「いえ、大丈夫です」


 仕事環境が問題なかったことに心底安心したためにその他に何か気になったことがあったかをまるっと忘れてしまったので、もう次の説明を聞こうと思って先を促す。




“じゃあ、ダンジョン関係について話しますね。まず、どんなダンジョンを作るかは完全にお任せします。何階層もあってモンスターがいて、倒せば素材を手に入れることが出来るオーソドックスなものから、薬草や鉱石を採取できる採取特化型とか。そのほか変わり種…私は思いつかないんですけどあれば作ってもらって良いです”


 ダンジョンと聞いて思い浮かべたのは言われた通りのオーソドックスなものだったので、それ以外でも良いのだと言われて少しだけ驚いた。


“ただし、素材を置いておいてどうぞ持って帰ってください。みたいなのはダンジョンとは認めません。ダンジョンを作りましたらこちらがまず査定します。で、問題なしと判断されましたら一般公開となりますね。横着ダメ絶対”


 確かに素材置いてあるだけはダンジョンではないよな、と納得する。

 神は本当にダンジョンを作らせるつもりのようだ。

 今説明してくれている声の主も、その声の主と子どもみたいな言い争いをしていた上司らしい神も上の神だという存在もかなり軽いが、神らしく人間の言い分は聞いてくれることもあるが、聞いてくれないこともある。


 ダンジョンを経営させるという1点だけは絶対に曲げないし、ランダムで選ばれた自分がチェンジを要求しても素気無く跳ね除けられたのでそれさえ出来るならその他の融通は利く様だ。

 実際に自分もダンジョンは作るし、経営もする。でももとの仕事もさせろという要求が通ったのだから。


“ダンジョン作成にはこっちで用意したダンジョンポイント…略称がDPと表記するものを使用します。DPは1日1回、1000ポイント配布されます。これはダンジョン作成前も、ダンジョン作成後も変わらず配布されます。また、ダンジョンが運用開始になったら利用者に応じてDPが配布されます。あれですね、固定給プラス出来高、みたいな感じです”


 なるほど分かりやすい。と思わずうなずいてしまう例え方だった。


“で、このDP使ってダンジョン作ったり、この空間の内装変えたり、増築したり、生活に必要なもの、例えば食料とかを購入するわけです。何するにもこのDPが必要だと思ってください。

 そして気づいたかもしれませんが、1日1000ポイント配布されると言っても、1000ポイントで何が出来るって、食料買った残りでダンジョン作るなんて無理です。なので、最低限のダンジョンを作って運用開始するまでは生活必需品と食料はDPかかりません。また、初期費用として、500万ポイント渡されます。これだけあればそこそこ良いダンジョン作れると思いますよ。これで足りなかったら運用開始した後、改装工事してくださいね”


 そこまで話を聞いた段階で、目の前の半透明の板が淡く光る。


“この板なんですが、これを使って必要なもの購入したり、ダンジョン作ったりします”


 先ほどまで何も映っていなかったのに、板に通販サイトみたいなレイアウトの画面が表示され、ダンジョン作成、生活用品・食料購入、ガチャ、マイページ、ヘルプ、という項目が確認できた。


“ダンジョン作成、生活用品・食料購入の項目は開いてもらったら最初に使い方ガイドでてくるんでそれに従ってください。で、その横のガチャについてなんですけど”


 各項目の中に何でガチャがある?と思っていればすぐにその説明が始まった。


“いうならばダンジョン作るサポートしてくれる助っ人を入手できます。まあ、人型だけじゃないんですけど、獣型から人型まで幅広く出現します。レアリティもあって、ノーマルのNからウルトラレアなURまで各種取り揃えてます。下からN、R、SR、SSR、URです。ちなみにレア度上がる度に排出倍率は渋くなりますし、天井システムなんてもの実装されていないので、一定数引けば必ずSSR以上が出る!なーんてことはありません。残念!

 この助っ人はダンジョンを作る手助けをしてくれたり、作ったダンジョンでモンスター役をやったりしてくれます。

 基本DP使用して引くことになるんですけど、通常ガチャとレアガチャと言われるものがって、それぞれ単発と10連とが用意されていますが、通常ガチャとレアガチャではガチャ回すポイントが違います。もちろん、レアガチャのがポイント滅茶苦茶使いますよ。その代わり、レアガチャはレア度高いのがちょっとだけ出やすくなっています。

 ちなみにUR出現率はノーマルガチャは0.1%を切っていますし、レアガチャも0.3%くらいなのでまあ、いつかくるだろうとのんびり構えてくださいね“


 スマホゲームなどではおなじみのガチャの仕様に分かりやすいなと理解して頷く。


“また、通常ガチャは1日1回無料単発ガチャが回せますので、忘れずにガチャを回すことをお勧めします”


 通常ガチャとはいえ、入手できるのがたとえNランクであっても戦力増強にはなるので言われた通りにしようと頷いた。


“マイページはあなたが作成したダンジョンの利用者状況や情報、DPの確認などが出来ます。ヘルプは今こうして私がだらだら説明していることとかダンジョン作成についてやダンジョン運営についてとかの情報が載っているので分からなくなったら見てみると良いでしょう。あと、それでも分からなかったら、ヘルプページの左上にある受話器マーク押してもらえると私に繋がるので聞いてくださいね”


「つまり、説明してくれているあなたがわたしの担当だということですか?」

“そのとおりです!基本1人につき1柱がつくことになってますね。ちなみに受話器マーク押しても私が出なかった場合、こちらから折り返しますので待ってもらえると助かります。さて、一通りの説明終わりましたが、質問ありましたらどうぞ”


「では、今時点で思い浮かんだものを質問させてください。あとから出たらとりあえず、ヘルプみて、それでも分からなかったら問い合わせます」

“はい。分かりました”


「ダンジョンのモンスターの入手はガチャだけですか?」

“いえ、ダンジョン作成ページからDP使用して配置することもできますし、人型ひとがたを使用してモンスターの姿とらせたりもできます。人型についてはヘルプ見てもらえると詳しく載っていますから説明省略します”


「分かりました。ダンジョン作成にあたってまあ、色々環境だとかギミックだとか用意することになるんですけど、やっぱり使うものによって使用ポイント数違います?」

“違いますねぇ。そのあたりは実際ダンジョン作成ページみてくださいね。限られたポイントの中でやりくりしていってください”


「…今のところは以上ですね。ちょっと色々確認したあと、疑問わいたら聞きます」


 2つ質問して、やっぱり先に各ページ確認した方が良いと判断し、質問を切り上げた。


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