第5話 食について

 「うーん」「うーん」と唸りながらの霊流鍛錬は、最初は家族から心配されていたが、その内に何か本人の中で思うことがあるのだろうみたいな、一人遊びの延長として扱われていた。


 ここ4年ばかり寒波と日照りのダブルパンチで、俺の一つ上から3つ下の子供は総じて亡くなっており、年の近い子が2つ上の子しかいない状況になってしまっているのである。

 俺がなんとか食物も乏しい中、暑さや寒さに耐えて生き残ってること自体が、妙に神様仏様のお加護があるんじゃないかとか、そういう風に少し扱われていた。

 まあ実際、俺は寿命以外では死なないらしいから、神様か何かの加護らしきものはあるのかもしれないけども。


 という感じで、奇妙な目で見られる日々であるが、俺のやることは割と多めに見られているようなのである。




「では食べましょう。神様と名主さまに感謝して」祖母が宣言する。


 うちは祖父母いれて10人家族。いわゆる大家族である。

 しかも家長制っぽい。祖母が家長らしいが。


 夕食の風景はそこまでにぎやかって感じでもない。

 労働後の疲れもあると思うが、ろくに話題がないのもあるだろう。

 加えて電気がないこの世界では夜が長いのだ。わりとのんびりした時間である。というか、娯楽といえば食べることぐらいしかないのだ。

 そして、物凄く咀嚼して食べる。現代人の10倍ぐらい噛んで食べている。

 食べる際にくちゃくちゃ鳴らしてるが、嫌な顔をしたりマナー違反だと言う人はいない。

 それどころか、それが食べ物への感謝らしい。まぁ満腹感を感じるために多く嚙んでいるだけなんだとは思うが。


 食事は1日2回。昼前と夕。

 日の出前に起きて農作業し、10時から11時ぐらいに取る。

 そこから夕暮れまで農作業し、日没前に夕ご飯の支度を始める。


 昼は軽く。夕ご飯の残りを翌日の昼前に握り飯にして食べる。

 なので主食である、土米や雑穀を蒸したものは多めに作る。


 燃料である薪を使うのは夕食だけである。


 夕飯は主食と副食。

 主食は、穀物を蒸したもの。

 副食は、一汁一菜。肉などは稀。


 蒸した穀物を冷まして、かしわのような葉を皿代わりにして選り分ける。

 汁もの(あつもの)は、土器に水を入れ、石包丁で切った根菜などを加える。肉が手に入れば汁に投入する。弱火でじっくりと沸騰させてアクをとり、最後に塩を入れる。名主(村長)から支給される塩は最低限である。山中にあり付近に岩塩鉱脈もないこの地では塩は貴重である為、できるだけケチくさく使用。


 一菜は、水で浸してあく抜きした、どんぐりやワラビなど。葉野菜なら軽く濯いだけで出す。


 お椀と木のスプーン。

 汁もの以外は手づかみしても何ともいわれない。


 飲み水は井戸から土器の壺3つ分を汲んでくる。

 毎日、日の出前に井戸へ汲みにいく。男の仕事である。



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