第2話 狭間の地

 陽が射しかかり、目を覚ました。


 半身を立てると、どこか山中のどこかのようだった。

 脇を見れば、こんこんと湧きたたえた泉があり、そこから溢れた水が小さな流れを作っている。

 ゆっくりと立ち上がり遠景を望めば、パノラマに開けた先に大河と海が見えた。

 まるで見事な風水画のようで、空気がとても清らかに感じる。


「よお」斜め後ろから声がした。


 振り向くと、着物を着たくたびれた男が苔むした石に腰かけていた。


「ここは狭間の地だ。あの世とこの世、もしくは世界と世界のな。」


 男があごをしゃくる。

「そこの川とも言えないような小さな流れも、さまざまな流れと合流した末に大河となり、最後は海にたどり着く。そして空に昇る。」


「あんたは?」


「オレはおまえみたいにここに迷い込んだ一人だ。

 これからお前が行くだろう世界で産声を上げて、なんとなく生きて死んだ。

 ただ未練があったんだろうな、魂は留まってしまった。

 ずっとこの狭間の地で座り続けていた。

 そしたらあんたが現れた。」


 ■1/3■


「ちょっとしたアドバイスを贈りたいと思うが良いか?」


 俺は軽くうなづく。

 

「おまえは前世ではなんでもない存在だったはずだ。

 毒にも薬にもならん平凡ですらないちっぽけな存在。

 そういう存在でないと世界を越えられないみたいなんだ。

 これは心に留めておくといい。」


 馬鹿にした内容にも関わらず余り腹がたたないどころ、どこか納得してる自分がいた。ようするに前世の帳尻合わせが起きてるんじゃないかと思えたからだ。


「これから行く世界において魂が存在し、それにまといいつくかのように霊力レコンという不思議な力が巡り回っている。

 重要なのは8歳までは霊力が増えやすくなるという事だ。

 そして俺が編み出した霊流循環法は、霊力が少ない状態でないと修得できない。」


 俺はよくわからないとクビをかしげる。


「とりあえず黙って聞いとけ。お前が得をする情報だからよ。」

 

「オレは霊力が非常に少ない特殊体質だった。

 魔法みたいな力を用いる場合、大抵が霊力を必要とするから、俺は非常にがっかりしたよ。俺の場合、特殊な力を願ったからな特にな。

 だから成人してからも霊力についてアレコレと試行錯誤した。

 そして独特の霊力循環法を編み出し、ちょっとだけ術が使えるようになった。が、俺以外でこれを為すことが出来た奴はいなかった。

 霊力が多すぎると繊細な霊流操作はできないんだ。

 一般的な5歳児ですらすでに霊力が多すぎるんだ。」


「とはいえ・・・そもそも8歳未満が霊力を使用したら高確率で死亡するんだけどな。」


「おい!」俺は思わず突っ込んでしまう。


「まあまあ落ち着け。

 越界者。すなわち世界を越えて来た奴らは死ぬような事になっても、すぐに回復するから心配すんな。これは寿命以外のすべてに対応するものだ。」


「死なないというのか?」


「寿命以外はな。

 まあ、いろいろとツッコミ所はあるが、とりあえず聞いとけ。」


■2/3■


「オレが独自に発明した3つの霊流循環法、『逆循環』『濃縮循環』『多層循環』は霊量がきわめて少ない時でないと修得がおそらく不可能だ。」


「最初に学ぶべき『逆循環』がもっとも困難だろう。

 流れる水を逆転させることを想像すればよい。霊流は人それぞれに正循環をもっていて、自然とそう流れる力が働いている。その流れを止め、そして逆転させる。しかしだな・・・」


 ここから長々と霊流循環に関する技術的なレクチャーを受けることになるが、中略とする。とにかくこの3つの霊流循環ができれば、己の器を越えて大きな霊力を持つことができるということだ。


「でだな、・・・これら霊流循環を修得できたら霊力の器を大きくする段階に入る。

 逆に言えば8歳になるまでは霊力の器が大きくなりやすいチートタイムだと考えられる。というのはオレは試したことがないからな。

 霊力の器を加速的拡大させるには、霊力を1度に大量使用すればよい。目安は全霊力量の半分だ。それ以上行ってもあまり意味はない。」


「霊力の器が大きくなるたびに、各霊流層の濃度を高くし、そして新しい層を作っていけ。」


「他にも細かいことはいろいろあるが、オレが知る限り霊力に関するいわゆる『とりかえしのつかない要素』はこれだけだ。」


■3/3■


「ちなみに8歳になった子供は寺院にて選別の儀が行われる。

 そこで術者としての適正があると判断されれば、領都にある僧院で学ぶこととなるだろう。」


「もし村から脱出したいなら、この選定の儀を利用すればよい。

 村人の平均の2倍ぐらいの霊力を、多層循環の一番外側の層においてまとえば、中央における僧院に行くことができるだろう。

 僧院での年少生活は俺にはよくわからないが、この世界において基本的に神官は社会の基盤となるものだから悪い扱いはされないだろう。」


「さて・・・オレはそろそろ行く。

 俺の未練はこれから来る誰かにこれらを伝える事だったからな。

 霊流操作について誰にも教えるなよ。

 越界者における生き返りの特性もバレると色々と面倒なことになるから、絶対に隠せよ? 最悪、寿命が尽きるまで無限地獄だからな。

 じゃあな、上手くやれよ。」


「ああ、あんたの事を信じてとりあえず試してはみるよ。」


 男の姿がすっともやのように薄れ、それは天に昇って行った。

 それをぼーっとに見届けていると・・・


――突然、視界が真っ白になり、落下する感覚が襲う。


「うぉおおおおおおお! なんじゃこりゃぁああああ!」


濁流にのみ込まれたような衝撃、全身が撹拌されていくような・・・そして俺は気を失った。

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