間話 とある3冠馬オーナー代行のお話

「また取材を受けて頂きまして有難うございます」


「いえこちらこそ、お陰で大変な目に遭いましたけれど(苦笑」


「ふふ、そうですね、日本中大騒ぎになりましたからね!」


 相変わらずですね、あの大騒ぎをさらりと流すんですから。


「それでは取材させて頂きたいのですが、まずカザマテイオーの無敗での3冠達成おめでとうございます」


「ありがとうございます、いや本当に色々あって大変でした」


「率直にお聞きしますが、皐月賞の時点でこの結果を想像してらしたのですか?」


「そうですね、テイオーならそれ位のポテンシャルを秘めてるとは思っていました」


「1番大変だったのはやはり色々あった菊花賞でしょうか?」


「菊花賞が1番大変だったのは事実ですが、多分皆さんが思ってるのとは違いますよ?」


「えっ? それはどういう事ですか?」


「これはテキとヤネの名誉の為言わせてもらいますが、-10kgの馬体重もスタートの出遅れもチームで考えたプラン通りなんですよ」


「えーーーー!?」


「実はカザマテイオーは本質的に中距離馬なんですよ、菊花賞の3000mは厳しかったんです」


「そ、そうなんですか?」


「はい、その上でどうやって3000mを保たせるのか皆で考えたんです、まず馬体重に関しては3000m走りきる為に必要なエネルギー分だけの脂肪を残し減量に取り組みました」


「それは長距離用に体を作り替えたという事ですか?」


「そうですね、人間で言うマラソンランナーのように限界近くまで減量させました、軽量化する事で脚元への負担も軽減できましたね」


「ならレースで出遅れさせた意味は?」


「これは最内の経済コースを走らせる為でした、その為には1番前に出るか最後方から進めるかしか無かった、テイオーの末脚を信じて陣営は出遅れに見せかけた後方一気のプランを選択したんです」


「まさかあの出遅れにそんな意味があったなんて……」


「本当に菊花賞に関しては一か八かって感じでしたね、上手く行ったから良かったですが、内心ヒヤヒヤでしたよ」


「だから菊花賞が1番大変だったと?」


「そうですね、現時点でテイオーに長距離は厳しいです、2500mまでなら問題ないんですが」


「その距離を聞いてしまうと、有馬記念はやはり使われないんですか?」


「そうですね、菊花賞で無理させたのも有りますから、年内はお休みですね」


「残念ですね、なら来年の前半の予定は宝塚記念のみと?」


「テキの判断次第になりますが、テイオーの化骨も終えたようですので前哨戦は使うかも知れません」


「天皇賞春はやはり?」


「はい前述の理由で使う予定はないです」


「また色々揉めそうですね」


「はは、それは覚悟してますよ」


「それでは来年のプランはほぼ予定通りという事で、他に何かありますか?」


「それじゃあまた、これは絶対に記事にして欲しいのですが?」


「うわ、またソレですか? 勘弁してください、あの後デスクに記事の対応に追われて仕事にならないと怒られたんですよ!」


「ははは、でも雑誌はすごい売れたんですよね?」


「売り上げの新記録でしたよ、今回の件だってデスクに『とくダネ期待してるぞ!』って言われたんですから」


「はは、なら期待に応えないといけませんね!」


「ご、ゴクリ……」


「前回は負けたら引退と宣言しましたが、少し趣向を変えましょう、来年予定通り有馬記念まで無敗を続けたらカザマテイオーは引退します」


「えーーーー!?」


「でも、もしどこかで土がつくようなら引退を撤回して現役を続けます」


「えーーーー!?」


「他の馬の陣営の方に対する挑戦状と受け取って頂いて結構ですよ! 是非記事にして下さいね?」


「あ〜、また大騒ぎになる予感しかしないんですけど〜!」


「頑張って下さいね ♪」


 このガキ、絶対楽しんでやってるでしょ!



 この記事が掲載された後、予想通りにまた大騒ぎになりましたよ、デスク、私の所為じゃありませんからね!

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