未来知識で逆行した現代でスローライフを目指す

第四十五話 道場での決戦？②

「ふむ、すまんが嬢ちゃん、儂は健太以外にもう弟子を取るつもりが無いんじゃ」

「はい、お伺いしております、その上で一度この土産をご堪能頂いた上で話を聞いて欲しいのです！」

　さて乗るか反るかどう出る爺さん？

「……話を聞いた上でも断ると思うがそれでも良いのか？」

「有り難う御座います、その上で断られたのなら本望です」

　ふう、ようやくここまで漕ぎ着けたな、さて爺さん渾身の一杯を味わうがいい

早苗が袋から一升瓶を取り出す、その瓶にはラベルも何もなかった

「とある酒造の蔵人の方が、去年仕込んだ日本酒となります、お召し上がり下さい」

「本醸造の星乃寒梅を飲んだ後に杜氏ではなく蔵人の今年作った酒だと？」

「はい、どうぞお試しください」

「おっと爺さん、その前に水で喉を洗ってくれ、味の違いが分かり易いだろう」

　訝しがりながらも、水で喉を洗い流した後に早苗の持ち込んだ酒を注ぐ

「ふむ、香が少しキツイ、確かに若い酒じゃ、だが悪くない」

　匂いを嗅いだ爺さんは不思議と気に入ったのかそのまま飲み始める

「なんと！これは！　確かにまだ荒々しい若い酒じゃ、なのにこの旨みと何より甘みじゃ、先程の星乃寒梅とは方向性が違うが、今後を考えればコレは何という酒じゃ！」

「はい先程言いました若い蔵人とは実は杜氏の息子さんでして、流行りの淡麗辛口とは違う独自の酒を作りたいと試行錯誤中の物になります」

「なんとのう」

「現在地酒ブームとなっていますが、正直ブームに乗っただけの酷い酒の方が多いのが現状です、しかしこれではいけないという危機感を持った若い人間が立ち上がり初めているのです」

「……」

ここが説得どころだな

「なあ爺さん、あんたの背景に何があったのかは知らん、だがな武道の世界も同じなんじゃ無いか？　若い芽がなんとか芽吹こうとしてるんだ、少しくらい手を貸してやれやジジイ」

「全く誰がジジイじゃ！　これは主の仕込みじゃな？」

「確かに仕込んだのは俺だが、わざわざ山形まで出向いて蔵人に頭下げてお願いして金で買えない新酒を用意して来たのはそこのお嬢さんだよ」

「……まいった、これで断ったら儂ただのイジワル爺さんじゃないか？　はぁ〜……嬢ちゃん本当に儂が師匠でよかったのか？」

「はい、よろしくお願いします！」

　流石銘酒『十五代』頑固ジジイを叩き伏せるとは、只者じゃないぜ！

これで俺も用済みだし帰るとするか！

「おい小僧、その酒瓶をどうするつもりじゃ？」

「いや、俺の成人式の為に取っておこうかと？」

「それは儂の土産じゃ、勝手に持って行くんじゃないわ！」

「爺さんには星乃寒梅もあるだろ、コレは俺が頂いていく、あばよ、とっつあん！」

　ドツン！！　逃げ出そうとした俺の目の前に手裏剣が叩き込まれる

「あぶっ、危っ、こ、殺す気か、ジジイ〜！」

「儂の物に手を出すとはいい度胸じゃ、命ともども置いて行くといいわ！」

「ぎゃ〜〜！？」

　まあその後も結構なドタバタがあったが無事早苗の弟子入りはなった