それらは大抵、嫌なことが起きる前触れだった
携帯が鳴った。僕はひどく驚いた。
「誰?」
「誰だと思う?」
その声をどこで聞いたのか、僕は必死に頭の中をひっくり返した。
「僕の知っている女の子にそんな聞き方をしてくる子はいない」
「変ね。それってとっても変」
女の声がくすくすと笑った。
「どうしてこの番号が分かったの?」
「私はなんでも知ってるから」
「へえ。それは凄い」
「今晩、会えないかな」
「どうして会う?」
「あなたの顔が見たいの」
「なら住所を言って。悪用しない約束をしてくれるなら写真を送るよ」
大きなため息が聞こえてくる。僕がするようなため息よりもずっと細く、柔らかい。
「面白いことを言いたい人」
「僕のことだ」
「そう。可哀想な人」
「僕は君に会いたくないかもしれない」
「でも、私は会いたくてたまらないの。その……」
「初めてなのよ。こんなに楽しく話せる人」
「僕も初めてだ。番号を探されるほど愛されるなんて」
「私、凄く探したのよ。色んなことがあったわ。聞きたくない?」
「わかったよ」
僕は適当に場所を見繕って伝え、電話を切ろうとした。
「ねえ」
呼び止められるのはあまり好きじゃない。それらは大抵、嫌なことが起きる前触れだった。
「何だよ」
「楽しみにしてる?」
「僕が?」
耳を打つ不通話音が、一定間隔でなり続ける。とにかく可哀想な人の僕は、電話をポケットに押し込んだ。一人の女性を楽しませるために、すぐに出かけなければいけないようだ。
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