Chapter 2-22 ボクのイクスの使い方
「いくよ」
アリッサもベルベットも、身動き一つ取れなかった。
「あはは、ダメだよ。ボク、今いくよって言ったよね。ちゃんと身構えるくらいはしてくれなきゃ――」
二人が気付いたとき、きらめは既に彼女らの背後にいた。
「――すぐ、終わっちゃうじゃないか」
「ベルベット!」
きらめの手には、イクスで形作られた光の剣があった。二人がきらめを振り返る間に、きらめはイクスの剣をベルベットに向けて振るっていた。
瞠目しつつも、ベルベットの前に現れたのは黒い靄のような膜だ。これが盾となり、きらめの剣を防ぐ。が、激しくぶつかり合ったそれらは大きなうねりを巻き起こし、耐えられなくなったベルベットの身体を弾き飛ばす。
きらめはすぐさま地面を蹴り、跳び上がる。錐揉み回転しながらベルベットの頭上よりも遥か高くまで跳躍すると、片足を突き出した姿勢で固定し、イクスの光をまとってベルベットへと急降下する。
「くっ――!!」
それはまさしく隕石のよう。閃光をともなって落下してくるきらめに、ベルベットは黒霧の盾を展開する。激突する光と闇がせめぎ合い、世界を激しく揺らす。
「あ、あ、あああああああああああああっ!!」
この衝撃に押し負けたベルベットはしかし、恍惚とした笑みを浮かべていた。
彼女は背後の壁に激突し、それを突き破ってもなお止まれず、遥か彼方まで吹き飛ばされてしまった。
「あな、た、は……」
絞り出すように声を発したアリッサを、きらめは振り返る。その姿に、アリッサはびくりと身を震わせ、後ずさった。
「ボク? ボクはボクだよ。七星きらめ」
きらめは剣の切っ先をアリッサに向ける。
「キミたちを浄化してあげる存在さ」
アリッサは手をかざして瘴気を発生させた。それを養分にするかのように、瘴気がみかんの木に吸い込まれて急速に成長を進める。
みかんの木は瞬く間に増殖し、アリッサの姿を覆い隠す森と化した。
「ああ、なるほど。昨日、隣の町で瘴気が異常発生したのは、キミのせいだったんだね」
きらめは臆することなく森の中へと足を踏み入れる。
みかんの苗木に侵食した瘴気が、なったみかんから町中に広がっていた。それ自体は微々たるものだったのだろう。きらめにはずっと、たき火のくすぶるような音が聞こえていた。それを一気に爆発させたのがアリッサの手によるものだったのだ。
「今日はボクたちがここに来ると踏んで、火事を? ふふっ、何がしたいのか教えてくれるとありがたいなぁ」
きらめからはアリッサが見えないが、それはアリッサにしても同じことだった。
いや、本来ならこの森はアリッサの独壇場となるはずだった。森の主であるアリッサには、侵入者を排除する能力が備わっているはずだ。だが、この世界ではずっと雄大な森の中で育ってきたきらめには、この即席の森は狭すぎた。
縦横無尽に木々の間を飛び回るきらめを、アリッサの仕掛けでは捉えきれない――!
「はッ!」
アリッサの姿を捉えたきらめは、短く呼吸を切り、彼女へと一足飛びに斬りかかる。
後追いでそれを認識したアリッサは、木々を操りきらめを捕縛しようと試みるが、きらめはそれを難なく躱しながらアリッサとの距離を詰める。
「これで――」
終わりだ、と剣を突き刺そうとしたきらめだったが、そのとき四つの指輪すべてが強く光り始め――。
「あ……っ! ぐっ……! 止め、ないでよ……! もう……! ちぇ……いいところだったのになぁ……」
きらめは頭を抑えて動きを止め、その場に倒れ伏したのだった。
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