Chapter 2-20 リーゼさんのおばあちゃんでした
「すまないねぇ、お兄さん」
「いや、構わんさ」
ゲンは背負った――リーゼの祖母だという老婆へ、走りながらも努めて落ち着いた声を返す。
足元で並走するウリボーは、心配そうに何度も老婆へ視線を送っていた。
「誰か……!! 誰かいませんか!」
「返事をするのよーう!!」
前を見れば、生存者を探して呼びかけながら、町の出口へ急ぐリーゼとドラの姿がある。
しかし、懸命な捜索も虚しく、生存者は一人も見つからない。
「お兄さん……この辺りで降ろしておくれ」
「何を――」
「私はもう駄目さね。お兄さんも、分かってるだろう?」
そう言う老婆の声に、悲痛な色はない。それはただ、自分の死期を悟ったかのような極めて平静なものであった。
「……ふぅーっ。ばあさん、滅多なことを言うもんじゃない。もうしばらくの辛抱だ。火のないところに出たら、応急処置をして、すぐに治療してもらえるところへ向かう。それまで耐えてくれ。頼む」
「いや……。そうしたいのはやまやまなんだけれどねぇ……。もう、目がかすんで……」
老婆の声が尻すぼみになっていく。
「孫の……リーゼの顔を見せてくれないかい……?」
「……わかった。リーゼ!」
口元を引き結び、ゲンは老婆の意を汲むことを決断した。
呼び付けたリーゼはこちらを振り返り、駆け寄ってくる。
「リーゼ……。私の……」
「ぷぎゅ!?」
そのとき、突如としてウリボーが慌てた鳴き声を発した。ゲンは何か嫌な予感を覚え、サングラスをむしり取るかのように外す。
老婆を投げ捨てるかのように、抱える腕を離す。
――だが、判断が遅かった。
「リーゼ……。その身体、返しておくれ」
「え――?」
その瞬間、リーゼの身体は老婆から放たれたどす黒い瘴気に覆い尽くされてしまった。
※ ※ ※
瓦礫の山を、きらめは弓を構えたまま冷ややかに見つめていた。
動きはない。その下に人の形をしたものが埋もれていることすら、忘れてしまいそうになるほどに静かだ。
だがきらめは、そこにまだ敵がいることを確信しているかのように目を離さない。
が、突如としてきらめの耳をつんざくような破裂音が襲った。不意に横合いから殴られたかのような暴力的なそれに、思わず顔をしかめながらも振り仰ぐ。
「これは――!?」
それは瘴気だった。その中でも特別、どす黒いコールタールをイメージさせるような悪意に満ち溢れたものだ。
もう一度瓦礫の山を一瞥し、動きがないと見るや、きらめは瘴気の発生したと思われる場所へ向かって駆けだした。
きらめがその場からいなくなると、瓦礫の端から欠片がぽろりとこぼれ落ちた。
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