Chapter 2-18 あなたは敵だ

 魔族。そう聞いた瞬間、リーゼとゲンは身構える。

 ドラはきらめの元へ飛び出そうとしたが、他でもないきらめ自身から制止をかけられる。


「ドラは二人を! ゲンさん、リーゼさん、こちらのおばあ様をお願いします!」


 ぷぎゅ、とウリボーがその小さな身体のどこにそんな力があるのか、見事に老婆を背に担ぎ、ゲンとリーゼの元へ運んでいく。


「え、おばあちゃん!?」

「おや……リーゼ、なのかい……?」


 老婆と顔を合わせ、リーゼは悲痛な声を上げた。どうやら二人は知り合いのようだ。

 驚いたが、今はその話をしている場合ではない。


「うふふふふふっ、そろそろよろしいでしょうか? わたくし、この日をずうう~~~~~~~~っと待ち続けておりましたのよ?」


 屋根の上の少女が、待ちかねたと言わんばかりに身体を震わせながら叫んだ。

 少女は大仰な動作を加えながら、屋根の上から飛び降りる。


 そして華麗に着地したと思った瞬間、彼女はきらめの目の前にいた。


「さあ、かの君。わたくし、こおお~~~~~んなに悪いことをしてしまいましたわ? ……叱ってくださいまし?」


 彼女の手が、きらめの頬に触れる。その時、きらめの背筋を駆け巡ったのは思いもよらないほどの悪寒だった。同時に、頭が割れそうなくらいの破砕音がきらめの耳朶を叩く。


「――ルフェ!!」


 きらめの身体を包んでいた風の幕が、大きなうねりを上げて吹き荒れる。

 これに、堪らず少女は吹き飛ばされるが、地面に叩きつけられそうになった彼女は、次の瞬間には屋根の上に立っていた。


 少女はきらめを見下ろしながら、頬を歪めて嗤う。


「……ふふっ。ふ、ふふふふふふふふはふふふはふふはふはははふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふははふふふふふふふふふふふふふふふふふはふふふふふふふふふふふふふふっ!! いい……!! その目、その目ですわ! ああ……もっと……!! もっと、そうやってわたくしのことを親の仇のように!! 憎悪を持って!! 睨みつけてくださいませ!!」

「きら、め……?」


 その様子に、ドラたちは愕然としていた。


 きらめは今、その相貌を憤怒に歪ませて少女を見上げていたからだ。

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