Chapter 2-17 生きている人がいないか探します

 炎のなかで命が燃え尽きていく臭いがする。

 焼け堕ちていく街のなかで灰になっていくものは、きらめには救えない。まるで、穢れていないものまで救おうなどおこがましいとでも言われているかのように。


 炎は、きらめの前で容赦なく命を奪っていく。きらめは歯噛みしながらも駆ける。この二年、一番辛かったのはこういう状況だ。どれだけ瘴気を浄化できようとも、命までは救えないことがある。


 問題は二点。この惨状のなか、まだ生存者は残っているのか。いるのならば早急に救助しなければならない。もう一点は先ほどきらめが感知した瘴気が、今はまったく感じられないということだ。チリチリと焼け焦げる音は、比喩でもなんでもなく炎の音でしかない。


 とにかく、きらめとウリボーはひたすらに生存者を探した。ルフェの力を借りて駆ける二人の周りを、炎が忌避するかのように逸れていく。


 これは風のバリアだ。炎は気流に流されてきらめたちに近寄ることを許されない。ディーやドラの力よりも炎の対策とするには技量を試されるやり方だったが、今のきらめには造作もない芸当である。


「誰、か……」


 やがて、燃える家屋から這い出してきた人影を発見した。


「大丈夫ですか!? ……あなたは!」

「……おや……。昨日、の……」


 灰まみれでボロボロになっていたその人物は、昨日の汽車で相席した老婆であった。


「しっかりしてください! 避難しましょう!」


 驚いたが、その間も惜しいときらめは老婆を抱き起こそうとする。


 ――そのときだ。


「ちょおおおおっと、お待ちくださる?」


 聞こえた声に振り仰ぐ。燃え盛る炎に焼かれる屋根の上。そこにいたのは、黒いローブで全身を覆い隠した人物であった。


 ローブを脱ぎ捨てる。あらわになった姿は、見目麗しい金髪に、胸部分だけを覆う布、短いプリーツスカートという少女であり――その双眸は獰猛な獣の如く、しかしどこかうっとりときらめを見つめていた。


「あなたは……!!」


 きらめは、彼女の姿を見て合点がいった。街にたどり着く前に聞いた瘴気を弾く音。その原因と、あれからなぜ聞こえなくなったのか。


 そして今、どうしめきらめの脳裏で、警鐘の如く鳴り響き続けているのかを。


「キラメ!」

「ちょっと、待つのよーう!」


 そこへ追いついてきたのはリーゼたちだ。彼女らは現在の状況を見て驚愕と困惑に染まる。


「みんな、気をつけてください」


 きらめの声は、焦りと畏れににじんでいた。


「あの人は……。第三段階、魔族です」


 屋根の上の少女は、口の端を引き裂かれんばかりに吊り上げた。

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