Chapter 2-16 燃える街へ突入します

「ぷぎゅっ!」


 きらめが瘴気を弾く音を聞いたと同時に、ウリボーが反応を示した。彼もまた、瘴気に対する耐性を持つ者である。きらめと同じ音を聞いたのだ。


「どうしたの? って、キラメ!?」


 リーゼの問いに答える間も惜しんで、きらめは後部座席から身を乗り出した。


「ゲンさん! 瘴気です!」

「何!? この先でか!」

「はい! 急ぎましょう!」

「……しっかり掴まっていろよ!」


 ゲンはアクセルを踏む足に力を込める。急激な加速に車体が大きく揺れる。

 次第に遠くの空が赤く染まっていく。ゆらゆらと揺らめき、周囲の色を変えていくそれは、炎だ。やがて街が見えてくる。燃え盛る炎に包まれ、地獄と化した街が。


「酷い……ッ!!」


 変貌してしまった生まれ故郷の姿に、リーゼは憤慨した。

 一体誰が、一体何が――。


 はやる気持ちが加速させたかのように、車は全速力で街の前に急行する。弾き出されんばかりの勢いで、きらめとウリボーは車から飛び降りる。


「先に行きます! ドラ!」


 きらめは高らかに赤い指輪を付けた指を掲げた。

 ……のだが、特になんの反応もなかった。


「あれ? ドラ? ドラちゃーん? ドラえ――」

「なんとなくそれ以上はダメな気がするのよーう!」


 きらめの意図しないタイミングで、赤い指輪が煌めく。

 現れたのはみなさんお待ちかね(きらめ一人)のドラである。


「あ、よかった。指輪壊れちゃったのかと思ったよ」

「そんなわけないのよーう! ……また、勝手に真名開放したでしょ」

「あっ」


 きらめはドラから視線を逸らした。

 彼らの間にはある取り決めがあるのだ。真名開放は互いに合意したときのみ。なぜなら互いに負担が大きく、きらめは使用後に倒れてしまうし、妖精たちは命の危険はないものの、指輪はしばらく使えなくなってしまう。


 そんなきらめを、ドラは下から見上げる。


「きぃーらぁーめぇー?」

「ほ、ほら、緊急事態だったから……」

「ああん? なのよーう?」

「済みませんでした!」


 世界よ、これがDOGE(ry

 しかし やはり ドラには こうか がなかった!


「ていっ!」

「あぅっ」


 ドラのでこぴんが飛ぶ。しかしまったく痛くないので、きらめは後ろに仰け反るリアクションを取っただけだ。


「……それで? また今日も大変なことになってるみたいだけど、どうするのよーう」

「あ、そうだった。リーゼさんとゲンさんを火から守ってあげて! 僕は先に行くから。それじゃ、お願い!」


 きらめはドラの返事も待たずに駆け出す。


「ちょ、ちょっと! きらめはどうするのよーう!」

「ルフェがいるから大丈夫!」


 緑色の指輪が光り、きらめの身体を風の膜が覆う。その一瞬に、ルフェの勝ち誇ったような笑みが見えた気がして、ドラのこめかみに青筋が走る。


「今日は! 真名開放だけは! 絶・対! ダメなのよーう!!」

「分かってるよ! 大丈夫!」


 手を振りながら、きらめは炎の中に消えた。


「苦労、してるのね……」

「分かってくれる人がいたのよーう……!」


 ポン、と肩を叩いたリーゼのふくよかな胸に、ドラはがしっとしがみついた。

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