Chapter 2-15 次の街へ向かいます
「行くのか」
身支度を終え、出立しようとしたきらめたちだったが、二階ラウンジを通りがかったところでそう話しかけられた。
相手はゲンだ。彼は手にした新聞から顔を上げ、声をかけてきたのだ。サングラスをかけたままで新聞が読めるのか気になったが、それを訊く前にゲンの言葉に答えなければ。
「はい。リーゼさんが帰省する途中だと聞いたので、せっかくなので道中をご一緒させてもらうことにしました」
汽車に乗って次の駅が、リーゼの実家のある街なのだそうだ。奇しくも、昨日相席した老婆の向かった先と同じ場所である。
奇妙な縁を感じつつ、次はどこに行くかを考えていたきらめは、せっかくの縁なので旅路をともにさせてもらいたいと願い出た。
これをリーゼが快諾したので、きらめたちは早速だが宿を発つことにしたのだ。
「ゲンさんは今日はどうするの?」
リーゼが訊ねると、ゲンは少し考える素振りを見せた。
「そうだな……。よし、俺も同行しよう。車も出してやれるが、どうだ?」
「あら、本当? それならぜひお願いしたいけれど……キラメもいいかしら?」
「はい! ぜひ!」
車と聞いて、きらめは目を輝かせた。この世界で車はかなり珍しい代物だ。加えてきらめは元の世界でも車に乗ったことがほとんどない。
興奮した様子のきらめに、リーゼは少々気圧され気味だったが、ゲンはきらめの気持ちがわかるのか、ニヤリと笑みを深めて出発の準備をしに部屋へ戻っていった。
やがて身支度を整えたゲンとともに、きらめたちは『螺旋の環』を出る。路地裏に入ると、そこにはシートを被せた大きななにかが鎮座していた。
ゲンがシートを外すと、中から現れたのはモスグリーンの車体を持つ四輪バギーであった。
「おおおおおおおおおおお!」
「ぷぎゅうううううう!」
きらめとウリボーが、揃って興奮した声を上げる。
リーゼさん、車ですよ車!
お? なんだこいつ? やんのか? お?
……それぞれ興奮の意味がまったく違うようだったが、リーゼにはその違いがまったく分からなかったので苦笑いしかできなかった。
「ふぅーっ。さて、それじゃあ行こうか」
ゲンの運転で、きらめたちを乗せた車が発進する。街中でのスピードは控え目だったが、街を出ると途端に加速する。
「それじゃあ道案内は頼むぞ、リーゼ」
「え、ええ。取り敢えずこのままで大丈夫よ」
道中の道は平坦で、旅路は快適だった。のどかで、人の姿などほとんど見られない道が延々と続いている。
しかし、やがて次の街が見えてくるというところで、だ。
きらめの脳裏で、バチンと大きく弾ける音がした。
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