Chapter 2-13 とりあえず朝食を食べましょう
第三段階――『魔族』にまで至った『魔物』は、きらめの力でも浄化することはできない。より厳密に言えば、浄化することはできても元の姿に戻すことができなかったのだ。
ウリボーはあのとき、第二段階だった。瘴気に呑まれて変貌した体躯は、元のうりぼうからは想像もできないほどの巨体と化してしまっていた。
もし第三段階にまで進んでいたらと考えると、今でもぞっとする。
「なるほど……。倒すことはできたんだな?」
「はい。……これは僕のわがままでしかないのかもしれません。でも、僕の力は瘴気を浄化する力です。だからそこだけは譲りたくないし、譲っちゃいけないと思うんです」
きらめの言葉に、ゲンは深く息を吐く。
隣のリーゼも真剣な面持ちである。
「はーい。シリアスなトコごめんなさーい」
と、そんなテーブルの空気をものともせず、抑揚の少ない声が近付いてきた。
カウンターにいた子供である。なぜか今はメイド服を着ており、その手には丸いトレイを持っていた。
トレイに乗せられていたのは、デザートのプリンと紅茶のセットだった。てきぱきと、淀みない動作で三人分が用意される。
「んじゃま、ごゆっくりー。あ、君はこっちねー」
ぺこりと頭を下げ、子供はウリボーを連れてその場から去っていった。
すっかりさきほどまでの空気が霧散したテーブルで、リーゼが苦笑いする。
「まずは、食べてからにしない?」
「ふふっ、そうですね」
きらめは笑って、食べ損ねていたソーセージエッグマフィンを口に運んだ。プリンと紅茶付きの、優雅な朝のひと時がようやく始まる。
「君は、自分の力の使い方を、しっかり考えているんだな」
「ちゃんとできていればいいんですが……」
「フッ、できているさ。自信を持っていい」
笑いかけるゲンの言葉に、きらめは照れ笑いを浮かべた。
「ゲンさん、なんだか先生みたいね」
「ん? そうか?」
「ゲンさんが先生……いいですね」
などと談笑する和やかな空気の中、きらめはふと、窓の外を見やる。
「そう言えば、外はどうですか?」
「瘴気のこと? 大丈夫よ。キラメがしっかり浄化してくれたもの」
「そうですか……。よかった」
きらめは紅茶を口にする。安堵する一方で、今回の一件、解決していない点が一つ残っている。
果たして瘴気は、いったいどこからどのように広がったのだろうか。
◇ ◇ ◇
「ああ~~~~っ! さっっっすがですわ~~~! あれだけの瘴気をこんなに簡単に浄化してしまうなんて!!」
「本当だねぇ……。話には聞いていたけれど、ここまでとはねぇ」
時計台の上に、黒いローブに身を包んだ二人組の姿があった。完全にその身を覆い隠しているため、その容姿はうかがい知れない。
ただ、どうやら大きな声を上げたのは若い女性のようであり、もう一人はかなり高齢の老婆のようだった。
「でしょう? ああ~~~~……っ! もう! 今すぐあのかたの元に馳せ参じてその寵愛を一心に承りたいのに~~~っ!!」
「まあ、まあ。落ち着きなさい。とりあえず、そうさね」
老婆はどこからともなく、オレンジ色の果物を取り出した。
「みかんでも、お食べなさいねぇ」
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