Chapter 2-9 第二段階を浄化しましょう
「ルフェ!」
<任せるっしょ!>
右手の指にはめた、緑色の指輪が光る。するとどこからともなく発生した追い風がきらめの疾走を後押しし、彼は第二段階の魔物へ向かって跳躍する。風の力を借りて飛び上がったきらめの身体は、魔物の頭上を越えて周囲の建物の屋根ほどの高さまで到達する。
そしてここで風向きが変わる。下方に向けて強烈な勢いで吹き下ろされる風が、きらめを急激に落下させる。きらめは足にイクスを集中させながら、落下するままに蹴りを放つ。
「はああああああああああああっ!!」
魔物にとっては向かい風であり、きらめの特攻じみた突撃に虚を付かれたというのもあるだろう。はたまた閃光に目を奪われたか。微動だにできず、きらめがそのまま放った蹴りを受けて後方へと吹き飛ぶ。
石畳をえぐりながら倒れ伏した魔物は、しかしきらめのイクスを受けてなお、浄化されてはいなかった。ぎこちなく身体をよじり、起き上がる。その身を覆うローブ状の瘴気は、端の部分がすすけた布のように消えるが、それだけだ。
浄化されていないわけではない。あのローブは瘴気そのものでありながらも、核となる部分を浄化されないように守る手段として機能しているのだろう。
今の一撃でそう判断したきらめは、矢を乱射しながら一旦距離を取る。本来ならばとどめの矢を至近距離で撃つつもりだったのだが、あの様子ではまともには通用しないだろう。
魔物のローブの中から、生えてくるかのように腕が飛び出し、きらめの放つ矢を掴んでは投げ捨てる。牽制とはいえ、直撃も狙えるコースを選んで撃っているそれを、こうも簡単に対応してしまうとは。
「ォォォォォォォォォォォ!」
魔物は遠吠えのような、低くおぞましい咆哮を上げる。大気が震え、周囲の地面や建物すら揺るがす。
同時に、バチン!! と、きらめの耳にことさら大きな音が響く。どうやらこの咆哮自体に、瘴気を伴う大きな攻撃性があったようだ。
きらめが顔をしかめている間に、魔物が動いた。その巨躯に似合わない俊敏な動作で飛び上がると、きらめを捕らえようとして両腕を伸ばして掴みかかってくる。
「――ノン!」
黄色の指輪が光り輝くと、地面が隆起し岩の壁が現れる。その数は三。きらめと魔物を隔てる防壁となったそれは、しかし一つ目は伸ばしたままの腕に粉砕され、二つ目は体当たりで薙ぎ倒され、三つ目は踏み台に利用される。
きらめの直上から落下していく魔物。だがその眼下に、きらめの姿はなかった。
魔物の背後の空間が白く輝く。
イクスの矢を構えたきらめが、魔物の後ろを取っていたのだ。
すでに落下に入っていた魔物に対し、きらめの跳躍はまだ頂点に達したばかりだ。きらめは充分に引き絞った矢を、魔物の頭上から放つ。
矢は放たれた瞬間に拡散。幾本もの光条となって、魔物の身体を覆う瘴気へ突き刺さっていく。そのまま地面に打ち付けられた魔物の自由を奪う楔として、光の矢は瘴気から石の床までを貫通する。
動きを封じられた魔物に乗り、きらめはローブから覗く子供の顔へ手を伸ばす。
おそらくはここが核。
頬に触れると、虚ろだった子供の顔に生気が戻っていく。その身体を抱き締めるように掴み、文字通り瘴気に囚われた子供を解放する。
抜け殻となったローブ状の瘴気から、声にならない叫び声が上がる。
その挙動を見て嫌なものを感じ、きらめは目を見開く。そこへ、子供たちを非難させたリーゼが戻ってくる。
「リーゼさん、この子を!」
渡しに行く余裕もなかった。きらめは急ぎ、リーゼへと解放した子供を投げ渡す。
「キラメ!!」
リーゼの悲痛な叫びもむなしく。
きらめはそのまま、新たな宿主を求めるかのように襲ってきた瘴気に呑みこまれてしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます