Chapter 2-6 時計台に上ります
リーゼの案内で時計台に辿り着くころには、すでに時刻は夕方になっていた。
レンガ造りの高台の壁には、巨大な時計が埋め込まれており、七時半を指し示していた。展望台に上がったきらめは、時計の針が動く音を聞きながら町を見下ろす。
「わぁ……!」
夕焼けに染まる赤レンガはそれそのものが夕凪のように、鮮やかでありながらどこかぼやけた色を見せていた。
目を輝かせてそれを眺めるきらめは、同時に町の様子を観察していく。神様からもらったきらめの身体は、視力も常人のそれとはかけ離れている。ここから見える範囲内であれば、石畳の傷の数さえ正確に計れるほどだ。
その眼をフル活用し、きらめは町の地理を把握する。同時に瘴気の発生源も特定できればそれが一番だったが、流石にそこまで上手くはいかなかった。
「キラメ、そろそろ暗くなっちゃうわ」
「っと、そうですね。では降りましょうか」
リーゼに声をかけられ、気付けば辺りは暗くなり始めていた。そろそろ行かなければ、宿を取るのも難しくなるだろう。
日が沈み始めると、あっという間に町は暗闇に包まれていく。
徐々に町の明かりが人工的なものに移り変わる。
「ところでリーゼさんは、今日の宿はどちらに?」
「それなんだけど、キラメがまだ泊まるところを決めていないなら、私の部屋に来ない?」
「えっ? いえ、でもそれはリーゼさんにも宿の方にもご迷惑がかかるんじゃないかと……」
「あら、大丈夫よ。こんな小さな女の子ひとりですもの。宿のご主人も笑って受け入れてくれると思うのだけれど」
「そう、ですか……?」
「ええ。それじゃあ、決まりね。行きましょう?」
そのまま会話の流れをリーゼが掴んだため、きらめはリーゼの泊まっている宿へと連れて行かれることとなった。
「ほら、ここよ」
やがて辿り着いたのは、周囲のレンガ造りとは趣の違う、木造の建物の前だ。この建物そのものがアンティークのような、古めかしい佇まいである。
きらめは宿屋を見上げながら、この建物をどこかで見たような気がして首をかすかにひねる。
そんなきらめを余所に、リーゼがドアを開けようと手を伸ばした。
――その瞬間だった。
耳元で大きく弾ける音を聞きながら、きらめは構わず声を上げる。
「リーゼさん!!」
「キラメ!?」
突如大声で呼ばれて動きを止めるリーゼに、ウリボーが突進する。体勢を崩したところへ、きらめがすでに構えていた矢を射る。
きらめのイクスでできた光の矢が虚空を貫くと、黒く禍々しいオーラが、霧散して消える。そこはドアを開けようとしたリーゼの肩口があった場所であった。
「キラ、メ、今のは」
「ええ、瘴気です。……でも、これは、まさか……!!」
聞こえる音を追うかのように、きらめは周囲をせわしなく見回す。
「瘴気が、町中に広がっていっています!!」
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