Chapter 2-5 『魔族』について説明します

「『魔族』……!?」

「はい。悪魔、魔人、言い方は色々あるかもしれませんけれど、いずれにせよ第二段階までとは比べ物にならない力を持っています。理性を取り戻して元の身体にも似た姿を得た彼らは、別の次元の存在へ進化した、と言っても言い過ぎてはいないと思います」

「そんな……。本当にそんな存在が……」


 驚愕しながらも半信半疑と言った様子のリーゼだったが、すぐにハッとなり、話を続けようとしたきらめを制止する。


「ちょっと待って。『彼ら』って、まさか、キラメは――」


 彼女の言葉尻を察したきらめは、ゆっくりと頷いてみせた。


「会ったことがあります。瘴気に染まったイクスはそれだけで人に害をなせるものですが、魔族はそれを自由に操ることができます。第二段階とは段違いの力を持っているのはそれが大きいでしょうね」


 きらめの話はにわかには信じがたいものである。リーゼもその真偽を判断しかねている様子だったが、しかし頭ごなしに否定しようともしていなかった。それは食事の手を止めて、きらめと視線を合わせていることからも明らかである。


「じゃあ、キラメは魔族を倒すために『千年大樹の巫女』様を……?」

「うーん……そうですね。大体そういうことです。できれば浄化してあげたいと思っていますけど」


 瘴気を祓う力を持つという『千年大樹の巫女』。その力を借りることができれば、魔族を浄化することもできるかもしれない。そんな一縷の望みをかけて、きらめは『千年大樹の巫女』を探しているのだった。

 しかし瘴気の浄化がきらめの大目的である以上、それだけに専念する訳にもいかず、手がかりも少ない。今回のリーゼとの出会いのように偶然に身を任せるほかなく、まるではかどっていないのが現状である。


 きらめは食事を再開する。リーゼもまだ話の内容に衝撃を受けている様子だったが、同様に食事を再開した。


「それで、キラメはこれからどうするのかしら?」


 食事を終えると、まずリーゼがそう切り出した。


 きらめはナプキンで口を拭きながら思案する。まずはこの町に広がろうとしている瘴気を浄化しなければならない。依然としてバチバチと弾ける音は聞こえるが、周囲に目を配っても人や物が瘴気に侵されているようには見えない。


 もっとも、その大きさや距離感から、今聞こえている音の発生源はこの店内ではないだろう。引っかかるのは先ほどの大きな音だが、あれ以降まったく音沙汰がないのがかえって不気味である。


 思っている以上に長丁場になるかもしれない。滞在するための宿も確保しなければならないだろうが、まずは。


「そうですね……。この町全体を見渡せるような、高台とかがあれば行ってみたいんですが……。リーゼさん、ご存じないですか?」

「高台? そうね、それなら時計台がいいんじゃないかしら。案内しましょうか?」

「いいんですか? ぜひ!」


 こうして今後の段取りが決まるなか、時計台という単語に興奮気味になるきらめであった。

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