Chapter 2-4 魔物について説明します

 ほどなくしてオーダーが届いてから、二人(+一匹)は食事をしながら会話に花を咲かせていた。


 きらめの耳には、たき火の炎がくすぶるような音が絶え間なく聞こえているが、発生源を特定できない以上、手の施しようがない。もどかしいが、今は割り切ってリーゼの話を聞くことにしている。

 ウリボーがどこか焦っているようなそぶりを見せていたが、きらめが優しくなだめてやったことで今は食事に集中している。


「なるほど、植物を操ることに特化したイクスですか! それは珍しいですね!」

「そう? 確かに、同じような魔法を使える人は見たことないわね……」

「その苗木はどちらから?」

「ええ、これはね、私の父の生家がみかん農園をやっているの。そこで最初に頂いた苗を育てて、また新しい命を繋いで……今はこの子」


 リーゼは愛おしそうに、テーブルの隅に置いた苗木を見つめる。


 広場での演目の後、みかんの木は元の苗木に戻されていた。これもまた、彼女のイクスによって引き起こされた奇跡である。


「私は、世界中にこの子たちを広めたいの。瘴気でおかしくなってしまっていっているこの世界で、この子たちが少しでも誰かの生きる力になってくれたら……」


 リーゼはその為に世界を旅し、適した場所を探しては苗木を植えて回っているのだという。

 この活動が果たして目が出るのかは定かではない。それでも彼女はこの世界を想って行動を起こしている。


 きらめはその想いと願いが形になって欲しいと、本気で思ったのだった。


「それで、キラメはどうして『千年大樹の巫女』様を探しているの?」

「へっ?」


 逆に訊かれると思っていなかったきらめは、思わずすっとんきょうな声を上げてしまった。


「あら、訊いちゃいけないことだったかしら?」

「いえ、そんなことはありませんが……。そうですね、リーゼさんは『魔物』についてご存じですか?」

「魔物? ええ。瘴気に侵された人や動物のことでしょう?」

「はい。でも実は、魔物には瘴気に侵された度合いによってある程度の段階に分けられることが分かりました。まずは瘴気に侵され始めた、第ゼロ段階と呼ぶべきでしょうか。苦しくなって身動きが取れなくなる、といった症状がよく見られます。そして瘴気が体中に広がり、呑み込まれてしまった状態が第一段階。自我が失われ、暴走を始めます。この段階ではまだ元の姿を保ったままの場合がほとんどです。そこから更に瘴気の侵食が進むと、第二段階になります。瘴気が身体からあふれ出して、身体の形が変わったり、大きくなったりします」

「それが、魔物……」


 リーゼも納得した様子だった。一般的にイメージできる魔物とは、おおよそきらめの説明通りで間違いないようだ。


 しかしきらめは、更に口を開いた。


「ええ。でも、実は更にこの先の段階があるんです」


 目を見開くリーゼを前に、きらめは言葉を継ぐ。


「それが第三段階。ここまで至ると、もう『魔物』ではなく『魔族』と呼んだ方がいいかもしれません」

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