Chapter 2-3 違ったみたいです

「ごめんなさい、私はたぶん、その『千年大樹の巫女』様じゃないわ」


 女性は首を横に振った。


 きらめたちは今、レストランを訪れていた。広場での魔法の披露を終えた女性に、きらめが話がしたいと持ち掛けたのだ。これを女性――リーゼと名乗る彼女は快諾し、きらめとウリボー、そしてリーゼの三人で食事もかねてここへやってきていた。


 そしてきらめは、彼女が『千年大樹の巫女』であるかどうかを尋ねたのだが。


「最初に呼ばれたときは、びっくりしたけど嬉しかった。でも、その方の話を聞いている内に私のことじゃないなぁって。私には瘴気を祓うなんてこと、できないもの」

「そう、でしたか……。すみません、不躾に」

「そんな、謝らないで。そう呼ばれるのにいい気になってたみたいで、否定してこなかったのは私だもの」


 リーゼは苦笑いを浮かべた。

 その対面でわずかにうつむくきらめの足を、ウリボーが心配げにポンと叩いた。


「ほら、もうすぐ頼んだものが来そうよ。うりぼうちゃんも楽しみよね?」

「ぷぎゅっ!」


 リーゼの問いに、勇ましく返事をするウリボー。それを見て、きらめも不思議と元気が湧いてくる。


 その時だった。


 ――バチン!


 きらめは近くで聞こえたその音に、大きく目を見開いて反応した。


「ど、どうかしたの?」


 きらめの様子に戸惑うリーゼを前に、きらめは緊張感に満ちた形相で周囲をうかがう。

 ウリボーも、周囲をしきりに警戒している。


 きらめは、彼とウリボーにのみ聞こえる音を頼りに、瘴気の濃い場所を探っているに過ぎない。つまり、その正確な位置や侵されたものを特定することはできないということだ。


 今の音はその大きさと距離感から、かなり近く――この建物内からとみて間違いないだろう。

 問題は誰に、何に、というところだが。


 瘴気に侵され黒く染め上げられたイクス。

 しかし、目を凝らして周囲を見回してもそれらしきものは見受けられない。


「あの……キラメ?」

「――え?」


 声を掛けられていたことに気付いたきらめは、ハッとしてリーゼに向きなおる。


「どうしたの? すごく怖い顔して……」

「あ、いえ……。すみません、勘違いだったみたいです。なんでもありません」


 心配げにきらめを見つめる彼女に、きらめは照れ笑いを浮かべてみせる。

 そんなきらめにどこか腑に落ちない様子のリーゼだったが、それ以上は言及しても仕方がないと思ったのだろう、曖昧な笑みを浮かべてこの話を終わらせた。

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