Chapter 2-2 出会っちゃいました
「うーんと、あっちかな」
「ぷぎゅっ!」
ウリボーが頷くのを見て、きらめは指差した方角へと歩き出す。
彼らだけに聞こえる音。この辺りは瘴気がまだ薄いのか、かすかに聞こえる程度ではあるが、それでも瘴気があることに間違いはない。
耳を澄まさなければ聞き逃してしまいそうなほど、僅かな音を頼りに、きらめたちは町の中心部へと向かっていた。
石畳の上を歩きながら、レンガ造りの家々を眺める。きらめはそうしているだけで楽しかった。ベッドの上で夢見ていた世界が目の前にあり、自由に動き回れる。
「ぷぎゅ?」
「どうしたの、ウリボー」
途中、ウリボーが何かに気付いたようだった。彼の見ている方を見やれば、そこは大きく開けた広場のようだった。中央に設置された噴水の傍に人が集まっているのが見える。
「おおー!」
と、なにやらざわつく人だかりの中で、歓声が上がった。
なんだろうと、ウリボーと顔を見合わせていると、
「すごい、流石――『千年大樹の巫女』様!」
きらめにとって無視できない単語が聞こえてきた。
ウリボーと頷き合い、きらめはそちらへ急いだ。
しかし近付いても、小柄なきらめでは人だかりの先を見ることは叶わなかった。
なのできらめは、後ろの方にいる大人に声を掛けてみた。
「『千年大樹の巫女』様がいらっしゃるんですか?」
「え? ああ、そうだよ。そうか、お嬢ちゃんじゃそこからは見えないか」
話し掛けた男性は、きらめを見るとそう言って背を向けてしゃがむ。サングラスを掛けた大柄な男性だったが、きらめに臆した様子はまったくなかった。
「ほら、乗りなお嬢ちゃん」
「いいんですか? ありがとうございます!」
きらめはウリボーを肩に乗せると、男性の背中におぶさる。
「おっし、と。……ん? あれ、お嬢ちゃん……」
「あっ、ごめんなさい! 重かったですか?」
「あ、いや、そういう訳じゃないんだが……まあいいか。ほら、しっかり捕まってろよ」
男性はきらめをおぶって立ち上がる。きらめの視界が一気に上昇し、人だかりの向こうの様子が見下ろせるようになった。
そこにいたのは一人の女性である。
黄緑色のローブをまとい、両手に扇を持った美女だ。彼女は一度扇を畳むと、目を閉じて集中し始める。
すると、二つの扇がローブと同じような黄緑色の光に包まれた。きらめはそれが、彼女のイクスの煌めき――魔法の発現であると察する。
「はッ!」
彼女は目を見開き、片方の扇を広げて高々と掲げた。
彼女の足元には、一つの苗木があった。掲げた扇を包むイクスが苗木を照らす。苗木はこれによって瞬く間に急成長し、女性の肩口ほどにまで伸びていく。
女性は更に、もう一つの扇も広げた。成長した木の枝に多数の光が灯り、その中に立派なみかんがなっていく。
これに広場では再び歓声が上がる。女性はみかんを採って子供たちに配っていく。
前列の方にいた子供たちへ配り終えると、最後尾にいるきらめにも気付いたようだった。女性が一言断りながらきらめの元へ向かい始めると、人の波が割れていく。
女性はきらめの前まで歩み寄ると、みかんを差し出す。
「あなたもどうぞ、お嬢さん」
「ありがとうございます」
きらめはみかんを受け取り、女性と笑みを向け合った。
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