Chapter 1-9 なんだか様子が変です

 まただ。

 バチッ、バチッと、なにかが弾ける音が断続的に続いている。

 最初は気のせいかとも思ったが、こう続いては「している」と断言せざるを得ない。


 きらめたちは今日も、その日の糧を得るために里を降りようとしていた。

 しかしそんな中で、きらめは彼だけに聞こえる音を聞いていた。静電気が弾けるような、そんなイメージの音だ。


「静か、すぎるっしょ……?」


 大樹のふもとに降りると、ルフェが誰にともなくそう呟いた。

 異常は、きらめに聞こえる音だけではないらしい。


 妖精たちは、人間であるきらめよりも周囲の気配に敏感だ。その妖精たちが、森が静まり返っているのを肌で感じている。

 これが異常でなくてなんと言うのか。


「罠を確認してみるのよーう」


 ドラに促され、近くの罠を確認しに行くが、


「なんにもかかってないしー」


 残念がるディーの言う通り、罠は起動すらしていなかった。寄り付くものすらいなかった、と考えるのが自然だろう。

 しかしそうだとしても、一体なにが起きているというのか。


 この、きらめだけに聞こえる音に関係があるのだろうか。

 バチッ、バチッと。その感覚は短くなっていっているようにも思える。


 ――バチッ、バチッ……!


 きらめは周囲をうかがいつつも、その音に耳を澄ませてみる。

 感覚が短くなればなるほど、音が大きくなっていけばいくほど、それは近付いてくるようだった。


 ――バチン!!


 ひときわ大きく弾ける音。


「なにか来るっしょ!!」


 その瞬間に妖精たちが感知した存在が、猛烈な勢いでこちらに迫ってくる。


「避けて!!」


 圧倒的な質量にいち早く反応できたのはきらめだけだった。

 妖精たちを突き飛ばさんばかりに広げた腕で、抱えて飛び退く。瞬間、暴風が吹き荒れるかのような衝撃が、きらめたちの元いた場所を突き抜けて行った。


 きらめの身体能力は、六歳で狩りを覚えてからの四年で、更に大きく向上していた。体格にはさして成長はみられないものの、それに反比例するかのごとく人間離れした動きが可能になっていった。


 地面を転がりつつ身体を起こし、跳躍。木の枝の上に妖精たちを置き、自分は地面に着地する。


「あれは……」

「大きいんだな……」


 対峙する。

 振り返り、ギラついた眼光をきらめに向けるそれは、見上げなければならないほどに巨大な猪であった。

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