第4話 戦闘訓練
歓迎会の次のまた次の日、僕は昨日考えたことを実行に移そうとしていた。
「ニース先輩、新人の力や課題を見たいので、今日の魔物退治、僕たちで行きませんか?」
「ああ、いいわね」
魔物は基本、西の魔王国から来る。王都は王国の中でも西寄りにあるため、偶に森や山の中に魔物が居ることがある。そういった王都周辺の魔物退治も、王都警備を職務とする第二隊の仕事である。偶々魔物の出現報告があったため、それを利用してしまおうと思ったのだ。
「いきなり市街で戦わせるよりは一回戦いやすい場所で見ときたいものね」
「その通りです、じゃあガクにも声かけて来ますね」
「はーい」
―――――――――――――――――――――
「結構いきなり魔物狩りに行くんですね。入隊してあまり日が経っていませんが……」
「そりゃそうだろ、もうお前らは騎士として学園を卒業したんだからよ」
僕たちは今、魔獣の出現報告があった山林に向け、新人と教育担当の計6人で王都郊外の道を歩いている。
不安を言葉にしたのはユミンだが、他の二人も不安そうな顔をしている。
「僕らはまだ先輩方や、同期の戦い方すら把握していないのですが」
「そんなもんだよ。即席でチームを組むことだって結構あるしね。あと今日は新人組だけで戦ってもらうからね」
「えぇっ!先輩たち一緒に戦ってくれないんすか!?」
「そーよ。うちの隊は普通、一匹の魔獣退治くらいなら3、4人くらいでやるからね。」
今日は新人の実践的な力を見たいため、そうするようニース先輩とガクとは打ち合わせしてある。3人は学園で同じチームにはなったことがないらしいが、逆に都合が良い。慣れない連携にも対応できるか見ることができる。
「今のうちに少しおさらいしておこうか。魔王国から侵略してくる魔物を僕ら人類は2種類に分類する。闘争本能のままに生きる獣のような魔物を魔獣、理知を備え人に似た成りをもつ魔物を魔族と呼ぶ。学園で最初に習う知識だね。今回は前者の魔獣を狩る」
「魔族とやり合うよりは遥かに簡単な仕事だ。気楽に行けばいいさ」
とは言え新人の不安や恐怖は変わらないだろう。学園では常に安全な状況でベテランに見守られながらの戦闘ばかりだったからな。けど、受け入れてもらうしかない。人が壁を越えるには思い切りが必要なのだ。
「山まではまだ少しある。それまでに自分たちて話し合って、陣形やら何やら決めておきな。急なチームアップには欠かせないことだよ」
「はいっ!」
「わかりました、えーっと、2人はどういった戦い方が得意ですか?」
「僕は遠距離からの魔法……」
「俺は……」
小会議に耳を傾けながら、僕ら教育担当も確認をしておく。
「もしトラブルが起きてしまった時には、ガクはいつも通りタンク、ニース先輩は今日はヒーラーをお願いします。新人に怪我を残すわけにはいかないので。僕はアタッカーをやります」
「おうよ!」
「了解。というかあなた急にアタッカーなんてできるの?」
「一応昨日の夜に稽古というか、模擬戦をやって、なんとかできることは確認してきてます」
「模擬戦って、相手は第二隊の人か?」
「いや、ミアだよ」
暇そうにしてたからダメ元で誘ってみたら釣れたのだ。流石にあまりいい勝負はできなかったが、魔獣程度なら大丈夫だ。
「よくミアがオッケーしてくれたな。一度断ったんだから教えるわけないでしょっ!とか言いそうなのに」
「近いことは言われたよ。教えてもらうんじゃなくて、殴り合うだけだからって言ったら納得してくれた」
「あぁ……なるほどな」
――――――――――――――――――――
山に着いた。新人組を先に行かせ、僕らは少し離れた場所から距離を保ちつつ見守っている。ターゲットは熊型の魔獣だ。見つけるまでそんなに時間はかからないだろう。
「話し合いは良い感じに進んでたな。ユミンが上手いこと仕切ってたし」
「そうね、彼女はレンに似た雰囲気を感じるわ。小賢しいというか、生意気というか」
「僕そんなこと思われてたんですか……」
しばらく歩を進めると、空気が変わった。
「エンカウント!熊型の魔獣、戦闘開始します!」
一際大きな木と、それを囲む多くの木々がある場所で戦闘が始まった。魔獣は鹿らしき動物を食べていたところで、こちらの気配に気づいたのだろう。
「おらぁぁああああ!」
「強化!身体能力!盾防御力!」
雄叫びを上げたリックに、ユミンの杖から支援魔法が飛ぶ。相手の力量を測るためにまず防御を強化する、良い判断だ。
ガギンッ!
大きな音を立て、リックの左手の盾と魔獣の鉤爪がぶつかり合う。右手の剣で攻撃もしようとしているが、防御に手一杯でそれどころではなさそうだ。
「雷魔法を撃つ!3…2…1…ハッ!」
エノのカウントに合わせ、リックが跳び退き、ユミンが拘束魔法を放つ。効果時間は短いが、敵の足を鎖で地面に繋ぎ止める。エノの大きな杖から放たれた魔法が魔獣に脳天から直撃する。が、魔獣に目立った損傷は確認できない。
「雷耐性あり!エノ君は属性を変えてください!」
「あぁ」
魔獣の多くは、物理攻撃や魔法の種類に対して耐性を持つことがある。その耐性は、種族ではなく個体に依ることが多い。魔獣討伐の鍵は、何に耐性があり、何に耐性が無いのかを見つけ出していくことだ。
再びリックが足止めし、エノの合図で跳び下がる。
「炎魔法を撃つ!3…2…1…フッ!」
ユミンが拘束魔法を放つが、魔獣はそれを躱し、エノの攻撃魔法も避ける。魔法の衝撃と煙の中から勢いよく飛び出してきた魔獣の鉤爪がリックの目前に迫る。
「障壁!」
リックが受けてしまうはずだった攻撃を、ユミンの障壁魔法が肩代わりする。
リックが足止めし、その後方からユミンが援護と指揮、エノがその間に魔力を溜め攻撃する、といったサイクルで魔獣を攻めていく。
「即興チームの割には、連携できているわね」
「ですね。事前の打ち合わせ通り上手く戦闘が進んでいます」
「これならあの魔獣が倒れるのも時間の問題だな」
順調な戦闘の様子に、教育担当の僕らも少し安心する。信じてはいたが、やはり見てみるまでは怖いものだ。しかし、だからといって気を抜いてはいけない。いつ何が起こるかはわからない。
「氷魔法に効果あり!このまま氷魔法で攻めましょう!」
「はぁ…はぁ…おうよ!」
「任せろ」
魔獣が疲弊し始めてきた。勝利がすぐそこまで見えている。より前掛かりに魔獣を攻めようとしたその時だった。
「はっ、ぐゥッッッ!!?」
「えっ?エノ君っ!!」
魔力を溜めていたエノの後方の木から飛び降りてきた魔獣が、エノの脇腹を襲いかかった。
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