第3話 歓迎会


 歓迎会が始まり、新人たちはそれぞれテーブルにお呼ばれし、質問責めを受けていた。僕がいるテーブルには、ニース先輩がいの一番に連れてきたユミンがいる。


「ユミンちゃんはどこ出身?」

「生まれてからずっと王都です!」

「なんでサポーターになったの?」

「幼馴染がいるんですけど、手助けしてあげなきゃなと思ったので」

「お酒は結構飲むの?何が好き?」

「親が好きなので嗜む程度には飲みますね。甘いカクテルとかが好きです」


 矢継ぎ早に繰り出される質問を鮮やかに捌いている。小柄で可愛らしい子だから、先輩たちからの興味は莫大だ。僕自身は質問せずにその様子を眺めていると、ニース先輩がとんでもないことをぶち込んだ。


「教育担当のレンは、ユミンから見てどんな男?」

「何変な事言ってるんですか」


 本当にこの人は何を言ってるんだ。先輩たちはウェイウェイ盛り上がってるが、この空気は僕はもちろんユミンもたまったものじゃないだろ。


「レンあなたは黙ってなさい。それで、どう?」

「とても優しい先輩だと思います!今日の指導も、私が気になったことがあれば先回りして教えてくれたりして、学園で聞いてた噂とは違ってすごく良い人だなって感動しました!」


 ああ……顔が熱くなっていくのを感じる。先輩たちはニヤニヤ見てくるし、嬉しいけど最悪な気分だ。……ん?


「噂って?」

「レンさんは私達の代でも、とても強いサポーターとして有名だったんですよ。それに加えて、同じパーティになった人を叱咤して自分の思い通りになるまで調教したり、女の人を侍らせたりしてるって噂もありました」

「えぇ……」


 どんな噂だよ。そんな噂を聞いてよくこの子は初対面の僕に元気に挨拶してきたものだ。女の人ってのは、まぁミアとリオラのことかな。


「あなた女子を侍らせたりなんかしてたの?」

「してませんよ。そこのガクも含めて、男女2:2でつるんでるんですよ」

「なるほどね、あなたにそんな気概があるわけ無いわね」

「はいはい、その通りでございますよ」


 ニース先輩はこんな風に僕をおもちゃだと思っている節がある。1年通じてこんな感じだったので、この扱いももう諦めた。そんなやり取りをしているとユミンが不思議そうな顔でこちらを見ていた。


「お2人はとても仲がいいんですね!羨ましいです!」

「まぁ僕の指導係がニース先輩だったからね」

「そうだったんですね」

「ええ、そういえばユミンには自己紹介をしてなかったわね。私はニース・シリック。ユミンの二つ年上よ。呼び方はニースでいいわ」

「ニース先輩ですね!よろしくお願いします!」


 面倒見の良いニース先輩と、妹気質を感じるユミンの相性は良いんじゃないかな。


「甘いお酒が好きって言ってたわよね。私も甘いのが好きなの。今日は上の人たちの奢りだから一杯飲みましょう!」

「はいっ!」


 良い返事だな。結構お酒に強い感じなんだろうか。


「それじゃあいきましょう、乾杯ー!」

「「乾杯ー!」」


 ああそうちなみに、第二隊は基本的に飲みが強い。


 ――――――――――――――――――――


「うぇへぇ〜、すみぃませんレンしぇんぱーい」

「はいはい」


 僕は今、夜の街中を背中にお姫様を乗せてゆっくりと歩いていた。調子に乗ったユミンは先輩たちに乗せられるまま、そして自分で勝手に、派手に飲み散らかした。優しい紳士淑女の先輩方は、「2次会へ行く」と新人たちの世話を僕とガクに任せて行ってしまった。まだマシな状態なリックとエノをガクが、自分ではまともに歩けないユミンは僕が連れて帰ることになった。


「次の突き当たりはどっち?」

「左ですぅ。ごみぇんなさい、重いでぇすよね」

「いや、そんなことはないよ」


 リオラと同じくらい小柄なユミンは重さ自体は背負う分にはあまり問題ではない。ただ……この子の背丈の割に圧倒的に存在感を放つ2つのそれは、僕を非常に居た堪れない心地にしていた。


「今度お酒を飲むときは控えめに飲むんだよ。多分そんなに強い方じゃないんだから」

「ふぁい。あ、ここですぅ」


 着いたのは丘の上の綺麗で大きな一軒家だった。実家暮らしと言っていたが、これはかなり裕福な部類だろうな。ユミンを背中から下ろす。


「本当にすみませんでしたぁ。ありがとござぃます」

「はい。次からは気をつけような。じゃあほいっ」


 ユミンの頭に手を掲げて魔法をかける。


「ん?なんですかこれ」

「アルコールの分解を早くする魔法だよ。あんまり効果は強くないんだけどね」

「わぁ!変わった魔法もあるんですね。こんな魔法も知ってるなんて流石です」

「ほんとに気休め程度なんだけど、気分的に結構効いたのかな。そんな元気になるならもっと早くかければ良かったよ」


 このままダラダラ喋っていては明日の業務に支障が出るかもしれない。さっさと切り上げるべきだろう。


「じゃ、僕は帰るよ。また明日。遅れないようにね」

「はい!ありがとうございました!」


 そう言ってフラフラした足取りで門を抜けて家へ入っていく。やっぱりあの魔法の効果はあんまり無いな。

 さて、帰りますか。

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