第2話 後輩


 会議があった次の日の昼過ぎ、僕は隊長室にてタム隊長と向き合っている。


「話がある、と言っていたが……」

「はい、昨日おっしゃっていた、アタッカー不足の件についてです。単刀直入に申し上げますと、僕がアタッカーに転向することを提案します。他のサポーターの先輩方からも背中を押してもらっています」


 第二隊のサポーターの先輩には既に話を通してある。その方が、隊長との話が進みやすいと思ったからだ。


「そうか、うちのサポーターは年長者が多いし、レンは器用だからな。助かるよ」

「いえ、以前からアタッカーには興味がありましたし」


 先輩と話していて分かったことだが、やはりベテランの人はニュービーに比べて役職変更の壁が高いようだ。既にある連携や型も多く、それを無くしてしまうことだからな。


「そう言ってくれるとありがたい。実は新人サポーターの指導をレンに任せようと考えていたんだが、事が事だ。負担だと思うなら断ってくれていいんだが、どうする?」


 ……どうしようかな。多少の負担にはなるかもしれないが、それ以上に後輩への興味が強い。それに、今まで鍛えたサポーターとしての技術やテクニックをせっかくだし伝えたい。


「でしたら、是非指導をさせてください」

「わかった、ありがとう。新人は明日から配属される。頼んだぞ」

「はい!今日はお時間ありがとうございました」

「いや、こちらの台詞だ」


 一礼して隊長室から職務室へ戻る。新人か……騎士を育てる学園では、後輩とはほとんど関わりが無かったからあまり想像がつかない。学年が1つ違えば、基本的に力の差が大きいため、学年を交えた授業などは少ないのだ。それは、騎士が他職者と隔絶した強さを持つことも意味する……。

 素直な子だと教えやすそうだな……。


 ――――――――――――――――――――


 次の日の朝、会議室にて新人の紹介が行われていた。

 タム隊長の横には真新しい、灰色を基調とした制服に身を包んだ3人が並んでいる。


「みんなおはよう。今日は第二隊に新たな仲間が加わる日だ。まずは3人に自己紹介をしてもらおう。私に近い者からお願いする」

「お、おはようございます!リック・ダントっす!学園ではタンクとしてやってきました!よろしくお願いします!」

「初めまして、ユミン・チマイトです。サポーターです。不束者ですが、よろしくお願いします!」

「エノ・メルボトルです。魔法アタッカーです。宜しくお願いします」


 アホそうだが元気なリック、ハキハキとしていて人懐っこそうに笑うユミン、仏頂面なエノ、皆んな個性があって面白そうな後輩たちだ。拍手をもって歓迎する。


「例年通り、新人の指導係は若手に担当してもらう。昨日伝えた通り、リックにはガク、ユミンにはレン、エノにはニースが着いてもらう。指導係以外の者も、自分が新人だった頃を思い出して優しくしてやってくれ。新人の歓迎会は今日の夜、酒場で行う予定だ。質問責めはそこまで待ってくれな。新人と指導係以外の者は解散とする」


 新人の初感を話しながら他の隊員が去った後、僕らは担当の新人と向き合う。


「取り敢えず、指導係は新人に自己紹介してやってくれ」


 腕を組んだタム隊長は優しい顔をしている。


「はじめましてユミン。僕はレン・グルーノ、これまではサポーターとしてやってきた。色々あってこれからはアタッカーなんだけど、サポーターとしての指導はしっかりするから、よろしくね」

「はじめましてグルーノ先輩!ユミン・チマイトと申します。未熟者ですので、ビシビシ指導お願いします!」

「そんなに畏まらなくていいよ。呼び方も適当でいいし。楽にいこう」

「わかりました!それではレンさん、よろしくお願いします!」


 そう言ってユミンは90°になるかというくらいのお辞儀をした。勢いがあったため、紫色のポニーテールが尻尾のように揺れた。ユミンは小柄で、背丈は僕の肩くらいのようだ。


「今日は隊舎の案内とか、簡単な事務作業とかから教えてくれ。基本的には3人に任せるから、聞きたいこととかあった時は遠慮なく聞いてくれ。それじゃ、私も部屋に戻るとするよ」


 タム隊長は片手を挙げて部屋を出ていった。……結構適当な感じなんだな。


「それじゃあ隊舎の案内から行こうか。着いておいで」

「はい!」

 ――――――――――――――――――――


 その日の夜、僕らは第二隊がよく使う酒場を貸し切りにして、新人歓迎会を行っていた。


「今日は集まってくれてありがとう。会の開催に伴い、新人たちから目標を軽く言ってもらってから、乾杯をしようと思う!準備のできた者から頼むよ」


 タム隊長が、ビールジョッキを片手に幹事を行っている。朝から晩までご苦労様です……。


「はい!じゃあ、俺から行きます!皆に安心して生活してもらえるよう、屈強なタンクとして市民の方をお守りします!」


 うん、未来を明るくしてくれるような、リックらしい良い目標だ。惜しみない拍手を送る。


「では次は私が。レン先輩のように、偉大なサポーターとなって、皆さんが戦いやすいサポートをできるようになればと思います!」


 おっと……名前を出されると恥ずかしいな。小さく拍手していると横に座っているニースさんに脇腹を肘でつつかれた。


「このこのぉ、ユミンに早くも気に入られちゃって。偉大なレン先輩は後輩に手を出すのも早いですなぁ」

「やめてくださいよニースさん、そんなんじゃないですって」


 本当にそんなのではない。普通に教えていただてなのだが、それでこんなに気に入られるだろうか?


「僕は、そうですね…他の隊員が少しでも楽に戦えるよう、できるだけ多くの魔物や犯罪者を倒したいと思います」


 ……エノは結構尖ったやつなのかもな。うまく隊に馴染めるかなぁ。


「ありがとう。3人とも良い目標だ。偉大な戦力となってくれることを期待しているよ。それじゃあ、皆んなグラスを掲げてくれ。今日は無礼講でいこう、新たな仲間に乾杯っ!」

「「「乾杯ー!」」」

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