《ロールチェンジ》元司令塔&支援職の僕がエースアタッカーになる話

茶九

第1話 役職変更


「ワジさん、引退、おめでとうございます」


 花束を持った彼と笑顔で向き合う。


「あぁ、ありがとう。レン、お前はもう第二隊の立派なサポーターだ。この1年で十二分に成長して隊を支えてくれた。これからも頼んだぞ」

「はい!ありがとうございます、お世話になりました!」


 今日は第二隊のベテランアタッカーであった、クワジ・ショームさんの引退式。第二隊の隊舎にて、お別れ会が終わりを迎えようとしていた。花束を持ったクワジさんと皆が言葉を交わし終え、最後の言葉を聞く。


「俺は腰を悪くして引退することとなってしまったが、この偉大な仲間たちと仕事ができたことを誇りに思う。後悔は無い!皆んな、今までありがとう!」

 

 クワジさんらしい、完結で、それでも心動かされるメッセージだった。優しい笑顔で拍手を送る者、必死に涙を堪えようとする者、様子はそれぞれであったが、皆が祝福していた。偉大なる先輩のように、自分ができる全力で隊を支えよう、そう僕は決意した。


 ――――――――――――――――――――


 翌日の午後、隊舎にて事務仕事をしてると、悩ましい顔をした第二隊隊長タム・ユウロウさんが職務室に入ってきた。


「あー、今いる者は会議室に集まるように。15分後に話がある」


 そう言うとタム隊長はすぐに部屋を出て行った。疑問を浮かばせた顔を親友ガク・ヒーストンと合わせながら、会議室へ向かうために席を立つ。ガクは背が高く、筋肉質な男だ。


「今日は特に会議の予定は無かったはずだよな」

「あぁ、隊長の顔を見るに、面倒な件でも湧いてきたんだろうよ」


 広い会議室の席に座り、会議の開始を待つ。会議を執り仕切るお誕生日席には、タム隊長と、見覚えのない男性隊員が立っていた。隊員が揃ったのを確認し、タム隊長が口を開く。


「急な召集ですまないが、午前の全体会議にて面倒な事になった。説明は人事の者から行う」

「人事のクモトです。午前の会議にて、4月から騎士になる新隊員の調整にずれがあったことが発覚しました。クワジ・ショーム氏が引退したことに伴って、物理アタッカーが手薄となったため、第二隊には物理アタッカーとして登録されている新人が配属されることになっていました。しかしその物理アタッカーとして登録されていた者は実はサポーターとして訓練しており、登録ミスだったようです。他の部隊との調整もままならず、そのままこの部隊に配属されます」


 タム隊長の言葉を引き継ぎ、クモトという人が説明する。なるほど、見覚えがなかったのは人事の人だったからかと納得する。第二隊には騎士全体を取り仕切る役割もあるため、こういったあまり関わりのない人も多い。

 それにしても、困ったことになるなと思った。ただでさえ第二隊は戦闘隊員の数に対して物理アタッカーの割合が微妙に少ない。それがさらに減ってしまうということなのだ。


「完全に上層部の不手際だが、起きてしまったことは仕方ない。こちらも対処法を考えるが……」


 そこまで言ってタム隊長は言葉に詰まる。言うべきことはあるが、言いづらいのだろう。


「隊員の誰か、できればサポーターが物理アタッカーになってほしい、ということでしょうか?」


 黒い髪に緑のメッシュが入った長身の先輩、ニース・シリック先輩が澄ました顔で助け舟を出した。そういうことか。この先輩は本当に頭が回る。


「まぁ、なんだ……その通りだ。卒業したばかりの者に役職変更を頼むのは厳しくてな。できればでいい、直ぐに決断してくれとも言わない。もしやってくれる者がいれば、いつでも声をかけて欲しい。何か質問がある者はいるか?……。よし、それでは解散とする」


 役職変更か……面白そうではあるが、入隊してまだ一年しか経っていないひよっこがそんなことできるのだろうか。会議の内容を振り返りながら職務室へ戻る。

 その後の仕事はあまり集中できなかった気がする。


 ―――――――――――――――――――


 西部最前線にいることが多いミア・サンノイゼが王都に居るということで、今日は街の大衆レストランで夕食をとることにした。


「4人の都合が合うなんて珍しいよな」

「そうだね、私は今日夜勤が無かったし、ミアちゃんも昨日から王都にいるもんね」


 パスタを上手にフォークに巻き付けながら、リオラ・マードレッドが相槌を打つ。仕事の後だというのに、その所作と綺麗な一つ結びの金髪に乱れは一切見当たらない。


「ミアはいつまでこっちに居れんだ?」

「今週一杯は居られるわ。久しぶりにゆっくりできそう」


 対して向かいの2人の食べ方は豪快だ。ガクはピザのソースが鼻についているし、ミアの口元にはパンくずがついている。……いやどう食べたらそうなる。ボブカットの赤髪をもつミアは3人の中で唯一ラフな私服を着ている。


「レン君とガク君は最近どんな感じなの?」

「まぁぼちぼちだね。ただ、今日の会議で面倒が少しできちゃったかな」

「面倒?どんなの?」

「サポーターの誰かがが物理アタッカーに転向しなきゃなんだとよ。お前がやれよ、レン」


 ガクがこっちも見ずに適当に言ってくれる。慣れたことだが。


「それは僕も考えたけど、まだ騎士として一年しか経ってない。難しいと思うんだ」

「だからこそだろ。ベテランよりも、新参者のほうが役職変更は楽なんじゃねーの?お前の支援で戦うのは好きだけどよ、お前が適任だろ」

「レン君は学園でロールシャッフルした時も、アタッカー上手だったしね」

「なんなら私が教えてあげましょうか?レン?」


 僕の顔は生意気そうだと言われることが多いが、今のミアの顔の方が遥かに生意気に違いない。唇の端がこれほどなく釣り上がっている。

 ……まぁ、そうだな。ワジさんに部隊を支えるよう言われたし、想像してただろう形とは違うだろうけど、これもまた良しか。


「そうだな、皆んながそう言うならやってみるか。ただしミア、君の脳筋スタイルに習うことは何一つ無い」

「はぁ!?何が脳筋よ、乙女に向かって!」


 こらこら、食事中に用もないのに立ちなさんな。


「おう、頑張れレン。これでアタッカーとしてダメダメだったら笑いもんだけどな」

「頑張って!もし失敗だったら、みんなで慰めてあげるね」

「君ら本当適当だね」


 この友人たちは心地がいい。このお互いの適当さも信頼の裏返しだ。

 善は急げと言う。決意が変わらないうちに、明日にでもタム隊長に言いにいこう。

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