第11話
みんなと別れた僕達は食を楽しんでいた。
並んでいる出店なんかをフラフラと回り半分こしながら食べる。
誰かと一緒に食べるご飯ってのは、やっぱりおいしいねぇ。
「あっ、クレープ屋さんがあるね。一つ買おうかな」
「そうか。何味にする? 俺はなんでもいいぞ」
「んー、じゃあシンプルにイチゴにしよ」
代金も割り勘で出して、クレープを購入する。
正直全部僕が出してもいいんだけど、優斗が絶対に譲ってくれないんだよね。
俺が出すからって聞いてくれない。だから割り勘にするしかないんだよね。
「いただきまーす」
「落とすなよ」
「大丈夫だって」
クレープに齧り付く。
うん、イチゴの酸味とクリームの甘さが混ざり合っておいしいね。
これは優斗にも食べさせてあげないと。
「はい、優斗」
「お、おう……」
顔を赤くしながら優斗が僕のクレープを食べた。
おや、恥ずかしかったのかな?
もう何回も食べさせ合いなんてしたんだから、恥ずかしがる必要なんてないのにね。毎回顔を赤くせるんだから。
こんなにウブじゃ、奥さんとかできたら苦労しそうだね。
「ったく、他の男にはやるなよ」
「君にしかやらないよ」
「〜〜〜〜〜っ!」
ありゃ、また赤くなって黙り込んじゃった。どうしたんだろ。
優斗ってたまにこういう時あるんだよね。好きな人のことでも考えてるのかな?
優斗と会った時からずっと続いているんだよね。ということはその間も好きな人のことを思い続けているわけだ。すごい一途だね。
でもなぜか僕はその相手を知らないんだよね。
んー、たまたま街で会った女の子に一目惚れとかならわかるけど、それじゃあ世話焼きとかの情報は出てこない。
本当に誰なんだろ。
「何考えてんだ?」
「優斗が好きな人のこと」
「………お前もよく知ってる奴だよ」
「もしかして灯?」
「違う」
ありゃ、これは本当に違うやつだ。
でも僕がよく知ってる子なんて灯くらいだよ。だって灯以外に友達いないし。
……本当に誰なんだ?
とりあえず照れ隠しの可能性もあるから灯を最有力候補に入れておこう。
ふふふ、原作には無かった二人の恋愛ってどうなるんだろう。心が踊るね。
「ふーん、まぁいいや。次どこ行こっか」
「何か乗るか?遊園地だし」
「んー、僕は乗りたいのないかなぁ。優斗は何か乗りたかったりする?」
「俺はやっぱ王道のジェットコースターとかだな」
「でも混んでるよ?」
「人混みは嫌だな。じゃあ観覧車とか乗るか?」
「いいね。あんまり混んでないみたいだし、カップルも見やすいし」
「お前なぁ……」
聖子とクレープを食べた後、俺達は話していた通り観覧車に向かった。
幸い空いていてすぐに俺達の順番が回ってきた。
「おー、いるいる。青春だねぇ」
「青春真っ只中の高校生が何言ってんだ」
本当にこいつはカップルを見るのが好きだ。
見るだけじゃなくて、その気持ちを味合わせてやりたいのに、勇気が湧かなくて告白すらできない。
観覧車という密室に二人っきりという今の状況でも全く意識されてないのが悔しくて、情けない。
「なぁ聖子、そんなに好きなら自分で恋愛とかしないのか?」
ついそう聞いてしまった。
こいつは自分の事に関しては疎かになることが多い。恋愛でもそうだ。
他の人の恋愛は気になるのに自分の恋愛については語らない。そこにどんな思いがあるのか、気になった。
「んー、正直そこはどうでもいいかな」
「どうでもいい?」
「うん。恋愛したいなんて思わないし、好きな人もできたことないし。それに、そう長くは続かないと思うから」
そう言った聖子の横顔は寂しげで、今にも消えてなくなりそうなほど儚げで。
俺は無意識に聖子の頭を撫でていた。
「どうしたの?」
「いや、無意識」
髪が崩れないように、優しく頭を撫でる。
こうやって触れ合えば、小柄なのがよくわかる。この小さな体でたくさんのことを抱え込んでいるのだと思うと、胸が張り裂けそうになる。
頭を撫でていると、ツーッと聖子の目から雫が流れた。
慌てて手を離そうとするも、聖子に止められてできなかった。
「聖子?」
「気にしないで。目にゴミが入っただけだから」
流れた雫を拭い、聖子は貼り付けたような笑みを浮かべた。何かを隠したい時、聖子はよくこういった表情をする。
「………無理なんて、しなくていいからな」
こうなってしまったら、こいつは何がなんでも口を割らない。
一年間ずっとそうなんだ。
苦しい時ほどこの笑みをしている。何年も一緒にいるんだ。流石にわかる。
こういう時、抱きしめるなどして安心させることができるのならいいんだが。この関係を壊したくないという怯えが行動を許さない。
つくづくクソな男だ俺は。
ギャルゲーの世界にTS転生とか正気か? 呂色黒羽 @scarlet910
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