第9話

「よしっ、全員揃ったな。じゃあ早速入るか」


あれから10分くらいで残りの二人も合流したので、さっそく遊園地に入ることになった。

荷物の確認を終えて遊園地に入る。

うん、人がめちゃくちゃいるね。おっ、あれカップルじゃん。いいねいいね。


「おい聖子、カップル見学もいいがはぐれるなよ?」

「誰にものを言ってるんだよ。僕が迷子になるわけないじゃないか」

「いや、熊山の言う通りだ。宵闇は小さいのだからはぐれやすい。私が手を繋いでやろうか?」

「余計なお世話ですよ、先輩」


まったくこのヒロインは。そういうのは優斗にやればいいのに。

僕に手を差し伸べる、眼鏡をかけた紫髪の超絶美人の名は伊集院雪奈。

ハナガルの先輩系ヒロインだ。

彼女を語るとするならばまずそのギャップだろう。切れ長の目の彼女は周囲からなんでもできる完璧美人だと思われている。

成績優秀で身体能力も抜群。文武両道なその姿は大半の生徒の憧れであり、生徒会長にも抜擢されるほどに慕われている。

そんな彼女だが、実はだいの可愛いもの好きであり休日には一人でよく猫カフェに行っている。

この時点でギャップがすごいのだが、これに加えドジ属性も持っている。

彼女のルートも彼女のドジに巻き込まれることから始まった。

優斗が通学していると寝坊した彼女がパンを咥えて走ってきてぶつかったんだ。

その時は何も起こらないのだが後にぶつかった相手が生徒会長だと判明する。

そこから彼女のルートが本格的に始まって行くのだ。仲が良くなってくれば一緒に猫カフェに行ったり一緒に登下校したりする。

そして最後には優斗の卒業式に伊集院雪奈が乱入して「私のものになれ!」と公開告白をするというめちゃくちゃかっこいい演出と共に二人の結婚写真が出されて幕を締めるのだ。

あの最後は流石の僕でも泣いた。


「よしっ、じゃあ遊ぶぞ!」


それをこの能天気な馬鹿は台無しにしやがって……。

早く気付きなよ、彼女の好意にさ。今めちゃくちゃ僕の事見てるからね?

これ絶対嫉妬からだから。


「ちょっと待った」

「ん? どした聖子」

「流石にこの大所帯じゃ周りの人の邪魔になるし、グループで別れて行こうよ」


だってこれじゃあイベントなんて何も起きないからね。とりあえず優斗とヒロイン、他のヒロイン三人、僕一人で分けよう。

これでみんなwin-winでしょ。


「じゃあ二人一組で分けるか?」

「はーい! 私は熊山先輩とがいいでーす!!」

「あっ、なら私もー!」

「でっ、できたら私も……」


さぁ、面白くなってきたよ!

行けヒロイン達!

この争いに勝利したら優斗との距離が縮むぞ!

付き合うチャンスだ!


「ふむ……なら私は宵闇と回るとしよう」

「え?」


え、なんで君は僕と行こうとしてるの?

ほら、早く優斗にアピールしないと付き合えないよ?


「あっそうだ。じゃあここは公平にクジで決めようぜ! 確か前にそんなサイトがあったし」

「あー、あれか。じゃあ1から6までの番号で、1と2、3と4、5と6で分けよう」

「そうだな。じゃあさっそく!」


うん、これで公平な運勝負に持って行けた。まぁ僕とヒロインが一緒になるのは不本意だけど仕方ない。これで確定でヒロインの誰かと一緒になってくれるでしょ。


「おっ、俺5だ」

「えー! 私4なんスけどー!」

「3か……宵闇と一緒にはなれなかったか」

「6来て6来て……1!?」

「6、6……2、ですか」

「………」


なんでこうなるんだよ!

おかしいだろ。

なんで僕が優斗となんだよ!

僕じゃ意味ないだろ!


「よしっ、じゃあ3時にまたここに集合ってことで」

「あぁ、わかった」

「うぅ……わかりました」


なんかごめんね。恨むならこんな組みにした神と自分の運を恨んでね。


「じゃあ俺達も回るか。なんか行きたいとこあるか?」

「んー……ご飯巡り?」

「アトラクション乗る気ないのかよ」

「並ぶのめんどくさいじゃん」

「気持ちはわかるけどよ……」


正直言うと優斗がヒロインとイチャイチャするのを見たいと思ってたから何も考えてなかった。別にアトラクションに乗りたいとからないしなぁ。

人多いし並ぶの大変だし。


「お金もあるし後から並ぶの嫌でしょ?」

「んー、それもそうか。てかお前そんな食べれんのか?」

「じゃあ半分こしようよ。それならいろんな味が楽しめるしいいでしょ」

「確かにそれならいいな」

「じゃあ僕達も行こうか」

「あぁ。………この機会に男として意識してもらうぞ」


ん? 優斗何か言ったかな?

まぁ、なんでもいいや。



「これからどこ行くー?」

「ど、どこに行きましょう……」


優斗さんとのデートの機会を失った私は、山田さんと一緒にブラブラと遊園地の敷地内を歩いていた。

どうしてこうなったんでしょう。

優斗さんを誘うまではよかったんです。ですが、優斗さんの友達が増えるという誘惑に負けてしまったばっかりに……。

今日優斗さんのお友達に会ってみましたが、みなさんとても綺麗な方ばかりでした。それに加え伊集院先輩以外優斗さんに惚れてますし……。

ですがこれで諦めたりしません。

あの最大の難関と言える宵闇聖子さんが優斗さんに惚れてませんし。

優斗さんは聖子さんに片思いしてますし、聖子さんまで優斗さんに惚れてしまえば勝ち目がありません。だから聖子さんが惚れる前に私が優斗さんを振り向かせなければ……!


「あっそうそうかすみっち」


か、かすみっち!?

な、なんということでしょう。

初めてあだ名で呼ばれてしまいました!!

さ、さすがは山田さん。スクールカースト上位勢。私のような陰の者が乗り越えられないハードルを容易く飛び越えてきますね。


「あはは、めっちゃうれしそー」

「べ、別に嬉しくなんて……!」

「そういうことにしてあげる。それはそうと、かすみっちって熊山のこと好きでしょ?」

「へぁ!? べ、べべべ別にそんなそとないよ?」

「あはは、隠すの下手すぎー」


な、なぜバレたんですか!?

そんなに顔に出ていたのでしょうか……。

で、ですがこれで終わりではありません!

山田さんも照れるべきです!!


「や、山田さんだって熊山さんの事が好きなんでしょう!?」

「うん。好きだよ」

「え゛」


そ、そんなに素直に認めるんですか!?

私が動揺しながら言ったのが馬鹿みたいじゃないですか!


「別に意外じゃないでしょ? どうせクラスのみんなもわかってると思うし。わかってないのは熊山だけ」

「あの人鈍感ですもんね」

「ほんっとに! なんで私があんなに好き好きアピールしてるのになんで気付かないんだって話だよ!」

「わかります。私もよくそう思いますから」


あの人はほんっとーーーに鈍感ですからね。まだ宵闇さんは彼の事を好きといった風ではありませんがもし好きになった場合苦労しそうです。なんせ現在進行形で私達が苦労してますからね。


「なんか、私達って似たもの同士だね!」

「そっ、そうですね。同じ人を好きになりましたし、同じ人に悩まされてますし……」

「あははっ、それな!」


ほ、本当に気が合いますね……。

も、もしかしたらこれは新しい友達を作るチャンスなのでは!?

こ、ここは勇気を出して新しい友達をゲットしましょう!!


「あ、あの」

「んー?」

「わわ、私と、お友達になってくれませんか!?」

「あははっ、面白いこと言うね」


あ、あれ? これ、もしかして断られるパターンですか!?


「私達、もう友達でしょ?」

「はっ、はい!」


やりました!

新しい友達ができました!


「めっちゃ嬉しそー。そんなに喜んでくれるなら私も嬉しいよ」

「そ、そんなに喜んでいるように見えましたか…?」

「うん! めっちゃ嬉しそうだったよ!」


えぇ。えぇ。嬉しいですとも!

優斗さん以外の友達ができましたから!

この調子でもっと友達を増やして脱陰キャして優斗さんを射止めて見せます!

だからそうですね……次は宵闇さんと友達になりましょうか。

あの方は一番手強いライバルですが、優斗さんの思いに気付いている様子はなく優斗さんを恋愛的に好きというわけではないので今日会った方々の中では一番チャンスがあると思うのです!

そしてあわよくば優斗さんのご趣味や好物を知れるかもしれませんからね!

ですが私一人では話しかける事さえ難しそうです。なので今日新しくできた聖人の友達にどうすべきかお聴きましょう!


「や、山田さん」

「なにー?」

「宵闇さんと友達になるには、どうすべきですかね……」

「あー、宵闇さんねぇ……」


あれ、どうしたのでしょう。

なぜか山田さんが悩んでしまいました。それになぜか宵闇さんだけですし。


「実は私、宵闇さん事が——」

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