第8話

最近イベントが渋滞してる気がする。

先週はショッピングで、今日は遊園地。引きこもりの僕には辛い日程だ。

優斗がほっとけないのとヒロインがどうアタックするのか気になって来ちゃったけど来なかった方が良かったかな……。


「なぁ聖子、やっぱり一時間前は早かったんじゃねぇか?」

「文句言うんじゃないよ。油断して遅れるなんてことあっちゃダメなんだから」


デートで男の子は女の子よりも早く来る。これ鉄則だよ。

女になってからわかったことだけど、一人で待ってたりしたらめちゃくちゃナンパされる。中には話が通じない馬鹿もいるし。

せっかく楽しい思い出を作ろうとしてるのにそんな事されたら誰だって萎えるでしょ。

だから男の子は女の子のためにも早く来ることだね。まあ男の子がナンパされる場合も十分あるけど。


「なんか聖子って男子よりも紳士的だよなぁ……」

「そりゃ少女漫画読みまくってるからね」

「えぇ……。あぁ、そうだ。聖子」

「ん?」

「……似合ってるぞ」

「は?」


………あぁー、なるほど。褒めてくれたんだね。

今日の僕は先週ショッピングで買った服を着ている。正直着るのに結構覚悟がいった。

本当は着たくなかったんだけどみんなおしゃれしてる中で僕がいつものパーカーとかだったりしたら気まずいし、優斗達の評価を下げかねない。

それで止むを得ずこれを着たわけだけど……優斗、君さぁ。せっかくヒロインたちがこれから来るってのにそんな大事な口説き文句を僕なんかに使うんじゃないよ。


「はぁ……」

「なんだ? 具合でも悪いのか?」


主に君のせいでね。

本当になんでこいつは恋愛ごとに対してだけものすごく鈍感なのか。僕にはわからないよ。


「それ、ちゃんと他の子達に言ってあげなよ」

「ん? なんで?」


なんでって、そりゃあ君——


「おしゃれして来る子はその姿を褒められたいからするんだよ。だからちゃんと褒めないと失礼でしょ?」

「………そういうものなのか」

「そういうものなんだよ」


まぁ、僕は違うけど。

僕の場合服は地味な奴の方が好きだからおしゃしれたいとか褒められたいとかはない。こんな時くらいしかおしゃれなんてしないよ。


「おっ、来たね」


そうやって話していると、パタパタと一人の少女が姿を現した。

サイドテールにした赤色の髪とそのたわわな胸を揺らしながら「せんぱーい!!」と走ってきたのは姫宮茜。

ハナガルでの後輩ヒロインポジの子だ。

めちゃくちゃ元気な子で、頭は悪いけど身体能力なら優斗に勝るとも劣らない程だ。

ゲーム本編では陸上部をしている彼女と放課後帰りの優斗が偶然出会い、そこからなんやかんやあって信頼できるような関係になってきた所で陸上部の先輩とのいざこざに巻き込まれてしまう。

そして陸上の競技勝負をすることになりそれに勝つことで堕とすことが出来る。

ちなみにこの世界でも同じような感じだったんだけど優斗が彼女に恋愛感情を向けることはなかった。

この子を攻略すればバカップルエンド確定だから期待してたのに……。

それで今は優斗を狙うヒロインの一人だよ。


「熊山先輩に宵闇先輩、お待たせしましたっす」

「僕達も今来たところだから、そんなに待ってないよ」

「うそつけ……うぐっ! 聖子お前俺の脇腹を……」


ちょっとうるさいよ優斗。黙らないと次は足の脛だからね。


「どうしたんすか熊山先輩」

「いや、ちょっとな……。あ、姫宮。今日の服似合ってるな」

「えっ……!? く、熊山先輩がそんなことを言うなんて珍しいすね! 何か心境の変化でもあったんすか?」


おっ、照れてる照れてる。これは好感触だね。

やっぱり女の子はみんな、好きな人から褒められたいんだよ。早く優斗もそれを理解して欲しいね。


「あぁ……聖子がな、女の子がおしゃれしてきたら褒めろって……あぐっ!」


それ言っちゃダメでしょ馬鹿!!

なんで他の女から教えられたって言って喜ぶと思ったんだよ!

乙女心を考えろこの馬鹿!!


「へー、そうなんすね……」


ほら落ち込んじゃったよどうすんだよ!

あぁもう仕方ない!

僕がフォローするしか!!


「おーい熊山ー!」

「おっ、来たか山田」


まさかの救世主登場!

金の髪を揺らしながら走って来るのはハナガルのヒロインの一人、山田花子。

中学生の時に優斗に惚れて高校デビューしたギャル系ヒロインである。

ゲームでのこの子は他の子と違い優斗に対する好感度が始めから高かったため、一番攻略しやすいヒロインとして有名だった。

ちなみに僕こと宵闇聖子は一番攻略しにくいヒロインとして名を馳せてたよ。


「ごめんねぇ待たせちゃって。電車が少し遅れちゃって……」

「いやまだ花園も伊集院先輩も来てないから大丈夫だぞ」

「そ、そうなんだ。よかったぁ」


うん、完全に二人の世界に入っちゃったね。僕はいいとして姫宮さんが入る隙がないや。

まぁそれはそれとしてこのタイミングで来てくれたのはありがたい。おかげで優斗のあのデリカシーなしな発言も多少薄れた。

これで何事もなければ——


「あ、その服似合ってるぞ」

「え!?」

「はぁ!?」


あぁ……やっぱりこうなるのか。

うん、もう僕は離れて修羅場を見てようっと。


「ちょっと熊山先輩! なんで山田先輩にも言うんすか!!」

「えっ!? もしかして姫山ちゃんにも言ったの!?」

「え、そりゃあまぁ……」

「なんで!?」

「だって女の子がお洒落したら褒めるのがいいんだろ? 聖子から聞いたぞ」

「よ、宵闇さん……」


空気になってたのになんか巻き込まれてるんだけど……。僕何も悪いことしてないよね?

ただフラグ立ったらいいなぁって行動しただけだよね?

なんで僕の死亡フラグが立ってるのかな?

いやぁ、女子二人の視線が痛いよ。そんなに悔しいならもっと優斗にアタックすればいいのにね。早く僕に甘々なラブコメを見せておくれよ。

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