第7話

学校は非常に憂鬱だ。少なくとも僕はそう思う。中には学校は楽しいとか言う人もいるけど正直理解できない。

そりゃ恋人がいたり、友達が何人も居たりしたら楽しいのかも知らないけど、あいにく僕には恋人は居ないし友達は幼馴染と女友達の二人だけ。

ただ二人とも今日は他の友達とつるんでいるので僕のそばにはいない。

まあ僕の場合ずっと小説を読んだりしてるから普段とそう変わりはないんだけど。


「おや?」


小説を読もうと取り出したところで、ヒロインの一人が優斗と接触しているのを発見した。

艶やかな黒の髪をストレートにしたいかにも清楚な美少女、花園霞はなぞのかすみだ。

ゲームでは登校時不良に絡まれているのを助けたのがきっかけで知り合うことになる子で、清楚な見た目と優しい性格で数々のプレイヤーを虜にしたキャラでもある。

ちなみにこの子、校長の娘さんで結構人生を束縛されている。

校長は非常に頭が硬く、自分が子を導かなければならないと考えている。なので遊ぶのも制限して勉強だけをやらせたりてとにかく真面目ないい子に育てようとした。

そんな生活にうんざりした彼女が仲を深めた優斗に助けを求めてくる。それを解決し、二人を和解させることで彼女に惚れられてどんどんルートが進んでいくんだ。

今まで抑制されてきた欲が爆発して一緒にゲーセンとかカフェとか行ったりして仲を深めて行く。

甘酸っぱい青春を過ごしているという気持ちが溢れて来る子だ。

こっちの世界でも優斗に救われたようで、完全に惚れている。

でも何故か僕はまだ優斗が彼女と出掛けた所を一度も見たことがない。攻略しといてルートは進めてないんだよねぇ。

惚れさせるだけ惚れさせといて付き合わないんだからさ、まったく酷い男だよ。


「あ、あの熊山さんっ」

「ん?おっ、花園じゃん。どうしたんだ?」

「えっと、その……」


しどろもどろになりながら、手元にある紙切れをチラチラと見ている。

あれは………遊園地のチケット、かな?

へー、なるほどねぇ。


「わわ、私と、遊園地……行きません、か?」

「え、俺と?」

「はい。その、友達と遊園地とか、行くのが夢で……駄目ですか?」

「別にいいけど、そっちこそ俺なんかでいいのか?」

「はい。貴方がいいんです」


いよっしゃあーー!!

いいね!!最高だよ!

この世界では優斗は積極的に誰かを誘ったりしないようだし、自分から行くしかない。でも彼女は引っ込み思案だから誘おうとしても中々誘えなかったのを何度も見てきた。

でも今回初めて自分から誘うことができたんだ。彼女の成長に涙を禁じ得ないよ。


「あっ、そうだ!どうせなら他に何人か呼ぼうぜ!」


馬鹿ぁああーーーー!!

なんでそこで他の人を呼ぼうとするんだよ!

そこは二人でラブラブしろよ!

わざわざ他の人を誘おうとするな!


「ほら、その方が花園にも俺以外の友達ができるだろ?」

「友達……」


あっ、友達って言葉に誘惑されてる……。

花園さん、ダメだからね?

そこはちゃんと二人で行きたいって言わないと伝わらないし、妥協したらチャンスも無駄になっちゃうから絶対断らないと駄目だよ?


「それなら……はい」


友達の誘惑に負けた!?

それでいいのか花園霞!!


「決まりだな。よしっ、じゃあ早速誘って来る!」


そう言いながら優斗は教室を出て行ってしまった。

本当に優斗は鈍感だ。

あんなの見れば自分に好意があるって丸わかりなのにさ。もうちょっと恋愛に敏感なら、ヒロイン達の好意に気づけるんだろうけど。

でも彼にも好きな人がいるらしいし、それがどのヒロインかはわからないけど彼と関わりのある女の子なんて僕が知っている限りヒロイン達くらいだから、そろそろヒロインの誰かとくっつくんじゃないかな?


「待ち遠しいねぇ……」


彼を幸せにできる子とくっつくのを願ってるよ。



学校が終わり、いつも通り俺達は家でゲームをしていた。


「なぁ聖子」

「ん?」

「今週の日曜日さ、何人かと集まって遊園地行かね?」

「ふーん……誰が行くの?」

「えーと、俺と花園と山田、伊集院先輩と姫宮だ」


行くメンバーを話すと、聖子がジトっとした目で俺を見つめてきた。


「………女の子ばっかだね」

「し、仕方ないだろ! 誘える知り合いが全員女の子だっただけだ!」


俺の言い訳にさらに視線の温度が下がった。

言い訳になるが、別に男を誘わなかったわけじゃあない。俺だって男友達がいるし、もちろんそいつらを誘ったんだが全員拒否しやがった。

しかも全員示し合わせたように用事があるとか抜かしやがって……。

ふざけんじゃねえよ。


「あのさぁ、なんでわざわざ僕を誘おうと思ったんだよ。他にもいい人はいっぱいいるだろ?」

「いやお前友達少ないし、もっと他の人と関わった方がいいと思って」

「まったく、余計なお世話だよ」


そうは言うが、こいつは本当に友達が少ない。

俺と照間くらいだろう。

他の奴と話してることなんて見たことないし、クラスメイトからの遊びの誘いとかも全部断ってるしな。

休み時間なんていっつも小説読んでて誰かに話しかけようとなんてしないし。

そのせいで孤高の氷姫なんて呼ばれてるし……。

本当は面倒見のいい優しい女の子なんだけどなぁ。


「じゃあ行くよな?」

「なんで今の流れで行けると思ったのさ。……まぁ君が心配だから行くけど」

「そうこなくちゃな」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る