第5話
昼食を食べ終えた僕達は色々な店に行った。アニメのグッズ売り場やラノベ専門店、その他諸々を巡った僕達は休憩のために公園に寄っていた。
時刻はもう16時を過ぎ、夕焼けで空が赤く染まっている。
「たまにはこういうのもいいね」
「そうだな。お前を外に連れ出すのにいい口実ができた」
「もー、せっかくいい気分だったのに君のせいで台無しだよ」
「ははっ、冗談だ」
たく、紛らわしい嘘つくんじゃないよ。
そうやって
「子供……?どうしたんだ……って、おい聖子!」
優斗の声を無視し、僕は子供の泣き声がする方へ走った。
少し走るとすぐに泣いている女の子が見えてきた。近くに親はいない。多分迷子かな。とりあえず話しかけよう。
「ねぇ君、どうしたの?」
「お父さんとお母さん、どっか行っぢゃっだぁああああ!!」
「そうなんだ。じゃあ一緒にお父さんとお母さん探そう?」
「お姉ちゃん、だあれ?」
「僕は聖子。通りすがりのお姉さんさ。それで、このへばってるのが優斗。体が大きくてクマさんみたいでしょ?」
「わぁ…クマさん!」
女の子は急いで僕を追いかけて来て息を切らしている優斗を輝かしい目で見た。
なんか後ろから僕のことを咎めるような視線を感じるが無視する。
今はこの子優先だからね。
「それで、お母さんとお父さんとはぐれたんだよね? お父さん達とどこに行ってたとか覚えてる?」
「えっと……いっぱいお店があるところ」
「ふむ、あそこの商店街か。商店街の近くには交番があるから、親もそこに行っている可能性が高いね」
「じゃあ一先ずは交番か」
僕達は女の子と手を繋いで交番に歩き出した。交番に向かいながら女の子と会話する。
「聖子お姉ちゃん、お人形さんみたい」
「ん?そうかい?」
「すっごく綺麗」
「ふふっ、ありがとう」
ここは元男としては否定するところなんだろうけど、実際今の僕は美少女だからね。下手に謙遜なんてすると余計に恨みを買うだけだし、褒められる事は純粋に嬉しい。
「聖子お姉ちゃんとクマお兄ちゃんって、結婚してるの?」
「してないよ。僕とクマさんはただの友達なんだ」
「うぐっ……」
僕とこいつが結婚する事なんてないでしょ。僕からしたら優斗は弟みたいなものだし、彼はギャルゲーの主人公だから、女の子なんて好きなだけ選べるでしょ。
わざわざ僕みたいなのを選ぶ必要なんてないんだし。僕を選ぶくらいなら他の子を選ぶ方が何百倍もマシだしね。
僕はただニヤニヤしながら彼の恋路を見守るだけさ。
「そうなんだぁ。聖子お姉ちゃんは好きな人いるの?」
「いないよ」
「じゃあクマお兄ちゃん、頑張って!」
「え?」
「ん?」
何言ってるんだこの子は……。
ビックリしすぎてフリーズしちゃったよ。
まさか優斗が僕と付き合いたいとでも思ってるのかな?
まあ大人と子供が見ている世界は違うし、彼女からしたらそう見えてるのかも。そんなこと絶対ないのにね。
「そうだな。お兄ちゃんも頑張るよ」
「うん!」
優斗は意外と面倒見がいいね。
あれか?
年下の子が居たら自然とお兄ちゃん風を吹かせたいやつか?
優斗も成長したね。前まではイタズラ好きな子供だったのに今では子供を思いやれる子になった。こんなに近くで見てるのに気付かなかったよ。
本当に優しいなぁ。
優斗があの四人の誰を選んだとしても僕は応援するよ。ただ、優斗が不幸になるのだけは避けたい。だからまず四人には、僕とタイマンで面談してもらって絶対に幸せにできると僕が納得できたら許可してあげよう。
それで全力で支援するんだ。幸いお金ならたくさんある。優斗のためならいくらでも使ってあげるよ。
僕は彼の姉のようなものだからね。結婚式にはぜひ呼んでほしい。
「優斗、早くお嫁さんを見つけるんだよ?」
「………クマお兄ちゃん、苦労しそう」
「ははっ、頑張るさ」
「ん?」
何に苦労しそうなんだろう。優斗なら結婚まですぐでしょ。やっぱり子供と大人じゃみてる世界が違うんだね。
「本当に、ありがとうございます!」
交番に着くと女の子の両親と偶然鉢合わせた。彼等も女の子を探していたようで、交番に来ていたらしい。
「クマお兄ちゃん、聖子お姉ちゃん、ありがとー!」
元気に手を振りながら離れていく女の子に手を振りかえしながら、僕らは家に帰った。
帰宅した優斗と僕は、優斗の家でいつも通りゲームをしていた。
いや、今日はいつもとは違ってお菓子とかもあるからどちらかというとパーティーみたいなものだね。二人でパーティーなんて普通に悲しいけど。
「ちょっ、やめ、それ以上は駄目だ!」
「ほらほらここが弱いんでしょー?」
「いやだ、うわぁああああ!!」
「ざっこ」
「また負けたー!」
格闘ゲームで優斗をボコボコにする。ふふっ、悔しがってる。悔しがってる。
「さっきは今日こそ勝つなんて息巻いてた癖に蓋を開けてみればこの様かぁ。いやぁ、僕もちょっと期待してたんだけどなぁ。でもこんなにボコボコにできるなんて思わなかったよ」
「ぐぬぬ……」
優斗に勝って煽ることでしか得られない快感があると思うんだ。この瞬間が一番気持ちいい。
「何か言ってみたらどうだい?あ、もしかして何も言えないの?恥ずかして何も言えないんだね?全く、情けないねぇ。ほら、口答えしてみなよ。ザーコ♡ザーコ♡」
「ぐぅ………じゃあ、次はこれで勝負だ」
そう言って、優斗が取り出したのは一つのカセットだった。
「まさかそれは……桃◯!?」
「散々煽ったんだ。これでも勝てるよな?」
「ふ、ふん!僕が負けるわけないよ!もし僕が負けたらなんでも一つだけ言うことを聞いてあげるよ」
「言ったな?」
「言ったさ」
「よしじゃあ決まりな!」
こうして僕と優斗の負けられない戦いが幕を開けた。
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