第4話

店の中を歩く。目的もなく、ブラブラと。たしか今日聖子は自宅でゴロゴロしてるはず。ここで会うことはないだろうな。

ま、後で会いに行ってやるか。あいつあれで結構寂しがり屋だし。それにちょっと心配だしな。

行くなら手土産が必要か。あいつは断るかもしれないがこういうのは持っていった者勝ちだ。断ろうが無理やり渡してやるぜガハハ。

うん、まずは手土産買わなくちゃな。

あいつは甘い物が好きだから、クッキーとかが良いか?

いやでもあいつが作ったやつの方が美味いし、それ以下を渡されても自分で作ればいいってなるし。

かといってアクセサリーとかは手土産にしては重いし、食べ物系もクッキーと同じ。

うーん……もうポテチでいいや。ついでにコーラもニ本買って宴をしよう。宴をするならポテチ一袋じゃ足りないし、他の菓子も買うか。

チョコにグミにスナック菓子。うん、こんなもんでいいだろ。

後はとりあえずなんか服でも見に行くか。俺はオタクだけど結構アウトドアとか好きだし、外に遊びに行くことが頻繁にある。お洒落は大事だ。

そういや聖子は着てる服が大体同じで変わり映えしないんだよな。学校以外ではいつもパーカーやジャージしか着てない。

あいつ美少女のくせにお洒落とかに一切興味ないからな。いつも小説読んだりアニメ見たりでお洒落なんて知るか状態だから。

誰だよあいつをオタクの道に誘い込んだのは……俺だったわ。

まあ仕方ないよな。オタクに引き込まないとあいつの精神今頃壊れてたかもしれないし。聖子は結構、闇を抱えてるからな。それを晴らしてやれたらどれだけいいか。

まあ今考えても仕方ない。それに触れようとすれば絶対濁されるし、おいおい考えていこうか。

考え事をしながら服が並んでいるところに向けて歩いていると、聞き覚えのある声が聞こえてきた。


「すごい、めちゃくちゃ可愛い!!」


あれは確か聖子の友達の照間か。誰かと一緒にいるのか?

聖子以外の奴と一緒に居たことなんて見たことないし。一体どんな奴なんだ?

興味本位で俺は試着室の中を見た。見てしまった。

そこにはゴシックなコーデに身を包み、髪をまとめた聖子の姿があった。いつも無表情で特定の方にしか反応しないその顔は少し朱に染まり顰められていて、恥ずかしいのという気持ちが見て取れる。

その光景はどんな絵画や芸術よりも美しく、まるで女神が降臨したかのようだった。少なくとも、俺はそう思った。


「しょう……こ?」

「げっ……優斗……」


思わず呟いてしまい、聖子に気付かれた。

聖子はそのまま無言で試着室のカーテンを閉め、速攻で着替えて出てきた。


「よし」

「よしじゃないよ!なんで着替えるの!?」

「だって、恥ずかしいし……」


か、かわいすぎる。おい聖子、お前それは反則だろ。そんな、そんな照れた顔で言うなんて……。


「ぐはっ、私の親友が可愛すぎる……」

「俺の幼馴染が天使すぎる……」

「も、もう!何言ってるんだ君達は!?」


やべぇ、照れ顔可愛すぎる。

こいつがこんな乱れる事なんて見た事なかったから新鮮で最高だ。

そういえば俺が必死にアプローチしても全く照れさせられることも無くましてや気付かれてすらないんだったっけ……。

………この話はもうやめよう。

別にそれが諦める理由にはなんないけど俺の心に物凄いダメージが入る。

この鈍感天然たらしめ。いい加減自覚しろよ。自分の魅力を。

お前のせいで何人の男子が犠牲になってきたことか。


「も、もういいだろこの話は!さっさと別のもの買いに行くよ!」

「えー、もうちょっと他のも着ようよー」

「嫌だね」

「ぐっ……か、金ならいくらでも積む!だからお願い!」

「金なんて僕の方が持ってるよ!絶対嫌だからね!」


ちっ。

こいつは中一の頃に株を始めていて今ではいくつもの大企業と契約している。そのため下手な金持ちよりも金を持っているのだ。

だから金による攻撃は効かない。

くっ……どうすればいいんだ。


「あ、私この後用事があるんだった。悪いけど二人で楽しんで!それじゃ!」

「え、おい!?」


引き止めるために伸ばした手も上げた声も虚しく、照間は走り去っていった。

あいつ……余計な気使いやがって。


「はぁ、急にどうしたんだろう。もう僕も帰ろうかな」

「いや、どうせなら回ろうぜ。何か美味いもんもあるかもしれないし」

「んー……それもそうだね。スイーツ巡りでもしようか」


聖子はそう言いながら照間に着せられたのであろう服を持ち会計に行った。

うん、口では恥ずかしいとか言いながらこれかよ。


「な、なにさ。せっかく勧められたんだから買わなきゃ失礼だろ!?」


可愛すぎかよ、こいつ。

というかさ、今考えたら二人で一緒に買い物するのって完全にデートだよな?

やばい緊張してきた。子供の頃は今と違って緊張とかはせずに楽しめてたんだがもう俺は高校生。あの頃の純粋な心はとうに汚れてしまった。

心臓がバクバクとうるさく、手汗が滲んでいる。

落ち着け、俺。

せっかく作ってもらったチャンスだ。無駄にするわけにはいかない。




灯が走り去り、優斗と一緒になった僕はまずファミレスに行った。

灯のせいで昼ご飯を食べ損ねたからだ。まったく、服なんて別にどれでもいいのに、こんなに時間を使うとは思わなかった。


「聖子、どれにするか決まったか?」

「チーズインハンバーグのご飯抜きで、後パフェかな」

「わかった。じゃあ頼むぞ」


店員さんにメニューを伝え、後は待つだけになった。

……さすがにファミレスは適当すぎたかな?

でも別にデートとかではないし、友達との買い物なんだから凝る必要もないか。

さて、ハンバーグが来るまで暇だし、恋バナでもしようか。


「ねえねえ優斗、好きな人とはなにか進捗あったの?」

「ん!?べ、別になんともなかったぞ?」

「ふーん……。もう、君はヘタレだね。もっとアプローチしないと好きな人も振り向いてくれないよ?」

「いや突然アプローチなんてしたら不思議がられるだろ。それにもしキモがられでもしたら俺は死ぬぞ?」


うわぁ……想定以上にヘタレてた。

まさかあの優斗がこんなにもヘタレだったとは思わなかったよ。

こいつを落とした子がどんな子なのか、非常に気になるね。


「そんなに好きなのに僕には教えてくれないの?」

「普通好きな人は誰にも教えないだろ」

「むぅ……とにかく、好きならヘタレてないでとことんアピールしなくちゃ。その子が他の人に盗られないうちにね」

「………そうか」


優斗はそれっきり考え込んでしまった。

うんうん、真剣に悩むのはいいことだよ。悩んで悩んで悩み抜いて、壁をぶち破らないと。今後の人生を左右することだからね。

でも一人で抱え込みすぎると潰れてしまう。だから時には人に頼って、悩みを共有してほしいかな。

じゃないと僕みたいななんの価値もない人間になっちゃうからね。


「お待ちいたしまたー!チーズインハンバーグとイチゴパフェ、サイコロステーキ定食の三点でございます。お会計はここに置いておきますね」


そうこうしてたら頼んでた料理が来たね。

熱いうちに、早く食べちゃおう。

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