第3話

休日はいいものだよ。だっていくら小説を読んだりしても怒られないんだから。

僕はベッドの上で恋愛小説を読んでいた。もう何回も読んだもので、これで十回目だ。やはり繰り返し読むことで気付かなかった伏線や登場人物の心情の変化、物語の風景がわかってくる。

でもそろそろ新しいの買わないとなぁ。別に何回でも読めるんだけど、新鮮味が欲しくなってきた。明日買うかぁ。

本を閉じて本棚に戻す。そのままベッドに寝転んで、深呼吸する。糖分のとりすぎだ。少し出さないと。

それにしても、恋とはいいものだね。したいとは思わないけど、綺麗で心が洗われるよ。

次はアニメを見ようかなあ。

そう思ってスマホを開くと、LI◯Eが来ていた。確認してみると中学からの友達照間灯てるまあかりからだった。


灯『おーい、今暇?』

聖子『ちょうど小説読み終わったところだよ』

灯『ナイスタイミング!』

灯『一緒にどこか行かない?』

聖子『いいね』

聖子『どこ行くの?』

灯『イ◯ンとか』

聖子『OK』

聖子『待ち合わせは?』

灯『駅』

聖子『OK』


さてと、親友とデートに行こうかね。




——————————————————————————————




お、灯より先に着いたね。待ち合わせ場所の駅に着いた僕は、できるだけ見えやすい位置に移動する。さてと、あとは待つだけだね。


「ねぇ君かわいいね。俺とお茶しない?」

「嫌です。消えてください」


灯遅いなぁ。もうここに着いてから五分も経ってるよ。場所は伝えてるし、来たらすぐにわかるのに。まったく、早く来て欲しいものだよ。ここあんまカップルいないから暇なんだ。


「そ、そんな酷いこと言わないでさ、いいカフェ紹介するから」

「待ち合わせなんだ。帰れ」


はぁ、なんでこんな奴の相手なんかしなくちゃならないんだ。正直言ってめちゃくちゃ面倒くさい。恋愛漫画で主人公にワカラされる脇役はさっさとご退場願いたいね。


「下手に出てりゃあ、いい気になりやがって!」


うるさく叫び、男が掴みかかってきた。こうなっちゃ、人間としておしまいだよね。

僕はするりと男の腕を避け、足を掛けて地面に転ばせる。


「ぷっ」

「ぐ、てめぇ!」


男は地面に転がったままこちらを睨みつけてくる。はぁ、本当に面倒だね。こういう身の程を知らない下衆が僕の時間を乱すなんてさ、許せるわけないよね?


「あのさぁ、君まだわかんないの?」

「は?」


ダン!!

男の頭の横を踏み付ける。地面に少し亀裂が入ったが知ったことじゃない。


「ねぇ、なんで君みたいなゴミが、一丁前に僕の時間を浪費しようとしてるのさ」

「え、h——ダン!!

「誰が喋って良いって言った?お前みたいなゴミのさえずりなんて、爪の先ほどの価値もない。そんな汚い声、僕に聞かせるな」


足をどけ、元の位置に戻る。そして声に怒りと威圧と殺気を乗せ、ゴミに最後の忠告をする。


「さっさと失せろ」

「っ………!!」


男は何も言わず、脱兎の如く僕から逃げた。最初から最後までダメな男だったね。たく、いつになったら灯は来るんだ。もう一匹あんなのが来たら僕はもう帰るからな。

とか思ってたらようやく来たよ。

黒い髪をお団子にした、つり目でモデル体型の女性がこっちに近付いてくる。


「聖子ー、お待たせー」

「遅いよ、灯」

「ごめんごめん、ナンパされちゃって」

「え、君も?」

「もしかして聖子も?」

「ん」


僕は亀裂の入った石の地面を指差す。それを見た灯は事態を把握したのか、引き攣った顔で僕を見た。


「なんだよ。一応正当防衛だからな?」

「んー、それなら仕方ないかー。ちょっとナンパした人が気の毒だけど」

「なんでさ」

「聖子の圧は外から見てるだけでも怖いから」

「そうかなぁ……」

「軽くちびる」


流石にそこまでではないでしょ。まったく、勝手に過大評価して恐れるのはやめて欲しい。僕は前世では男だったけど今世ではいたいけな女の子なんだから。


「灯、行くならさっさと行こうよ」

「お、聖子が乗り気なの珍しいね。放課後とか絶対付き合ってくれないのに」

「休日は恋人が多いからね」

「出た、聖子のカップル鑑賞趣味。あんまりジロジロ見るもんじゃないよ?」

「大丈夫だよ。気付かれないように見てるから」

「そういう問題じゃないんだけどねぇ」


そんなことを言いながら進んでいると、すぐにイ◯ンに着いた。

いやぁ、いつぶりだろうね。結構僕は引きこもりがちだからあんまり外に出ないんだよ。

カップルを眺めるのはいつも登校時や下校時だけだから、休日にこうやって眺めるのは新鮮でいいや。たまには外出もしていこうかな。


「それで、今日は何を買うんだい?」

「聖子の服よ」

「うげ……」

「露骨に顔を顰めないの!あんた美少女なのに服に頓着しないせいでまともなの持ってないでしょ!」

「別にいらないよ。あんまり外に行かないし。それに目立ったらカップル鑑賞できないじゃないか」

「それでも普通おしゃれに気を使う物なの!そんなんじゃ熊山君に呆れられるよ?」

「なんであいつが出てくるのさ……」

「彼氏に見せる姿を良くするのは当たり前でしょ?」

「いや付き合ってないんだけど」

「え!?」


いやなんでびっくりしてるんだよ。僕とあいつが付き合うわけないじゃないか。あいつとはただの幼馴染だってのに。全く、勝手にカップルにするのはやめてほしいね。


「あの距離感で付き合ってないなんて……」

「ん、どうしたんだい?じっと見つめて来て」

「学校内で一番人気のカップルなのに付き合ってないなんて嘘でしょ。普通幼馴染ってだけでお弁当なんか作る?それに放課後はいつも二人で同じ部屋にいるわけで……。密室に男女二人、絶対ヤル事やってるでしょ」

「おーい、戻ってこーい」

「中学の体育祭とかでも二人でお弁当食べてたし、高校の借り物競走のお題で大切な人が当たった時は真っ先に指名してたし、修学旅行でも絶対に二人で行動してたし、日頃からいっつも夫婦みたいな会話を繰り広げてるあの二人が付き合ってない!?おかしい、そんな事あっていいはずがない。どうすればいい、どうすればどうすればどうすれば………」

「ダメだこりゃ」


こうなったら灯を止められる奴は誰もいない。何かを考え出したら周りが見えなくなるからなぁ。困った困った。

まぁ、手を引けばついて来てくれるから、あまり問題はないんだけどね。

ぶつぶつと何か呟いてる灯を引きづりながら、イ◯ンに入っていく。

いやぁ、本当に久しぶりだなぁ。前世の子供の時はト◯ザ◯スに入り浸ってなぁ。特撮物のグッズとかベルトとか、ブロックのおもちゃとか、色々買ったんだっけ。

今世は前世の記憶があったからそんなことはなくて、逆にアニメグッズとかを買ってたんだよねぇ。

……今思えば五歳の女の子が人形とかじゃなくてアニメグッズを欲しがるのって結構やばいよね。母さん達よく引かなかったな。いや、普通に一緒にアニメトークしてたか。親と子って似るものだね。両親も普通にオタクだし。

そうそう、この世界のアニメやゲームって全部元の世界のものと同じなんだよ。アニメもゲームも流行った物もほとんど一緒。一部まだ出ていなかったり、早くに出ていたりするけど内容は一緒。

ただ他はちょっと違うんだよね。元の世界に居なかった政治家とか、芸能人とかがいたりする。消費税も3%のままだし。

完全に同じ世界ってことじゃないんだろうね。

ちなみに今はVtuberが出始めたくらいだよ。前世ではあんまり見なかったものだけど、今世では結構見てる。

まだ人気も知名度も全然だけど、これが有名になっていく過程を見れるなんてご褒美だよね。

僕も気が向いたらやってみようかな。実は僕は投資家として今も結構稼いでるし、お金には余裕がある。株をするのは親の許可があれば何歳からでもいいからね。両親も許可してくれたし、将来は思う存分遊べるよ。


「はっ!そうか、私が二人をくっ付ければいいのか!」

「考えはまとまったかい?」

「あれ、ここは……」

「君が考え事してたから引きずってきたんだよ」

「あー、ごめん。お詫びに何か奢らせて」

「別にいいよ。いつものことだし」


中学からの付き合いだからね。もう慣れた。


「服買うんでしょ。さっさと行くよ」

「買うのは聖子のだけどねー」


そう僕と灯は軽口をたたきながら、エスカレーターに乗った。

服なんていらないんだけどねー。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る