第2話

俺の名前は熊山優斗くまやまゆうと。どこにでもいる普通の男子高校生だ。趣味はゲームと読書で、頭を使うことは苦手。

顔は中の上ぐらいだと自負している。決してナルシストとかそういうのじゃない。幼馴染が言ってたから多分そうなんだろうと思ってる。

でもなぜかモテないんだよなぁ。小学校低学年の頃はモテてた記憶があるんだけど、高学年になってから一気にモテなくなった気がする。

中学なんてただのモブだったしな。高校生になってからは少しだけ告白なんかもされたが最近ではそういうのもなくなった。

ま、それは別に気にしてないんだけどな。俺に小学生の頃ほどの魅力がなくなったってだけで。

…………本当に気にしてなんかないぞ?

告白された時だって好きな人がいるから断ったし。俺は好きな人一筋だからな。


「ぞっこんなんだねぇ。それでそれで?もっと聞かせてよ」


俺の前でニヤニヤ笑ってるこいつは宵闇聖子よいやみしょうこ。俺の幼馴染だ。

名前の聖と闇を表すように白の髪と黒の瞳を持つ小柄な美少女である。

テストなどでは常に一位をキープする程の頭脳を持ち体力テストなどでも男子含め学校一位の記録を出す、まさに非の打ち所がない天才だ。

幼馴染でもなかったら、俺では話すことさえできない存在。

一日に何回も告白されてるのが良い証拠だろう。聖子はこの学校のマドンナ的存在なんだから。テレビに出てても全然驚かない。

何回かモデルのオファーもあったらしいし、外から見てもやはり美少女なのだろう。

だがまぁ、俺はもうこいつと十年は一緒にいるからな。性格は完全に熟知している。

聖子の性格を一言で言うなら面倒見のいいボクっ娘メスガキだな。

今思ったが属性多すぎないか?

でも全部事実だからなぁ。

まず聖子は、めちゃくちゃ世話焼きだ。こんな生活力ダメダメな俺を、幼馴染だからという理由で支えてくれてる。

俺の生活って結構聖子に依存してるんだよ。朝は寝坊しないように起こしてもらい、共働きで滅多に帰ってこれない両親の代わりに朝ご飯を作ってもらい、昼ご飯は聖子が作ってくれた弁当を食べて、夜は作り置きしてくれたご飯を食べる。

うん、完全に依存してるな。聖子がその気になれば俺は飢え死ぬからな。え、自炊すればいいって?

逆に聞くがプロレベルの料理毎日食って料理初心者の料理に満足できるとでも?

さて、ここまでが聖子は面倒見がいいというエピソードで、次はメスガキエピソードだ。

実は聖子は優等生のくせして結構なオタクだ。アニメやゲームなど、結構趣味が合う。高校まで仲良くやってこれたのもオタク趣味のおかげだと思っている。

お互いゲームが好きだからよく対戦したりする。よくするのはス◯ブラだ。

家が隣だから結構な頻度でやっている。他にもボードゲームやトランプ、Fps、原◯など、たくさんのゲームを二人でプレイしている。

その中で、聖子のメスガキな部分が出てくるんだ。補足しておくが、聖子は勉強もスポーツも出来るくせしてゲームもプロレベルで上手い。

当然俺が勝てるはずもなく、煽ってくるのだ。


「あれー、負けちゃったねぇ。ねぇねぇ、いつになったら僕に勝てるようになるんだい?あれれ?突然黙ってどうしたんだい?あ、もしかして悔しくて何も言えないとか?ねぇねぇ、なんとか言ったらどうだい?お・雑・魚さん♪」


といった風に煽ってくるんだ。だがあいつだってやはり人間だ。できないことだってある。

そのうちの一つは、俺に運勝負で絶対に勝てないということだ。

聖子はとてつもなく運が悪い。くじを引けば必ず大凶かハズレを出し、人生ゲームなどでは必ず最下位になる。

そして恐ろしいことにそれが全く狙ったりしていないのだ。素で不幸なんだあいつは。

おかげで俺は聖子をワカラセルことができた。とても良かったです。


「ほらほら、黙ってないで。その好きな子とどんなことをしたいのか。またはその子のどんな所が好きなのか。さっさと吐きな」


ニヤニヤしながら、聖子は俺を問い詰める。

さっき好きな子がいると言ってからすぐにこうなった。

聖子は人の恋路を見るのが好きらしい。買い物なんかでカップルを見つけたらニヤニヤとそちらを眺めたり、小説やアニメが絶対に恋にまつわるものなのはそういうことだったのか。

もしかしたらそういうのに、憧れでもあるんだろうか。いや、違うな。それは絶対に違う。

聖子は、人の恋をみるのが好きらしいくせに、自分には興味がない。自分の恋について考えている事なんて俺が知る中で一度もない。

故に気になってしまう。聖子に、好きな人がいるのかどうか。


「お前は、好きな人とかいないのか?」

「いないよ。そんなことよりさ、君の好きな人について教えてよ」


即答しやがった。

聖子ならまあ納得だがな。キラキラした目しやがって。こいつが恋をする事は果たしてあるんだろうか……。

いや、させるんだったな。




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——————




聖子の追求をなんとかかわし、俺は自分の部屋にいた。


「優斗、なんか面白い漫画ない?」


———聖子と一緒に。

放課後、俺と聖子は俺の家でゲームや漫画などを二人で楽しむ。小学生から続く日常だ。聖子にとっては何も思わないただの日常なのかもしれないが、俺にとっては一日の中で最も大切な時間だ。

今聖子は俺のベッドの上で漫画を読んでいる。あいつが好きな少女漫画などではなく、俺の好きな異世界モノだ。

普通にこのジャンルも好きらしく、息抜きなどに読むことがあるらしい。

なんでいつもここで読もうとするんだろうか。いつも

ベッドを使われる俺の気にもなってほしい。

それに……。

俺は聖子の方をちらりと見る。

オーバーサイズのTシャツに、ショートパンツ一枚という非常に目のやり場に困る格好をしている。こいつには危機感というものがあるのだろうか。


「ん、どうしたんだい?」

「いやお前なんでいつもそんな格好してんだよ」

「制服で寝転がったらしわになるだろう?」

「そういう問題じゃないだろ……」

「?」


はぁ、まったくこいつは……。

自分の魅力に無自覚だから本当にタチが悪い。多分学校で俺に向けられる殺意のほとんどが聖子と仲よくしているからだろう。

だからといって離れる気なんて毛頭ないが。


「そうそう優斗、君はあの四人の女の子達で誰が一番好みなんだい?」


あの四人っていうと、先輩の古村恵規こむらさとみ、後輩の佐藤秀さとうゆう、同級生の山田桜やまださくら、今年転校してきたニーナ・スズモリか。正直言うと別に彼女達に好意を抱いたことはない。

ずっと聖子一筋なんだ。


「別に誰も。あの四人はただの友達だよ」

「なるほど。……あの四人は違うか」


四人は、違う……?

!?!?!?

こいつもしかしてさっき話した好きな子を特定しようとしてないか!?

ま、まずい。こいつにバレたらまずい!!

だって俺が好きなの聖子だし!

でもあいつ俺のことまったく意識してないし、もし知られて振られたら最悪すぎる!!

俺は絶対にあいつと結婚したいんだ。だから俺に恋させて何がなんでも結婚する!

そのために今俺に気持ちを知られてはならないんだ!

まずここは聞かなかったことにして乗り切るぞ。

あ、そうだ。逆にタイプを聞いてやればいいんだ。

まあ聖子のことだからそんなものないって即答しそうだけど。


「逆に聖子の好きなタイプってなんだ?」

「ん?僕の?」

「お前にも付き合いたいタイプとか、恋人にしたいタイプとかあるだろ?」

「うーん、そうだねぇ……」


え、何この反応。予想してたのとまったく違うんだけど。まさか聖子にもあるのか!?好きなタイプというものが!!


「うーん……世話が焼けて、一緒に居ても苦にならなくて、綺麗な人かな」

「ふーん……」


俺じゃん。綺麗かどうかは知らんけど九割くらい俺じゃん。十年も一緒にいるんだし世話も焼いてくれてるし、完全に俺じゃん。

いや待て待て待て。自意識過剰すぎやしないか?

聖子は俺のことを今まで男として見たことはない。でなきゃ男の部屋でこんな薄着でいるわけがない。

………ワンチャン誘ってる?

いやいやいや聖子だぞ?

あの超鈍感天然ボクっ娘に限ってそんなことはしない。

大体、もし俺に惚れていたとしても、あいつは正々堂々アピールしてくるはずだ。俺が気付かないはずがない。言い切れる理由は、こいつが負けず嫌いの天才だからだ。こちらから告白するように誘導してくるだろうな。


「そんなことより、ゲームでもしようよ」


はぁ、こっちの気も知らずに。

聖子、お前はいつ俺に惚れてくれるんだ?

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