ギャルゲーの世界にTS転生とか正気か?

呂色黒羽

第1話

君は神を信じているかい?

……なんかこれ漫画で出てくる強キャラのセリフみたいだな。

少なくとも、僕は神を信じている。なんせ神は僕の願いを最悪な形で叶えてくれたからね。あいつは絶対に性格が悪い。

おっと、そういえば名乗っていなかったね。僕の名前は宵闇聖子よいやみしょうこ。数多く存在するギャルゲーの一つ、『花園ガールズ』、略してハナガルにて攻略対象として登場するキャラクターだ。

さてここで疑問に思ったことがあるだろう。なぜゲーンの中のキャラでしかない僕が、そんなことを知っているのか。

それは、僕が転生者だからだ。

僕は前世ではそれは健全な男子高校生として生活していた。だけど突然階段から滑り落ちてね。気付いたら宵闇聖子になっていたのさ。

実は前世で僕はずっと女になってみたいと思っていた。いや違うな。自分ではない誰かになりたいと常々思っていたんだ。

そしてそれが叶ったわけだけど……違う。違うよ神様。なんでハナガル内でダントツ人気のボクっ娘幼馴染に転生しなきゃならないんだ!

これじゃあ攻略されちゃうだろう!?

嫌だからね!僕は絶対メス堕ちなんてしないから!

ふぅ、一回落ち着こう。

ここは一度、ハナガルと宵闇聖子について詳しく話した方がいいかな?

まず『花園ガールズ』通称ハナガルは、主人公を操作し、攻略対象を攻略していく、どこにでもあるシンプルなギャルゲーだ。

だけどストーリーや合間で出てくる挿絵がすごく凝っていて、結構名の知れたゲームだった。

そして宵闇聖子は、ハナガルに登場する攻略対象の一人。長い白髪と黒い瞳を持つ美少女だ。主人公の幼馴染で、昔からよく遊んでいた。

ボクっ娘でありその独特な話し方や態度、性格、ストーリー全てでプレイヤーを魅了し、見事ヒロインランキング一位を獲得したキャラである。

で、僕がその宵闇聖子よいやみしょうこになったってわけ。宵闇聖子の体に前世の記憶なんかが乗り移った形かな。

いや記憶を取り戻したのは物心着いた頃だったし、ゲームの宵闇聖子に性格が似通った形になってる。説明するのが面倒だから端的に言うと、転生したってことになるね。

いやぁ、記憶を取り戻した当初はびっくりしたよ。だって突然長年連れ去ってきた相棒が行方不明になってたんだから。

ま、高校生にもなれば色々と慣れたけどね。

さて実は僕、今非常に困っていることがある。

察している人もいるだろうけど、それはズバリ恋愛についてだ。

僕は前世も含め、恋をしたことなんて一度もない。前世では恋愛経験ゼロのまま死んだしね。今世は今世で男だった時の意識があるおかげで恋愛なんて全くできなかった。

さて、ここで一つ。僕が前世から抱く恋愛の定義は、見るものだ。人と人がイチャイチャしてるのを見るのがすごくおもしろい。愛はすごく美しくて、見ていて心地いい。

故に今世でも他の人の恋愛を微笑ましく見るだけで、僕自体は恋なんて一切してなかったのだよ。

そもそも僕他人と付き合えないんだよねー。

だって前世からの意識で男性に恋愛感情なんて抱かないし、女として生きてきたから女性も恋愛対象から外れたし。

それに僕は、他人に自分のペースを乱されるのが好きじゃない。できるだけ一人でいたいし、付き合って相手に合わせるとか論外なんだ。

こんな僕じゃ、恋愛なんてできるはずないよねー。

別にモテないわけじゃないんだけど、する必要がないってだけ。僕はこの人生は一人でずっと好きなことして生きるつもりだ。

でもやはり障害がある。それはこのゲームの世界の主人公にして僕の幼馴染である熊山優斗くまやまゆうとという男だ。

あいつとはゲームと同様に幼馴染で、名前の通り熊のようにでかいが僕からしたら弟のような存在だ。昔はゲームの世界なんて関係なく仲良くしていたし、今でも遊んだりはする。

でもそれが問題になっているようなんだよね。優斗はさすが主人公とでも言うべきか、すでに攻略対象である四人を落としている。

ハナガルには攻略対象が僕含め五人いる。つまり僕以外全員落とされてしまったというわけだね。

それで発生したのが他の攻略対象達による嫉妬の嵐。まあ当然とも言える。

僕と優斗は幼馴染で、結構仲がいい。必然的に一緒にいる時間も増えるし、彼女達が会えない時間も増える。結果、僕に嫉妬の矛先が向いたというわけ。

いや本当に困る。別にいじめられてなんてないんだけど、事あるごとに敵意をぶつけてくるのはやめてほしい。正直言って、鬱陶しくて仕方ない。

いや僕が優斗から離れればいいだけなのだけど、それができたら苦労しない。

あいつはあいつでいつも僕にしつこく付きまとってくるんだ。ほら、来た。


「聖子、なんか面白い事ないか?」

「ないよ。面白いことなんてそうそう起きないから面白いんだから」

「でもなんか暇なんだよなぁ」

「ほう?人が読書してる時に邪魔してきて暇だとはいい度胸だね。罰として明日のお弁当は抜きだ」

「ごめんさない。マジで勘弁してください」

「わかったならいいよ」


こういう感じで、ずっと絡んでくる。非常に鬱陶しい。優斗ではなく彼の後ろから突き刺さる鋭い視線が。

別に優斗は悪い奴じゃない。少し世話が焼けるけど人を馬鹿にしたりしないし、困ってる人がいたら積極的に助けに行く優しい奴だ。ただちょっと空気が読めないというだけで。

今も彼女が優斗の後ろから僕を睨んでるのに気付いてないからね。

はぁ、なんでこいつは僕に構うんだか。

イケメンで運動神経も良くて性格もいい。頭は悪いけど、モテないわけがない。

何度も何度も告白されてるからね。なぜか全部断ってるらしいけど。

おかげで僕はヒロイン以外にも優斗を好いてる女の子達に目の敵にされてるよ。

小学生の時とかそれで良くいじめられたんだよね。だから自衛のために格闘技を習い始めた。

空手や合気道なんかの型の継承を目的としてる奴じゃなくて実践向きのやつ。それで片っ端から殴って行ったらいじめはなくなった。

代わりに恐ろしいものを見る目で見られたけどね。中学は小学生から同じ人が多かったから大丈夫だったんだけど高校生ともなれば顔馴染みは少なくなる。

僕のクラスでは優斗以外に小学生からの同級生はいない。だからまた僕に敵意を向けてくる奴らが増えてきた。

また殴ったら減るかな?


「なあ聖子聞いてくれよ。なんか最近男友達からすげえ殺気を向けられるんだ。なんか原因知らない?」

「へぇ、気付いてたんだ。君のことだからてっきり気付いてないと思ってた」

「おいおい、俺をなんだと思ってんだ」

「強いて言うならめちゃくちゃ残念な馬鹿だね」

「それただのダメ人間だろ!?普通その残念なの次は褒め言葉でしょ。なんで最後まで罵倒した!?これじゃあ俺ただの残念で馬鹿な男なんだけど!?」


いや事実だし。紛れもない事実だし。

四人のヒロインから好意を向けられてるのに気付かずに私に絡んでくるんだから残念で馬鹿な鈍感たらし残念男でいいでしょ。


「さて、君がクラスの男子に殺気を抱かれてる理由だったね」

「なかったことにした!?」

「想像してほしいんだけど、美少女四人に囲まれてる男を見て、君はどう思う?」

「そりゃあ、今すぐマシンガンで体を蜂の巣にしてやりたいな」

「うん。それが今の君さ」

「え、じゃあ俺はクラスの男どもからハーレムクソ野郎って思われてるってことか?」

「そうだよ」

「ただの友達なんだが……」

「側から見てたらただのハーレム野郎だよ」

「えぇ、なんでモテない俺がんなこと思われなきゃならないんだ……」

「それを素で言ってるから末恐ろしいよね」


なんでめちゃくちゃ告白されてるくせにモテないなんて思えるんだろうねぇ。その思考回路がマジで意味不明だよ。


「君は好きな人とかいないのかい?」

「いや普通にいるぞ」


ザワッ————


瞬間、クラスにいた面々が全員優斗に目を向けた。特に女子の目がやばい。ギラギラと獲物を見るような、捕食者の目をしてる。

ここで動揺して話を切ったら後ですごい目で見られそう。ここは聞き出しておくか。後がめんどそうだし。

当然優斗は全く気付いていなかった。こいつ鈍感にも程があるでしょ。


「へぇ、誰なの?」

「それはいくらなんでもお前には言えんなぁ」

「えぇ……なんでさ」

「お前に言ったら次の日には学校に広がってそうで嫌だ」

「もう、僕がそんなことするわけないじゃないか」

「普通に恥ずかしいんだよ。言えるかそんなの」


あらら、聞き出せなかったか。まあ無理強いも良くないし、これで勘弁してあげよう。でも、少し揶揄うのはいいでしょ。


「へぇ。じゃあ名前は聞かないであげよう」

「そうか」

「でも幼馴染に好きな子がいることが分かったし、その子とどうなりたいか聞かせて」

「えぇ……なんでだよ」

「君も知ってるでしょ?僕の趣味は人の恋路を見ることなんだ。幼馴染の恋路が気にならないわけないじゃないか」

「初耳なんだけど」

「言ってなかった?まあいいや。それより、その子とどんなことしたいんだい?付き合う?もっと行って結婚?それとも少しひよって手を繋ぐとか?」

「………全部、かな」

「ふーん」


ほほう、めちゃくちゃ良いことを聞いた。ふふふ、ニヤニヤが止まらないよ。

今まで数々の女の子を誑かしたイケメンが顔を赤くしてるのもいいね。ものすごくポイント高い。

優斗はいったいどんな子に惚れたんだろうか。彼の推しキャラ達から推測すると、世話焼きで小柄な女の子、またはメスガキだね。うーん……僕が知ってる中でそんな子はいないね。

世話焼きってだけなら古村恵規こむらさとみっていう先輩ヒロインがいるけど、小柄ではないしなぁ。一応最有力候補としておくか。

それにしても一体、誰がこの鈍感男を惚れさせたんだろうなぁ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る