第4話 二日目 午前八時〜午後一時くらい 三人との面会

 俺は10センチ増しのシークレットブーツを履き、場内の最高級調度品複数展示特別応接室で一人目の令嬢、フラフープが到着するのを待っていた。


 ガチャ


 「パンナコッタ様、お初にお目にかかります。フラフープにございます」


 「よくぞお越しくださいました。まずはお掛け下さい」


 俺は女性がドキッとする男性の仕草の上位に入るだろうと言う噂の、ネクタイを若干緩める行為を白ネクタイで実施。


 フラフープ令嬢は、俺が認識しているよりも美しかった。


 しかし俺は、下半身以外は浮かれる事なく、眠い時特有のナチュラルハイテンションで、他愛もない会話を三十分程行った。


 そして核心に迫る。


 「ところでフラフープ令嬢、一つお聞きしたい事があります」


 「はい、なんでございましょう?」


 「失礼な質問でしたら大変申し訳ないのですが、あなたは男勝りの性格で、身分が下の嬢に対してはお辛く当たられると言う噂を耳にしました。まったく……世間の噂とは、事実無根の勝手な一人歩きをして人心を惑わせる物だと思いませんか?」


 「…………」

 

 目つきが険しくなったぞ?


 「どうしました?何かお気に触ったでしょうか?」


 「いえ、なんでもございませんが、一つパンナコッタ様にお聞きします、自分より身分が低い者達を卑下して何が悪いのでしょうか? 敬えとでも言うのでしょうか?」


 駄目だ。

 問題外だ。

 この令嬢は何かが欠けている様な気がする。


 「その理屈だと、この国の皇太子である私があなたを卑下しても問題ありませんね?」


 「それは……」


 お引き取り願おう。


 「申し訳ありませんが、今回あなたをお妃候補とするのは見合わせます。フラフープ令嬢……少なくとも私は身分関係なく、良好な人間関係を構築していきたいと思っています。もちろん、お妃となる方にもです。あなたと私では、価値観が決定的に違います。あなたの父上様には性格の不一致と、お話ししておきますから」


 「クッ…………」


 その後、俺の退室の促しに対して、フラフープ令嬢は若干舌打ち気味に応接室を後にした。


 次いくぞ。

  

 俺はシークレットブーツから通常の革靴に履き替え、ランバダ令嬢を待った。


 ガチャ


 「パンナコッタ様、はじめまして。この度はお招き頂き感謝しております」


 「こちらこそ突然のお呼び出し申し訳ありません」


 小柄な令嬢ランバダは俺の体重100キロ?と言う事前認識とは違い、細身の可愛らしい方だった。


 今度は下半身以外は盛り上がり、素のハイテンションと、全力の八割程度の笑顔で出迎え、対応。


 「ちょっと庭を散歩しませんか? 綺麗な桃の花が咲いています。とても可愛らしい、あなたにピッタリだと思いますが」


 「はい。ありがとうございます!私、昔からよく言われたんです。桃尻娘って……ウフフ」


 どう言う事だ?

 まあ、いい。

 俺はスルースキルを全開に発動して、ランバダ令嬢を雨上がりの庭に案内した。


 「ほら、あれが桃の木です。どうですか? 可愛らしいでしょう?」


 「はい! まだ雨の雫でほんのり濡れていて、花びらから水がしたたり落ちてます。これがほんとの桃の天然水ですね!」


 「桃の天然水?」


 「私がお妃になった暁には、夜の天然水も滴り落ちるのでしょうか? ウフフフ」


 「…………」


 悪い方ではないと思うが、ちょっと違和感があるな。

 だが、先程のフラフープ令嬢とは違い、人の道に外れた事をしてる訳ではない。個性的な感性をお持ちの方かも知れないな。


 「と、ところでハレー彗星限定の天体観測がご趣味だとお聞きしましたが?」


 「はい!仰る通りです。でも次に地球に最接近するのは約35年後なんです」


 「なるほど。じゃあそれまで天体観測はお休みと言う事ですね」


 「ええ。その代わり、パンナコッタ様の夜のハレー彗星を観察でもさせて頂き、我慢させて頂きます。ウフフフ」


 大胆な方なんだな。


 その後も二十分程散策したが、夜の◯◯、パンナコッタ様の◯◯、私の◯◯、大人の◯◯と言う、ギリギリセーフのフレーズがちょいちょい飛び出していた。

 その都度、俺はにこやかに大人の対応でやり過ごした。しかし、若干の精神的ダメージの蓄積を感じていたのも事実だ。

 問答無用の却下ではないが、一旦保留としよう。


 そして、ランバダ嬢が帰った後、俺は再び特別応接室でシークレットの令嬢を待っていた。

 そして三十分後、静かに――そしてゆっくりとドアが開いた。


 カ……チャ


 「…………」


 「ようこそお越し下さいました。こちらへどうぞ。私がパンナコッタです。しかし、事前にあなたの事を何も聞かされておりません。まずはお名前をお聞かせ下さい」

 

 推定身長155センチ、俯いて顔はよく見えないが、如何にも大人しいぞオーラを醸し出した女性が、半開きのドアの途中に立っている。


 「…………」


 「あの……御令嬢?」


 カチャ


 出て行ってしまった。


 俺は慌てて応接室を出て追いかけたが、疾風の如く馬車に乗り込み帰ったとの事。

 早すぎだろ?

 極度の恥ずかしがり屋か?

 ちょっと待てよ?

 シークレットと言うのは、こう言う意味か?そのまんまじゃないか。

 父上様の愛情表現はどこ行った?

 あのクソジジイは、本気でこの三人から選べと言ったのか?


 とりあえず自室に戻り熟考しよう。


 自室に戻り、窮屈なタキシードから部屋着に着替えようと下半身完全裸体の裸ワイシャツ姿になった瞬間、当然の様に父上様が入室。


 ガチャ


 「おい! パンナコッタ! 終わったようだな」


 「あ、はい! 父上様! 今回はこのような場を設けて頂き、誠に感謝感激雨アラレでございます! 実際、各御令嬢にお会い出来て、とても有意義な時間を過ごさせて頂きましたです! はい!」


 「それは良かった。しかしどうだ? 素敵な女性ばかりで、逆に選べなくなり混乱させてしまったのではないか?すまんな」


 本気で言ってんのか?

 お門違いな謝罪はいらないんだが?


 「いやまさにそれなんです!びっくり仰天玉手箱! 開けて見ないと選べない! アッと驚く為五郎! まさに父上様の思惑通り! 私に対しての思考洞察力に感服致します!」


 「おいおい、あんまり持ち上げるのは勘弁してくれよ。息子とは言え照れるであろう。ガハハハ!」


 俺達親子は馬鹿だと気付いた。

 

 あと、ガハハ笑いやめてくれないか? 父上様。

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