第2話 一日目 午後九時 早まる期限

 コン、ガチャ


 「おい! パンナコッタ!」


 ノックの意味ないのではないか? と思うくらい、ノックと同時に俺の部屋のドアを開放する父上。


 そして、国王らしからぬ身長185センチ、体重100キロ、上半身裸体、バリバリの筋肉……特に大胸筋をピクピクと動かしながら、相変わらず闇の魔王が如くの形相でツカツカと入室。


 俺は風呂上がり上半身下着、下半身裸体の、親子足してワンセットと言う対象的な姿で直立不動。


 「あ、はい! な、何でしょうか? 父上様」


 「お前、今日まさか庶民街に出かけたりしてないだろうな?おい!」


 「しょ、庶民街ですか? いや、まさか、そんなバナナ! ハハッ……」


 危なーっ!

 帰宅は一時間前。すぐ入浴したのもファインプレーだった!


 「なら、いいがパンナコッタ! お前リストの吟味は続けているんだろうな?」

 

 「も、もちろんです! はい!」


 あのリストで一日吟味だと?

 これはこれは、おかしな理論ではないでしょうか父上様?


 「言い忘れていたが、明日の夕方までに決めなければ、お前は追放だ」


 「え?! つ、追放?!」


 「当たり前だ。ワシの我慢も限界だ」


 「…………」


 俺と父上は物心ついた時から、あまり話した記憶がない。

 国王で大魔道士でもある父上はずっと、戦地や他国に飛び回っていたからだ。

 俺の育児はもっぱら母上だ。

 母上の身長は145センチ。

 俺はどうやら小柄な母上の遺伝子を強く受け継いでいる様だ。


 「と、ところで父上……」


 「なんだ?」


 「リストの事なんですが……」


 「おい! お前はこの期に及んでまだ文句があるのか!」


 「あ、いえ! 滅相もございません!」


 駄目だ。

 もう少し詳しいリストが欲しいなんて言えないぞ。リストに文句を付けていると言う反抗に捉えられたら、たまったもんじゃない。


 「おい! パンナコッタ! お前、自分の今の立場をわかっているのか?」


 「はい! 重々承知しておりますです、はい!」


 「じゃあどう言う事か、己の口で言ってみろ!」


 「はい! 本来は二十で結婚、二十二で次期国王として世間に正式にお披露目しなければならない立場でありましたが、遊び呆けてはや二年、父上様のありがたい指導により改心した次第でございます」

 

 このセリフは、先日の父上様の怒り限界突破事件の日に、五十回は言わされたからな。完璧だ。


 「パンナコッタ! それでお前はどの令嬢にするんだ?」


 ちょっと待って下さい?

 期限は明日ですよね父上様?


 「大事な将来の事、そして父上様の様な立派な国王になる為に迎えるお妃……しっかりと吟味熟成させ結論を出したいと思っている次第であります! はい!」


 「よかろう。それじゃあ明日の十五時まで待ってるからな。じゃあな」


 ガチャ


 もしも〜し!

 父上様?

 期限は十七時、夕方五時でしたよね?

 早まってないですか?


 言える訳ない。

 

 俺は父上が退室後、縄をツタって部屋から抜け出し、夜の庶民街に消えて行った。


 今日二回目の、独身最後の晩餐の為に。



 


 



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