第5話 ガサガサ
ガサガサ
読者の皆さんはガサガサをご存じだろうか。ガサガサとは、一言でいうならば網で水辺の生物を捕まえることである。そんなガサガサにまつわる話だ。
Iさんが小学生だった頃の体験談だ。
Iさんは当時、近所に住んでいたHくんととても仲が良かったそうだ。学校のクラスも同じで毎日のよう一緒に遊んでいた。
小学校四年生の夏休みのことだった。IさんとHくんの二人はやはり毎日のように二人で一緒に遊んでいた。二人はほとんど毎日、網とバケツを持って近所の川に遊びに行っていた。その川でガサガサをしていたのだ。
水草の茂みに網を突っ込んでガサガサと動かす。網を水から上げるとその中には小さなエビやヤゴなどの水生昆虫がたくさん入っているのだった。ときには小魚が入っていることもあった。
捕れた生き物をバケツに入れて一通り観察すると逃がしてやり、また別のところでガサガサをする。そんなことを二人で日が暮れるまでずっとやっていた。
毎日同じ場所だとさすがに飽きてくるので、二人は少しずつ川の上流に向けてガサガサをする場所を移動していった。
夏休みに入って何日目かのある日、二人はいつものようにガサガサをしに川へ行っていた。
二人で川に網を突っ込んでいると、Hくんが何かを見つけたらしくIさんを呼んだ。
IさんがHくんの方へ行くと、Hくんは網の中を見せてきた。そこには動物の頭らしき小さな骨があった。
「何の骨だろう?」
「小さいし、ネズミじゃない?」
この時、二人は怖いと思うよりも好奇心が勝っていた。
「身体の骨もあるんじゃない? 探してみようよ」
そう言ったのはHくんだったか、Iさん自身だったか、とにかく二人は他の骨を探すことにした。
骨が出てきた辺りに網を突っ込んでガサガサしてみたが、骨らしきものは見つからなかった。
結局その日はHくんが見つけた小さな頭の骨以外におかしな物は何も見つからなかった。
次の日、二人はまた少し上流のほうに場所を変えてガサガサをした。Iさんはこんどは自分でHくんよりも先に骨を見つけてやる、と意気込んでいた。Hくんも言葉にこそしなかったがただ生き物を捕るだけのことに飽きていたようで、やはり骨を探していたようだ。
そしてIさんが網を上げるとそこには骨があった。しかしそれは昨日見つけた動物の一部ではなかった。また頭の骨だった。それも昨日見つけたものよりも少し大きな骨だった。
「また頭の骨だ」
「なんだろう、猫かな?」
Hくんが言うとおりそれは猫の頭ほどの大きさだった。
二人は昨日と同じように他の骨を探したが頭の骨以外は見つからなかった。
Iさんは少し気持ち悪いな、と思ったがHくんはさらに好奇心をかき立てられたようだった。
次の日も二人でガサガサに行くと、また動物の頭の骨だけが見つかった。前回よりもまた少し大きな骨だった。三度目にしてIさんははっきり怖いと感じた。
Iさんは両親に頼み込んで祖父母の家に行く予定を早めてもらった。そしてしばらく一緒に遊ぶことができないとHくんに伝えたのだった。Hくんは一人でガサガサを続けると言っていた。
「何か見つけたら、帰ってきたときに教えてあげる」
Hくんはそう言って笑っていた。
祖父母の家で過ごすうちにHくんと見つけた骨のことも忘れてしまっていた。Iさんがそのことを思い出したのは祖父母の家から帰る前日の夜だった。家に帰るとまたHくんが遊びに誘ってくるだろう。きっとまたガサガサをするのだ。そしてまた骨が見つかったら、と思うと不安で仕方なかった。
しかし家に帰ってもHくんが遊びに誘ってくることはなかった。Iさんは少しほっとしたが、次の日もその次の日もHくんから遊びに誘われることはなかった。
IさんはHくんのことが心配になってきた。思い切ってHくんの家に行ってみると、彼は風邪をひいてしまい寝込んでいるという。
それから数日後、風邪から回復したHくんがIさんを訪ねてきた。まだ回復しきってはいないのかHくんはなんとなく顔色が悪いようだった。
Hくんはガサガサをしに行こうとは言わなかった。近所の公園に行き、ブランコに並んで腰掛けた。Hくんはずっと何か言いたそうな気配をみせつつも口を開かなかった。
「Hくん、どうかした? 何かあったの?」
IさんはHくんに尋ねた。Hくんしばらく黙っていたが、ついに口を開いた。
「じつは・・・・・・」
Hくんはゆっくりと話し始めた。
HくんはIさんが祖父母の家に行っている間も一人でガサガサを続けていた。ガサガサをしに行く度に動物の頭の骨が見つかったのだそうだ。見つかるのは決まって頭の骨だけで他の部位の骨は見つからなかったという。毎日頭の骨ばかりが見つかるのでHくんもさすがに気味が悪く感じたそうだ。
「でも、やっぱり気になって毎日ガサガサしに行ってたんだ。それで・・・・・・」
Hくんはそこまで話して唐突に口を閉じた。Hくんは大きく目を見開いて何もない一点をじっと凝視していた。
「Hくん? ねえ、どうしたの?」
Iさんは何度もHくんの名前を呼んで肩をゆすった。何度も呼びかけてやっとHくんは、ハッと我に返ったようだった。
「ごめん、やっぱり帰るね」
Hくんはそれだけ言うとIさんの返事も待たずに走り去って行った。
それから夏休みの間Iさんは一度もHくんには会わなかった。
夏休みが終わり学校へ行くと、クラス担任の教師からHくんが転校したと聞かされた。担任に聞いてもHくんの転校理由は詳しく教えてはもらえなかった。
Hくんの身に何が起きたのかは今でもわからないそうだ。あの川でガサガサをしていて何かがあったのだとIさんは確信しているようだった。
いまでもその川でガサガサをすると動物の頭の骨が見つかるかもしれない。
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