第4話 かえる
かえる
祖母が脳卒中で倒れたと聞き私は慌てて実家に帰った。
祖母はほとんどベッドに寝たきりになっていた。いくつか後遺症が残ってしまい、上手く足が動かせず、一人での歩行が困難になってしまったそうだ。さらに言葉も上手く話せなくなってしまい、どうしても発音が不明瞭に鳴ってしまうらしい。これらの後遺症のせいか今ではほとんど家の外に出ることはなくなり、家の中でも多くの時間を自室のベッドの上で過ごすようになったのだと母から聞いた。
あまり長く仕事を休むこともできないのでこの時実家に滞在するのは三日間だけということにしていた。
それは滞在二日目のことだった。その日は両親がそれぞれ出かけていて、家には私と祖母の二人だけだった。
私が居間で一人、テレビを見ていると祖母の部屋から物音が聞こえた。様子を見に行くと祖母はベッドから落ちてしまったらしく、床に半ば寝そべるような格好になっていた。
一人では立ち上がれないようだったのでわたしは祖母を助け起こしベッドに寝かせようとした。
肩に手をかけた時、祖母はようやく私が部屋に入ってきたことに気がついたようだった。まじまじと私の顔を見つめながら祖母は部屋の隅にある仏壇を指さして何事かをつぶやいた。
発音が不明瞭なうえに声が小さかったため、なんと言ったのか聞き取れなかった。何度か聞き返してようやく聞き取れた内容は、全く意味がわからないものだった。
祖母は仏壇を指さしながら「かえる、かえる」と何度も繰り返していたのだ。
私はなんとなく気味が悪くなり、祖母をベッドに寝かせるとさっさと居間に戻ってしまった。
それからしばらくして、祖母が亡くなったと連絡があった。
仕事が忙しかったこともあり、私は前回実家に帰った時のあの出来事のことはすっかり忘れていた。
葬式が無事に終わり、祖母の部屋を整理している時だった。仏壇の上に何かがあることに気がついた。足の悪かった祖母が仏壇の上に物を置くことなどできなかったはずだ。足を悪くする前でもそんなことをしたりはしないはずだ、もちろん両親も私も仏壇の上に何かを置いたりはしない。
私は気になってそれを手に取ってみた。それは黒い何かの欠片のようだった。触った感触はまるで卵の殻のようだった。
この感触からわたしあの出来事を思い出した。
あの時祖母は仏壇の方を指さして不明瞭な発音であったが確かに「かえる」と繰り返していた。
あの時、この仏壇の上で何かが孵ったのだろうか。
祖母の死に不審な点はなかったと聞いているが、この黒い欠片と何かが関係があるような気がしてならなかった。
もしここで何かが孵ったのだとしたら、それは今どこにいるのだろうか。
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