第7話 権蔵と職人

俺が越後を抜け堺を目指していた頃・・・


「何故だ!何故これほど質が下がっているのだ!」

旧越後屋が抱えていた職人に作らせた武具の質が下がっており、海屋が作っている武具と大差が無くなっていた。


越後屋が取扱っていた武具は切れ味、耐久性共に優れており、価格こそ少し高いものの、それでも手に入れる価値がある一品であった、だが今出来上がっているものは以前の物に到底及ばない。


「お前達!手を抜いているな!こんな物を作るなら給金は払わんぞ!」

「俺たちゃ手を抜いていない!越後屋に納めていた物と同じように作った!

悪いのは権蔵さんの所の鉄の質が悪いせいだ!」


越後屋では角さんが厳選した鉄を使っており、それを職人達に渡して各種の武具を作成していた、だがその鉄の仕入先は職人達に知らされておらず、職人達も長年使っていた事もあり別段気にしていなかった。


「くそっ、どうなっているんだ!誰か越後屋の帳面は持っていないのか!」 

権蔵が確認するものの誰も帳面の在り処を知るものはいない、それもそのはず帳面は助さんが管理しており、身を隠すと共に持ち出され誰一人その行方を知らないのである。


「おい、番頭の助は何処にいる!」

「助さんなら・・・そういや姿を見ないな。」

「ああ、おら達も会わせる顔もねえからな・・・」

職人達も越後屋を裏切った事に負い目があり、越後屋への忠誠に厚い助さんに会えば何を言われるかわかったものじゃない、これまで会わなかった事を幸いとばかりにあえて探すような事はしなかったのである。


「くそっ!どうしたらいいんだ、こんな物を納めれば長尾様に斬られかねない・・・

お前達死ぬ気で作れ!さもなくばお前達も長尾様に斬られることになるのだぞ!」

権蔵は激を飛ばし、職人達に再度武具を作らせる、だがどれだけ手をかけても出来上がる物は少し良くなる程度であり、求める物に届くことは無かったのだった・・・

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