第6話 出立

「利平様、昨晩みんなで考えたのですが堺に出るのはいかがでしょう?」

「堺か、確かに商売が盛んだと聞くな。」

助さんの提案に俺は考える、商売が盛んな場所なら俺達が再び再起する事も出来るのでは無いか・・・

「はい、それに長尾の影響が強い場所だと再び邪魔が入る可能性があると思います。」

「そうだな、堺を目指すのも良いかも知れない、それに角さんの武器なら望む者も多くいるだろう。」

現在いる仲間で売れる商品が作れるのは鍛冶師の角さんだけだ、堺に着いた時の最初の商品は角さんを頼りにしようと思う。

その為にもどこかで資金を調達する必要があるな。


「利平様、計画をたてるのは大事ですがまずは越後を離れましょう。」

「しかし、無計画に堺に行ってもどうにもならないのでは無いか?

越後ではそれなりに顔は効く、いくらか仕入れる事が出来るものもあると思うのだが・・・」

「それより追手の危険がございます。」

「そこまでするのか?長尾景虎はそこまでする男に見えなかったが?」

「利平様、貴方の欠点は人の悪い所が見えない所です、利平様がここまで身を落としてしまったのは誰のせいかお考えください。」

「わかったよ、助さん。

商売のネタは道中考えるとして出立を急ぐか・・・」


「利平様、準備は出来ております。」

よく見るとすでに全員旅支度を終えている。

「八兵衛、お前も行くつもりなのか?」

八兵衛は難所の前で店を構えそれなりに繁盛している店主である、匿ってくれているだけでもありがたいのだが、まさか同行するとは思っていなかった。


「利平様、私も越後屋の一人にございます、越後屋を貶めた国で働くなど真っ平ごめんです。」

「八兵衛・・・」

「さあ利平様、出立を急ぎましょう、潮の引いたタイミングに合わせて動かねば大変な事になります。」

俺達は八兵衛に急かされながら国境の難所親知らず子知らずに挑む事になるのである。


「厳しい場所とは聞いていたが・・・」

親知らず子知らずとは険しい山が海岸線まで伸びており、旅人は海岸の断崖絶壁に沿って僅かにある浜辺を通るしか無い北陸一の交通の難所である。

「利平様、お気をつけください、大波が来ればひとたまりもありません、急ぎ抜けましょう。」

助さんの言う通り僅かにしか無い浜辺では逃げ道がほとんど無い、大波が来ない事を祈りながら道を進むしか無い。


「雪、大丈夫か?」

浜辺に足を取られながらも全員で先に進む。

「利平さま私は大丈夫です、それより利平様こそお疲れになられておりませんか?」

「私も大丈夫だ。」

「無理はなさらぬように、さあもう少しです。」

俺の手を引き雪は進んで行く。


途中、波が俺達を襲う。


「雪!!」

俺は雪が流されないようにを抱きしめ波を耐える。

「り、りへいしゃま・・・」

雪は顔を真っ赤にして俺にしがみついていた。

「雪大丈夫だったか?」

「だ、だいじょうぶなような、だいじょうぶじゃないような・・・」

雪はモジモジしながら、俺の質問に答えたような返事を返す。

「雪大丈夫なのか?」

俺は雪の顔に顔を近づけ様子を確認する。

「はひぃ〜だいじょぶです。」

雪は茹で上がったタコのようになっていた。


「利平様、見ていて面白いのですがここは少々危険な場所にございます、先を急ぎましょう。

雪、ご褒美を貰えて嬉しいのはわかるが少し頭を冷やせ。」

俺と雪が動かない様子を見て助さんがやれやれといった感じで話しかけてくる。


「助さん!!」

雪は助さんにくってかかるが元気になったようで顔の赤いのも収まっているようだった。


「雪、大丈夫そうで何よりだ、だがはしゃぐ前に先を急ごう。」

「うー利平さま、わざとですか!わざとですよね!」

雪は少し不満そうにしながらも俺の手を握り先に進むのであった。

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